第1話 夕食後のすごろく大会
テイトを出発してから2日。
スミカさんお手製の美味しすぎる夕食を食べ終えたときのこと。
唐突にミィアが言った。
「みんなで遊ぼうよ~!」
「いいけど、何する? ワイバーン・クエスト? モンスター・バスター? コンバットフィールド? それとも幕末無双?」
「ううん! これ!」
ミィアが手に取ったのは、大きな箱だった。
箱の表紙には『三国志すごろく』と書かれている。
「うお、すごく懐かしいものが出てきた。どこで見つけてきたの?」
「ルフナとかくれんぼしてたら、押し入れで見つけた~!」
「これって、ユラちゃんが小さい頃にお母さんと遊んでたすごろくよね」
「そうだよ。今思うと、お母さんはなんで3歳の私とこれで遊んでたんだろう……」
題名の通り、このすごろくは三国志をモチーフにしたもの。
曹操とか劉備とか諸葛亮とか糜芒とかが出てくる、あの三国志だ。
3歳の女児が楽しむようなすごろくじゃないと思う。
いや、楽しかった思い出しかないけどね。
私が過去を懐かしむ一方、みんなはすごろくに興味津々だ。
「表紙の絵が貫禄のある渋い絵ですけど、面白そうです!」
「ねえねえ~、みんなで遊ぼうよ~!」
「私はミィアに賛成だぞ。むしろ、ミィアの提案に反対するわけがないぞ」
「実は私、このすごろく参加してみたかったのよ」
なんだかみんなやる気満々だった。
私も久々に三国志すごろくを遊んでみたい気分。
「じゃあミィアの案を採用。みんなで遊ぼっか」
「やった~!」
ということではじまった三国志すごろく。
じゃんけんの結果、ミィア、スミカさん、シェフィー、ルフナ、私の順でサイコロを振ることに。
最初の方はマスも優しいので、特に大きなハプニングはなかった。
ちなみに、私とスミカさん以外は日本語が読めないので、マスの指示は私が読むことになっている。
「ルフナ、黄巾の乱での活躍を褒められる」
「悪くないマスだな」
「次は私だね」
私はテキトーにサイコロを振った。
出た目は2。
「張飛が役人を殴った。1回休み。え!?」
「次はミィアだよ~!」
不幸なマスにショックを受ける私に構わず、ミィアが意気揚々とサイコロを振る。
出た目は5。
「虎牢関で華雄を討ち取る。1マス進む」
「やった~!」
関羽っぽいミィアの駒はとんとん拍子でゴールへと近づいていった。
ミィアの次はスミカさんの番だ。
ころころと転がったサイコロは、4を上にして止まる。
「スミカさん、曹操が檄を飛ばす」
「フフフ、天下統一を狙っちゃうわよ」
まるで曹操みたいに胸を張るスミカさんだけど、こんな優しそうな曹操はどこにもいないだろう。
優しすぎる曹操の隣で密かに天下統一を狙うのはシェフィーだ。
シェフィーは願いを込めるようにサイコロを振った。
出た目は3。
「シェフィー、猫と遊ぶ」
「三国志を知らない私にも、このマスが三国志と関係ないことは分かります!」
こんな変なマス、あったっけ?
とはいえ、乱世にも平和な時間は必要だよね。
その後もこんな感じですごろくは続いた。
スミカさんとルフナは常識的なマスに止まる。
一方でミィアの止まるマスはラッキーマスばかり。
例えば『文醜と顔良を討ち取る。2マス進む』とか『周泰を討ち取る。1マス進む』とか『夏侯淵を討ち取る。1マス進む』とか。
――なんか討ち取ってばっかりだね。ミィアはリアル軍神?
対照的なのは、アンラッキーマスばかり止まる私だ。
例えば『呂布が言うことを聞かない。1回休み』とか『赤壁で大敗。2マス戻る』とか『孫権が同盟を破棄。1マス戻る』とか。
ここまで不幸続きだと、逆にすごいと思う。
乱世で悪運は大事。
ついでにシェフィーが止まるマスは平和なマスばっかりだった。
例えば『森を探検』とか『市場で美味しいもの発見』とか『空を眺めて昼寝』とか。
これだけ見ると三国志すごろくとは思えないよ。
すごろく開始から約1時間。
長いすごろく対決も終盤に差し掛かってきた。
「今度は私の番。出た目は3だね。ええと、街亭で敗北、泣いて馬謖を斬る。1マス戻る」
「あ! ユラさんがたまに口にする、泣いて馬謖を斬るです!」
「そうか、元ネタはここだったのかぁ」
「また馬謖さんが斬られちゃったよ~!」
「そうですね。馬謖さんは何度ユラさんに斬られるんでしょうか」
運命的な馬謖との出会いに私は涙目だ。
本当に泣いて馬謖を斬った私をシェフィーが慰めてくれている間、ミィアはサイコロを振る。
「えい!」
「ミィア、馬岱がここにいた。1マス進む」
「おお~! もうすぐでゴールだ~!」
「なんだか、シェフィーさんの運が良すぎる気がします」
「だよね」
「当たり前だ。なんせミィアは、幸運の女神様より上位の存在だからな」
「ちょっと何を言っているのか分からないけど、そんな気がしなくもない不思議」
もう少し女神様には仕事をしてほしい。
――まあ、楽しいからいっか。
「フフフ」
「うん? スミカさん、どうして笑ってるの?」
「今のユラちゃん、お母さんと遊んでた頃と同じ顔をしていたから、ついね」
「なっ!?」
突然そんなことを言われて、顔が熱くなってきた。
たしかに、みんなと遊ぶすごろくが楽しくて表情が緩んでた自覚はあるよ。
でも、それを指摘されると恥ずかしいよ。
「ユラさん、顔が赤いですよ? どうかしましたか?」
「え!? いや、別に! 大丈夫!」
「本当ですか?」
「ホント! 泣いて馬謖を斬ったのが悲しすぎただけだから、大丈夫!」
「それはそれで大丈夫じゃないような気がします」
照れ隠しを続けること十数分。
ついにその時がやってきた。
「ミィア、司馬炎が天下統一する。ゴール」
「やったよ~! 一番だ~!」
「うおお!? ミィア!?」
喜びのあまりルフナに抱きついたミィアと、抱きつかれて歓喜するルフナ。
うさ耳パーカーを着た女の子が、下着にパーカーを羽織っただけのイケメン女子に抱きつくという光景は、スチル写真にしてとっておきたいかわいさだ。
すごろくを眺めていたシェフィーは闘志を燃やす。
「せ、せめてわたしは二番手を目指します! 平和なマスばかり止まるわたしの実力、見せてあげますよ!」
「フフ、私も負けてられないわ!」
「もう勝ち目ないよ……」
諦めの中で続く三国志すごろく。
ところがその後、私は『陳寿が三国志を書く。ゴールまで進む』というマスに止まり、二番手を奪取することに成功した。
スミカさんとシェフィーはよほど悔しかったらしい。
私たちは三国志すごろく2回戦に突入することに。
結果、私たちは夜更かしをすることになった。