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移動要塞自宅~勇者に選ばれたおウチと旅をすることになりました~  作者: ぷっつぷ
6けんめ 『西の方の国』で女王様とお城さんに会う話
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第2話 凱旋パレード

 もうマモノの軍勢はバラバラ。

 私はミィアと一緒にプリンを食べながら、スミカさんたちに伝える。


「みんな、攻撃止め」


「はい!」


「了解した!」


「ユラちゃん、オーキークモは倒せたのかしら?」


「倒せたと思うよ。というか4分ぐらい前に倒してた気がするよ」


 念のための攻撃が、ちょっと長すぎたかもしれない。

 でも、よくある『やったか?』現象が起きるよりはずっとマシだよね。


 スミカさんたちの攻撃が止むと、静かな時間が戻ってきた。

 双眼鏡越しに見えるのは、マモノの軍勢がいた場所に広がる、焦げた草原だけ。


「オーキークモはどこにもいないね。植物もいなくなったけど」


「ユラユラ~、ミィアにもそーがんきょー、見せて~!」


「どうぞ」


「おお~! ユラユラの言う通りだ~! マモノの軍勢、どこにもいないよ~! 焦土だよ~!」


「自国の一部が焦土と化しているのに、嬉しそうですね……」


 まったくシェフィーのツッコミが正しいんだけど、焦土を作り出したのは私たちなので、それ以上は黙っていよう。


 ともかく、私たちは『西の方の国』を襲おうとしていたマモノを倒した。

 勇者らしい仕事は終わらせたし、早く『西の方の国』の大きな街へ行こう。


 武器をどこかにしまったスミカさん――自宅は、のしのしと大きな街へ向かった。

 少しして、私たちの前に大きな石造りの門が立ちふさがる。


「門、閉じていますね」


「戦の途中だったからなぁ。マモノの侵攻に備えていたんだろう」


「だろうね」


「どうすれば、門を開けてくれるのかしら?」


「ミィアに任せて~!」


 そうだ、ミィアは『西の方の国』の王女様だ。

 彼女の姿を見れば、街の守衛も門を開けてくれるはず。


 と思っていたのだけど、ミィアがベランダに出る前に、門が開きはじめた。

 門の向こう側では、ナイトや守衛、街の人たちが私たちを迎えてくれている。


「街を救ってくれてありがとう!」


「あなたは私たちの英雄だ!」


「マモノを蹴散らす移動要塞! ありがとう!」


 雪崩みたいに押し寄せる歓迎の言葉。


 移動要塞ってなんだ? 私のおウチが物騒な印象を持たれちゃたのかな?


 とはいえ、移動要塞と呼ばれたスミカさんは、表情をパッと明るくし、門をくぐろうと自宅の4本足を動かした。

 ここで大問題。自宅が大きすぎて、門をくぐれない。


「あわわ! 引っかかっちゃったわ!」


「家が通ることを想定してない門だったんだね」


「家が通ることを想定した門ってなんですか!?」


「ミィア、ルフナ、他に家が通れる門って、ないの?」


「この大きさの建物が通れる門は、たぶんなかったはずだ」


「うわ~ん! 家が通れる門を用意してなかったなんて、『西の方の国』の汚点だよ~!」


「それが普通です! 家が通れる門がないのが普通ですから、元気を出してくださいミィア様!」


 さてはて、これからどうしよう。

 門につっかえた家を見て、街の人たちも呆然としている。

 ここで問題を解決させたのは、スミカさんだった。


「よく見ると、これくらいの城壁なら乗り越えられそうね。えい!」


 思いついたままに自宅をジャンプさせるスミカさん。

 すると、自宅は軽々と城壁を飛び越え、街の中に着地した。


 家が飛び跳ね、あっさりと街に入れたことに、私たちは呆然。街の人たちも呆然。

 けれども、ミィアが無邪気な笑顔を浮かべたのと一緒に、街の人たちも歓声を上げた。


「おお~! スミカお姉ちゃん、そんなことまでできるんだ~!」


「やはり、あの建物は勇者に違いない!」


「勇者様だ! 勇者様が私たちを助けに来てくれた!」


「移動要塞の勇者様!」


 だから、移動要塞って何? 私のおウチ、要塞扱いなの?


 まあ、肝心のスミカさんが喜んでるからいいけど。


「スミカさん、ユラさん、高台のお城に行きましょう!」


「うんうん! ミィアのおウチに遊びに来てよ~! ママも喜んでくれるよ~!」


 今は2人の言う通り、お城に向かおう。


 自宅は馬車や露店を慎重に避けながら、お城まで続く道を歩きはじめた。

 リビングに戻った私たちは、プリンを食べながら窓の外を眺める。


――この街、かわいい。


 高さも色も角度も違う三角屋根の建物がずらりと並ぶ、カラフルな街並み。

 それを飾るのは、ところどころに咲いている花や街路樹たち。

 まるで花畑に置かれた色鉛筆みたいな街を眺めていれば、絵本の世界に迷い込んだ気分。


 だけど、私は窓の外を眺めるのを中断し、部屋の隅で丸くなった。

 理由は簡単で、私たちを歓迎してくれる人が多すぎるから。


「勇者様ー!」


「移動要塞の勇者様ー!」


「街を救ってくれて、ありがとう!」


「すごいです! こんなにたくさんの人が、スミカさんとユラさんを……ってあれ? ユラさん? どうしましたか?」


「なんだか顔色が悪いぞ? 大丈夫か?」


「うう……人混み、怖い……」


 今までの人生で、これだけの人たちと熱狂に包まれたことはなかった。

 勇者の到着と勝利に沸く人たちが、自宅の周辺に殺到してくることなんてなかった。

 ハロウィンの日の渋谷は地獄の釜の中だと思ってる私が、この状況に耐えられるわけがない。

 そんな私を救おうと、ミィアが立ち上がる。


「よおし! ミィアがユラユラを助けてあげる! ミィアがみんなに、少しだけ静かにしてもらうようにお願いしてみる!」


 やる気に満ちたミィアは勢い良くテラスに飛び出した。

 テラスに飛び出したミィアは、それでも一瞬で王女様モードに。


「皆様! どうかお願いがあります! 実は――」


 王女様モードのミィアがお願いを言おうとするけれど、それ以上は言葉が続かなかった。

 街の人たちは、王女様のミィアを見て目を丸くしている。

 目を丸くしながら、どっと盛り上がる。


「ミィア殿下だ! ミィア殿下が移動要塞にいるぞ!」


「もしかして、ミィア殿下と勇者様はすでにお知り合いに!?」


「さすがは勇者様だ!」


 喜びと驚きの波が自宅に押し寄せている。

 いよいよ私は動けない。


「ヒト、コワイ……ワタシ、イシニナル」


「あわわ! ユラさんが限界です!」


 もう吐きそう。ツラい。

 ただ、その後にミィアがうまくやってくれたおかげで、街の人たちの関心は徐々にミィアに集まっていった。


 少しだけ余裕を取り戻した私は、プリンを食べて心を落ち着かせる。

 そんな私を、スミカさんは心配してくれた。


「昔からユラちゃんは、人混みが苦手だったわね。無理しちゃダメよ」


「うん、分かってる」


「よしよし」


 私の隣に座ったスミカさんは、私に寄り添い、私の頭を撫でてくれた。

 続けてルフナが口を開く。


「しかし、不思議だなぁ。私たちと話すユラは、人が苦手な様には見えないぞ」


「それは……流れ的に、自然と……」


 スミカさんは16年間も一緒にいたおウチだからお話ができた。

 シェフィーはゲームで使っているキャラに似ているから、親近感があってお話ができた。

 ミィアは憧れの王女様だから、緊張はしたけど、お話ができた。

 ルフナは救出対象だったし、とってもいい人だったから、お話ができた。


 でも、みんな以外の人は、やっぱり怖い。

 証拠に、私の心と連動した『完璧な防犯』のシールドは、シェフィーたち以外の人を拒絶している。


――私がシェフィーたちとお話できるのは、奇跡みたいなものなんだよ。


 リビングの隅っこで、さらに丸くなった私。

 すると、カップを持ったシェフィーが私の前にちょこんと座った。


「ユラさん、紅茶を淹れてきました」


「……ありがとう、シェフィー」


 みんな、本当に優しい人(と家)たちだよ。

 私は深い感謝の気持ちと一緒に、紅茶をすすった。

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