第4話 幼女帝ちゃんからの試練
お城の庭で、アルパカに乗った謎の幼女が女帝を名乗る。
いくら噛み砕いても意味不明な状況に、私は混乱中。
「女帝ってなんだっけ。幼稚園にも女帝っているんだっけ。このお城、実は豪勢な幼稚園だったりするんだっけ」
「お、落ち着いてくださいユラさん!」
「シェフィー、まさか『ツギハギノ世界』の女帝ってあの子なの?」
「そ、それは……ごめんなさい。わたしも女帝様がどんな方なのか知らないので、なんとも言えません」
「もう何が何だかだよ……」
「フフフ、またかわいい子が増えたわね」
「スミカさんはいつも通りだね」
これから私たちはどうすればいいんだろう。
おろおろとするだけの私は、結果的に幼女帝ちゃんを無視することに。
無視された幼女帝ちゃんは頬を膨らませ、アルパカの上でバタバタしながら舌足らずに叫んだ。
「どーしてなにも答えないのよ! なんでもいーから、なんか答えなさいよ! わたしが一人でしゃべってる変な子みたいじゃない!」
ドレス姿でアルパカに乗ってる幼女は変な子だと思う。
変な子への対応に困ってるうち、幼女帝ちゃんは勝手に話を進めた。
「あんたって『ジュウのゆーしゃ』よね! ってことは、『こおりのじょーおー』もそこにいるんでしょ!」
いないです。
いるのはゲーム浸りの引きこもり女子高生だけです。
あ、自分で言ってて悲しくなってきた。
「ねえスミカさん、あの子の対応、お願いしていいかな」
「もちろんよ」
嬉しそうな表情をしたスミカさんはテラスに出て、幼女帝に声をかけた。
「はじめまして。私はジュウの勇者のスミカ=ホームよ」
「ふわぁ……本物の『ゆーしゃ』だぁ……」
キラキラとした瞳でスミカさんを見つめる幼女帝ちゃん。
でも、幼女帝ちゃんはすぐにハッとしながら咳払いをする。
「コホン! やっぱり、あんたが『ジュウのゆーしゃ』なのね! おおきなマモノをドガガーってたおしてたから、そうだと思ったわ!」
「フフ、私の正体を見破るなんて、すごいわね」
「あたりまえよ! わたしは『じょてー』だもん!」
またも幼女帝ちゃんは胸を張った。
と同時、お城から絢爛豪華な人たちが庭にやってくる。
幼女帝ちゃんの隣にやってきたドレス姿の少女は、見慣れた王女様の見慣れない姿だ。
「陛下、ご無事で何よりですわ」
「あ! ミィア、来るのがおそいわ! 『ゆーしゃ』のかつやくは終わっちゃったわよ!」
「それは残念ですわ。せっかくのスミカお姉さまのかっこいい姿、見逃してしまいましたの」
完全王女様モードのミィアは、もはや私たちの知らないミィアだった。
こうなると、あの幼女帝ちゃんが本当に女帝の可能性が出てくる。
いよいよスミカさんはミィアに質問した。
「ミィアちゃん、その子が女帝さんなのかしら?」
「ええ、その通りですわ。このお方こそが、『ツギハギノ世界』の女帝様であらせられるアイリス陛下ですの」
「本当に女帝だった」
「本当に女帝様でした」
「本当に女帝さんだったのね」
どうやら私たちは女帝アイリスに出会えていたらしい。
女帝とジュウの勇者の出会いに、絢爛豪華な人たちはざわついていた。
ざわつきの中、深刻そうな表情をするのはルフナと、彼女の隣に立つ、立派な鎧にマントを揺らした大人な女性。
「まさかテイトにまでマモノが出現するとは。しかも、我ら羊の騎士団がいながら、レジェンド級マモノ『ディザスターフィッシュ』の大きなお城への侵入を許すなんて」
「ルフナ、過ぎたことを後悔してばかりでは何もはじまらん。今回の失態をいかに取り返すかを考えろ」
「分かりました、騎士団長」
イケメンな2人の会話は見ているだけで胸が高鳴る。
――お城での会話はああじゃなきゃ!
女帝が幼女だった分、騎士団はイメージ通りで何よりだ。
イメージ通りなナイトさん2人に対し、アイリスとミィアは笑顔を浮かべて言う。
「マモノにかんしては気にしなくいいわ! おかげで『ゆーしゃ』のかつやくをちかくで見られたもの!」
「アイリス陛下……!」
「わたくしも、女帝様とジュウの勇者様の仲介をする手間が省けて助かりましたわ」
「殿下……!」
ミィアの優しさにルフナがハアハアするのは想定内。
でも、アイリスの無邪気さに触れた騎士団長もルフナと同じくハアハアしている。
ふむふむ、前言撤回。ナイトさん2人も変態さんでした。
変態さんの変態度に気づかないのは、ミィアだけでなくアイリスも同じだった。
後ろからハアハア聞こえるのも構わず、アイリスはスミカさんに人さし指を向ける。
「ジュウのゆーしゃ! こおりのじょーおーはどこにいるのかしら?」
「ユラちゃんならここにいるわよ」
「え? あっ、ああ、ええと、かっ、かかっ、河越由良、です」
無理矢理にテラスに引っ張り出された私の、渾身の自己紹介。
アイリスはじっと私を見て、またも胸を張った。
「あんたが『こおりのじょーおー』なの? なんかおもってたのとちがうわね! これならわたしのほうが『びじん』だわ!」
そりゃ私はお化粧してないもん!
お化粧バッチリ幼女のかわいさに勝てるはずないじゃん!
とは言えず、私はおずおずとリビングに戻った。
勝ち誇ったような表情をするアイリスは、ミィアに促される。
「陛下、そろそろ本題を」
「そうね! わかったわ!」
無邪気な笑みを浮かべ、アイリスは腰に手をやり声を張り上げた。
「ジュウのゆーしゃ! じょてーであるわたしから、あんたに『しれん』を与えるわ!」
「試練?」
「そう、しれんよ! このしれんをこえたら、あんたをせーしきな『ゆーしゃ』としてみとめてあげる!」
「あらあら、どんな試練かしら」
「よくきけ! このまえ、てーこくの『こくほー』がマモノにぬすまれた!」
「まあ! それは大変ね!」
「そうだろ! たいへんだろ! だから、このぬすまれた『こくほー』を取りかえす! それがわたしから『じゅうのゆーしゃ』への『しれん』よ!」
「分かったわ! 私に任せなさい!」
「ふん! いいへんじだわ! さすがゆーしゃね!」
アイリスは鼻高々だ。スミカさんに手懐けられてる気がしないでもないけど。
話を聞いていたシェフィーは、胸の前で拳を握った。
「女帝様からの試練です! 正式な勇者として認めてもらうために、頑張らないとですね!」
「ええ、シェフィーちゃんの言う通りだわ」
「でもさ、アイリスは『さすがゆーしゃね!』って言ってたよね。それ、もうスミカさんを勇者と認めてるってことだよね」
「い、言われてみればそうですね……」
「まあまあ、大きな帝国の国宝が盗まれたのはたしかよ。なら、国宝を取り返してアイリスちゃんを喜ばせてあげましょ」
ちっちゃい子のために頑張る、てことね。
たまには私も、お姉さんっぽいことしてみようかな。