第3話 賽は投げられた
鬱蒼とした森を進むこと約2時間。
道の先に、大きな看板が掲げられた町の入り口らしきものが見えてきた。
シェフィーは地図を確認し、ルフナは首をかしげる。
「地図を見る限り、あそこが『すごろくな国』の入り口ですね」
「入り口は見えるが、黄色い光の壁のせいで町の様子が伺えないぞ」
「あの光の壁は結界の一種だと思います。もしかして、あまり他人を受け付けていない国なのかもしれません」
「まるでユラだなぁ」
「はい、まるでユラさんです」
反論の余地が一切ないので、私は黙っておく。
ミィアはシェフィーとルフナの間に体をねじ込み、ワクワクを隠さず言った。
「早く行こうよ~、待ちきれないよ~」
「でもミィア様、もし他人を拒否している国だったら、無理に国に入ろうとすると迷惑をかけてしまうかもしれません」
「入り口まで行って、入っちゃダメって言われたら、ミィアも諦める! たぶん!」
「それで許される穏健な国ならいい。だが、近づいただけで攻撃を仕掛けてくる可能性もある」
「大丈夫だよ! スミカお姉ちゃんとルフナがいるもん!」
「だからと言ってミィアを危険な目に――」
「ミィアはルフナを信じてる!」
「ほわ! ミィアが私を信じて――任せろ! 行くぞ不死鳥の剣! ミィアのために『すごろくな国』へ突撃だ!」
「突撃はしないでください!」
これは、話がまとまったということでいいのかな。
話がまとまったなら、やることは決まりだ。
微笑ましくシェフィーたちを眺めるスミカさんに私は言った。
「ということで、町の入り口まで行こうか」
「フフ、分かったわ」
そうして自宅は『すごろくな国』への入り口にやってきた。
入り口に到着しても、やっぱり光の壁に遮られて町の様子は伺えない。
窓から見えるのは、手作り感満載の飾り付けと大きな看板だけ。
看板の文字を読み上げたのはシェフィーだ。
「『すごろくな国へようこそ! ここがスタート地点です!』って書いてありますね」
「スタート地点?」
「あら、町の人が出てきたわ」
自宅の前には、ピエロみたいな格好をした男女が3人。
3人はどこかソワソワしながら顔を合わせている。
「ちょっとちょっと、あれってジュウの勇者じゃない?」
「噂の移動要塞と氷の女王!?」
「今日は豪華なお客さんが続くな」
こんな場所にまで私たちの変な噂が届いているなんて、嬉しいような嬉しくないような。
私たちが微妙な反応を示していると、3人は謎のポーズを決めた。
謎のポーズを決めたまま、台本を読み上げるように口を開いた。
「ようこそ旅の人! ここは『すごろくな国』です!」
「この国はサイコロを振ってマスを進んでいく国となっています!」
「さあサイコロを振って、ゴールを目指してください!」
そう言って、三人組の1人が石ころを床にばらまき、魔法の杖らしきものを振る。
すると光り輝いた石ころが消え、代わりにサイコロが現れた。
あれが召喚魔法ってやつかな?
三人組はサイコロを手に取り声を合わせる。
「「「さあ! このサイコロを使って、すごろく開始です!」」」
とは言っても、三人組は自宅のシールドに阻まれてサイコロを私たちに渡せない。
これを機会に私はみんなに言う。
「これは私の直感なんだけど、たぶんこの町、すごく面倒な町だと思うよ」
「どういうことかしら?」
「古今東西のファンタジーものに登場するこの手の町は、途中下車できない町なんだよ。つまり、『すごろくな国』に足を踏み入れたら、ゴールするまで町を出ることはできない」
「た、たしかに言われてみるとそんな気がしてきました……」
ゴクリと唾を飲み込むシェフィー。
けれどもミィアとルフナ、スミカさんはあっけらかんとしていた。
「ゴールするまで町を出られなくてもいいよ~! だって、ゴールするまでずっとすごろくで遊べるんだもん!」
「私はミィアが楽しんでいる限り、いつまでもこの町に閉じ込められたって構わないぞ」
「変わった国への好奇心には勝てないわ」
だったら、まあいいか。
仮にゴールするまで町を出られなくとも、家でゴロゴロすることに変わりはないし。
――何かやらなきゃいけない大事なことがあった気がするけど、明日でいいや。
「サイコロ、取ってくるね~! ルフナ、行こ!」
「ああ」
パーカー姿のミィアと下着姿のルフナは家の外に出た。
下着姿のイケメン女性に三人組は唖然としているけど、ルフナは気にしない。
サイコロを受け取ったミィアとルフナは、自宅に帰ってくるなり私たちに言う。
「ねえねえ、サイコロを振る順番、決めよ~!」
「順番を決める方法なら、昨日のじゃんけんがいいと思うぞ」
「じゃあ、早速じゃんけんよ。はい、じゃんけん――」
いきなりはじまるじゃんけんに、私とシェフィーは焦って参加。
「ぽん!」
少しして、結果が出揃う。
サイコロを振る順番は、ミィア、ルフナ、スミカさん、シェフィー、私の順に決定だ。
「またユラさんが最後ですね……」
「問題ないよ。大事なのは出た目と止まるマスだから」
「おお~、さすがユラユラ師匠の言葉だ~」
「でもユラさん、出る目も止まるマスも不幸が多いような気がします」
「それも問題なし。今回は団体戦だから、みんなが私の不幸を埋め合わせしてくれるし」
「不幸なことは否定しないんですね」
私だって本当は否定したいんだけど、事実だから仕方がない。
とにもかくにも、『すごろくな国』でのすごろく開始だ。
サイコロを持ったミィアは、八重歯をのぞかせ勢いよく腕を振る。
「最初はミィアだよ! ええい!」
投げ飛ばされたサイコロは宙を舞い、壁にぶつかり、ソファの上に転がった。
出た目は6。
直後、自宅の行く手を阻んでいた光の壁が消え、町への道が拓けた。
道を進むと、再び行く手を阻むような光の壁が自宅の前に。
今度は自宅の後ろにも光の壁が現れ、私たちは光の壁と建物に閉じ込められてしまった。
「なるほどなぁ。結界と建物に囲まれたこの空間が1マスということか」
「サイコロの出た目によって、少しずつ町を進んでいくんですね」
「みたいだね」
「このマス、どんなマスなのかな?」
「見て。誰かが家の前にいるわよ」
スミカさんの言葉でみんなが外に注目。
家の前にいたのは、優しそうなおばあさんだった。
おばあさんは手にフワフワの何かを持って、私たちに話しかける。
「旅の人たち、おめでとう。このマスはモッチュをプレゼントするマスだよ」
「モッチュ?」
謎の単語が出てきたけど、その正体はすぐに分かった。
どうやらおばあさんが持っているフワフワの何かがモッチュらしい。
よく見るとモッチュはモゾモゾ動いている。
これにはミィアも興味津々だ。
「モッチュ、もらってくるね~!」
ということでモッチュをもらってきたミィア。
ミィアの腕の中で、モッチュはフワフワモゾモゾ動いてる。
なんだかよく分からないけど、大きな綿菓子みたいでかわいい。
シェフィーもモッチュに心奪われてるし、モッチュがもらえるマスは幸運マスだったかな。
さて、次はどんなマスに止まるんだろう。