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第1話 すごそうな人が現れた

 自宅がジャングルをのしのし歩いてる。

 窓の外に広がるのは、大蛇やワニが戦い、探検隊が悪戦苦闘していそうな景色だ。

 テラスには謎の虫がいて、スミカさんが嫌そうな顔をしていた。


「体中に虫さんが這ってきて気持ちが悪いわ! 草まみれでくすぐったいし……シェフィーちゃん、テイトに行くのに、どうしてもジャングルを通らなきゃダメなのかしら?」


「ごめんなさい! 他の道だと遠回りになってしまうんです!」


「女帝さんを待たせるわけにはいかない、ということね」


「はい……」


「分かったわ! もう少し耐えてみる! 耐えられなくなったら、何かしらのスキルを発動して虫さんとジャングルを焼き払うわ!」


「解決法が暴君の選ぶ方法です!」


 限界直前のスミカさんと、申し訳なさでいっぱいのシェフィー。

 対照的なのは私とミィア、そしてルフナだ。


 私たちはモンスター狩りの真っ最中。

 獲物であるモンスターは、テレビの中で暴れ回る巨大アルマジロだ。

 ゲームのコントローラーを握った私とミィアは、お互いの動きを報告しあった。


「私は遠距離から頭を狙う」


「じゃあ、ミィアはモンスターを転ばせるね! えい!」


「さすがミィア。よし、モンスターが転んでるうちに体力を削るよ」


「行け行けユラユラ師匠~!」


 ゲーム内の私のキャラは、モンスターに大量の矢を撃ち込んでいった。

 モンスターが立ち上がれば、ゲーム内のミィアのキャラがモンスターを攻撃する。

 そしてモンスターは再び転ぶ。


 こんな戦いを繰り返すこと約10分。

 テレビには『討伐完了』の文字が浮かび上がった。

 ミィアは嬉しそうに飛び跳ねる。


「やったやった! 中ボスを倒したよ! これでこのステージはクリアだね!」


「うん。まさかここまで簡単に勝てるとは思わなかったよ」


「えっへん! ミィアの力を思い知ったか~!」


 胸を張ったミィアから、それとない王女様オーラが漏れ出している。

 これに私の心はときめき、ミィアをじっと眺めていた下着姿のルフナは興奮状態に。


「輝かしい! ミィアが輝かしい! 輝かしすぎて私の胸が焼けそうだ!」


「胸が焼けちゃったら大変だよ! よおし、ミィアがルフナの胸を冷やしてあげる!」


「なんということだ! ミィアが私の胸を……私の胸を!」


 下着姿で悶えるルフナ。うん、なかなか刺激の強い光景だ。

 私は恥ずかしさで顔が赤くなる前に、ゲームの世界に戻った。


 というような感じで、今日のリビングも賑やか。

 私たちの日常は平常運転だ。


 日常が平常運転なのは、何もリビングだけじゃない。

 唐突に、ハッとしたような表情でスミカさんは声を張り上げた。


「あら、マモノが近くにいるみたいだわ!」


「またマモノ? 数と距離は?」


「数は100体ぐらい、距離は数メートル先の川辺ね。ほら、木の隙間からも見えるわ」


「多いし近いね」


「ジャングルは見通しが悪いから、マモノの発見が遅れちゃうのよ」


「う~ん、レーダースキルとか解放して、マモノを早く見つけられる手段を探さないとだね」


 木々の隙間から見えるマモノを確認して、私は頭を抱える。

 シェフィーとルフナは、そんな私よりもしっかりとしていた。


「ユラさん、今は目の前のマモノをどうするかを考えるときだと思います」


「ああ、シェフィーの言う通りだ。マモノと戦うなら、先手必勝だからなぁ」


「たしかに」


 二人の言う通りだ。

 よし、マモノを倒そう。

 正確に言えば、マモノを倒してもらおう。


「スミカさん、シェフィー、ルフナ、好きに暴れていいよ。マモノを蹴散らしちゃえ」


「フフフ、勇者らしいところを見せないとだわね」


「魔法陣の準備をしてきます!」


「不死鳥の剣が暇そうにしていたから、ちょうどいいなぁ」


「おお~! みんなやる気満々だ~!」


 さっそく戦闘準備をはじめるスミカさんたち。

 ベランダにはガトリング砲が生え、シェフィーは大量の魔法陣を抱きかかえ、ルフナは不死鳥の剣を握った。

 みんなを眺めていたミィアは、ふと首をかしげ、私に質問する。


「ねえねえ、ミィアとユラユラは何するの?」


「もちろん、モンスター狩りの続き」


「そっか! ミィアたちの戦場はゲームっていうことだね!」


「よく分かってらっしゃる」


「なぜお二人が意気投合しているのか、私には分からないです!」


 シェフィーがツッコミを入れてきたけど、知ったことじゃない。

 それぞれがそれぞれの戦場で、それぞれに戦う。

 これが私たちの戦い方だ。

 別に私だけ遊んでるわけじゃない。本当に、遊んでるわけじゃ、ない。


 私たちは私たちで、モンスター狩りの準備を開始した。


「次のモンスターは動きが早い。だから、一撃が重い武器にしよう」


「ならなら、この大斧で戦う! 属性もぴったりだもん!」


「なんだかマモノと戦うより真剣そうですね!」


 再びシェフィーがツッコミを入れてきたけど、やっぱり知ったことじゃない。

 呆れた様子のシェフィーは、魔法陣を抱えたままテラスに出た。


 そうやって戦闘準備を進めているときのこと。

 ルフナが何かに気づいたらしい。


「待て。遠くから何者かが近づいてきているぞ」


「それはいい報告なの? 悪い報告なの?」


 どちらにせよ、ルフナの言う何者かは待ってくれないらしい。


 何者かは、空から降り立った。

 降り立った場所はマモノたちの中心。


 直後、大地震のような揺れが辺りを襲い、マモノや木々が吹き飛ぶ。

 まるで隕石が衝突したみたい。


「なっ、何事!?」


「見てください! 誰かがいます!」


 シェフィーが指さした先には一人の女の子が立っていた。


 その子は、クレーターの真ん中で仁王立ちする、何やら口をモゴモゴさせたポニーテールの女の子。

 歳は私と同じくらい。

 健康的な腕と太もも、風のおかげでちらりと見える腹筋に私の視線は奪われる。


 ただ、それ以上に私が注目したのは、ショートパンツにTシャツという雑ファッションだ。


「あの格好って、もしかして私の元いた世界の――」


 とは思ったけど、ポニテさんが私と同じ世界から来た人、とまでは言えなかった。

 なぜなら、ポニテさんは近づいてきたマモノを拳一発で殴り倒してしまったのだから。

 これにはルフナもびっくり。


「あれは、もう勝負は決まったようなものだぞ」


 ルフナの言う通り、あとはポニテさんの独壇場だった。

 ポニテさんは、態勢を立て直したマモノたちを次々と殴り、蹴っていく。

 その度に衝撃波が空気を揺らし、マモノは吹き飛び、あるいは地面に埋もれ、霧となって消えていく。


 容赦なくマモノを殴り蹴り倒していくポニテさんは、率直に言って怖い。


「筋肉モリモリのマッチョガールでもないのに、どうなってるのあの人……」


「あらあら、あんなに強い子、はじめて見たわ」


 私たちがそうやって驚いているうちに、100体ほどいたマモノは全滅してしまった。

 ポニテさんは両腕を天に掲げ、モゴモゴしたまま雄叫びをあげる。


 同時に、彼女の隣にもう一人の女の子がやってきた。

 もう一人の女の子は、クロワッサンっぽくカールした髪が特徴的な、バックパッカーみたいな格好をしている。

 意味不明な情報量の多さに、私の頭はパンク寸前だ。

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