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第5話 一番幸運だったのは誰?

 どうやら『すごろくな国』のすごろくは想像以上に長いらしい。

 もうサイコロを振る順番が何周したのかも覚えてない。


 ここに来るまで私たちは『辛いものが食べられるマス』『木の匂いがすごいマス』『売地のマス』などに止まってきた。


 私は『魚屋さんのマス』でシェフィーを恐怖に陥れたり、『占いのマス』で高額商品を売りつけられたり、『配達のマス』で4マス戻されたりしてきた。


 ちなみにミィアは大量のモッチュに包まれている。


 それでも、なんとか自宅はゴール手前までやってきたようだ。

 シェフィーが当てた『イヌ語を頑張る人のマス』のイヌ語を頑張る人は、私たちに教えてくれる。


「もうすぐだワン。あと3マスでゴールだワン」


「おお~! うまくいけば、次のサイコロでゴールだ~!」


「やっと町を脱出できますね」


 喜びの声と深いため息が響くリビング。

 そこにルフナの報告が加わる。


「驚いたな。ショクの勇者がいるぞ」


「え!?」


 開いた光の壁の向こうから、ポニテさんとバックパッカーさんがやってくる。

 たしかに、あの2人はシキネとクロワに間違いない。

 何やらワーワーしている2人も私たちに気づいた。


「この建物は……ジュウの勇者だな!」


「すごい偶然じゃい」


 本当にすごい偶然。そして嬉しくない偶然。

 嬉しくない理由は簡単だ。

 シキネはこちらを指さし大声で言う。


「おい! この前はよくも逃げたな! 今度こそ……今度こそアタシと勝負だ!」


――イヤです。


 どうしてそんなに私たちとの勝負にこだわるんだろう?

 今の所、顔を合わせるたびに勝負を挑まれてるよ。


 ただ、今回もクロワが助け舟を出してくれた。


「待つんじゃい。ウチらはスタートに戻らないといけないんじゃい」


「あ! そうだった! じゃあ、アタシたちがゴールしたら勝負だ! それまで髪を長くして待ってろよ!」


 謎の捨て台詞と一緒に、シキネとクロワは遥か後方に去っていった。

 私は思わずつぶやいてしまう。


「スタートに戻る? なんで?」


 すると、イヌ語を頑張る人の説明がタイミング良く続く。


「よく聞くワン。ゴール手前の2マスは『最初に戻るマス』だワン。しかも、ぴったしゴールしないとマスを戻るワン。さっきの2人もそれで『最初に戻るマス』に当たったワン」


 とんでもない情報が飛び出してきた。

 『すごろくな国』の迷惑な遊び心に対し、シェフィーたちは目を丸くする。


「それってつまり、サイコロで3以外を出したらスタート地点に戻るってことですよね!?」


「もう一回遊べるってことだね!」


「よっぽど町を観光してほしいんだな」


「それにしてもゴールの条件が厳しすぎますよ!」


「もしかすると私たち、本当に町に閉じ込められちゃうかもしれないわね」


 不穏すぎるスミカさんの言葉。


 私たちが町を抜け出すには、サイコロを振って3の目を出すしかない。

 だからこそ重要なのがサイコロを振る人の運だ。


「次にサイコロを振る人は――」


「残念だが、ユラだ」


「もうダメです! わたしたちは『すごろくな国』に閉じ込められてしまいました!」


「すごろく2周目は、どんなマスに止まるのかな~」


 シェフィーは絶望の淵に立たされたみたいに真っ青な顔をした。

 ミィアに至っては、スタートに戻る前提でワクワクしている。

 そんなに私の運が悪いと言いたいのか。


「みんな、さすがにひどいと思うんだけど」


「でもでも! ユラさんは不幸マスしか当ててませんよ! 実績抜群ですよ!」


 おっしゃる通りです。正直、私も『最初に戻るマス』を当てる気しかしません。

 ただし、スミカさんだけは優しく微笑んでいた。


「まあまあ、結果が出るまでは、何事もどうなるか分からないものよ。ほらユラちゃん、サイコロを振りましょ」


「運のいいミィアが代わりにサイコロを振れば――」


「それはダメ! ユラユラらしくない! ルール無用のゲームは面白くないよ!」


「……そうだよね」


 ゲームに対するミィアの立派な信念に、私は背中を押された。

 私は地面に転がっていたサイコロを拾い、そして目をつむり――


「3! 出ろ!」


 思いっきり振られたサイコロは、私たちを見回すように宙を舞う。

 数分間にも感じられる一瞬を経て、ついにサイコロが地面に落ち、転がり、動きを止めた。


 結果を見るのが怖い私は目をつむったまま。

 耳には結果を知ったシェフィーたちの声が入り込む。


「こ、これは……」


「おお~」


「そんな……」


「フフフ」


 これはどっち? 不幸? 幸運?

 答えを教えてくれたのはシェフィーだった。


「すごい! ぴったり3が出ました! ユラさんの逆境を乗り越える力、すごすぎです!」


 最後の最後で大当たり。


 放心した私と喜ぶみんなを乗せ自宅は町を進み、光の壁を超えた。

 光の壁を超えれば、目の前に広がるのは西日に照らされた森の光景だ。


「やった~! ゴールだよ~!」


「喜ぶミィアの顔……ムフフ、『すごろくな国』に来て良かった!」


「いくつかの不幸マスは別として、面白い国でしたね」


 なんだかんだと『すごろくな国』を楽しんだみんなの感想がリビングを飛び交う。

 スミカさんは優しく私の頭を撫でてくれた。


「やっぱり、最後に頼りになるのはユラちゃんよね」


 照れくさくなった私は、反射的にスミカさんから視線を外してしまう。


 代わって視線に入り込んだのは、すごろくを終えて笑顔を浮かべるみんな。

 楽しいすごろくの時間は過去のものだ。


――みんなとの楽しい時間の終わりって意味では、ゴールのマスって不幸マス?


 そんなことを思っていると、家の外から声が聞こえてくる。


「「「ゴール到着、おめでとうございます!」」」


 入り口にいた三人組とは違う三人組が自宅の前にいた。

 三人組の1人は台本通りっぽいことを尋ねる。


「旅の方、途中で何匹のモッチュと出会いましたか?」


 この問いに、ミィアは大量のモッチュを抱いてテラスに飛び出した。


「いっぱい会ったよ~! ほら~!」


 モッチュに埋もれたフワフワなミィア。

 三人組はアゴが外れそうな勢いで驚きの声をあげた。


「おお! こんなに多くのモッチュを集めた人ははじめて見た!」


「というか、町のモッチュ全部と出会ってるんじゃ!?」


「大変だ! 普通のプレゼントじゃ足りない数だ!」


 驚くだけ驚いて、三人組は私たちに言う。


「ここ『すごろくな国』では、モッチュを獲得した方にモッチュのぬいぐるみをプレゼントしているんです!」


「旅の方は前代未聞! すべてのモッチュを集めたので、特別にモッチュのぬいぐるみ全色セットをプレゼントしちゃいます!」


「これだけ運がいい人、はじめて見ましたよ!」


 驚きの表情のまま、三人組は色とりどりのモッチュのぬいぐるみとミィアが抱く大量のモッチュを交換した。

 本物のモッチュは白い子しかいないのに、なぜぬいぐるみは色とりどりなのかは気にしないようにしよう。


 ぬいぐるみを受け取ったミィアと、それを横で見ていたシェフィーは大喜びだ。


「わ~い! ぬいぐるみさんたちだ~!」


「モッチュのぬいぐるみ……かわいすぎです! モフモフです!」


 2人の笑顔に私もスミカさんもルフナもノックアウト。


 モッチュ獲得マスばかりに止まって、ミィアはたくさんのぬいぐるみを手に入れた。

 やっぱり一番幸運だったのはミィアだったらしい。

今回で第9章は終わり、次回からは番外編『ある空き家の話』がはじまります! どうぞ続きもご覧になってください!

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