第7話 使い魔、トラコン、あわあわ
一夜が明けた。
といっても、私が目を覚ましたときには、太陽はとっくに高い位置にあったのだけど。
リビングにいたスミカさんたちは出発の準備を整えている。
「やっと起きてきたわね。そろそろトラコンの里を出発するわよ。かわいいトラコンたちとはお別れ」
みんなはクエスト達成を諦めてしまったらしい。
だけど、女神様のおかげでクエストを達成できる可能性が出てきた。
私は、みんなに伝え忘れていたことを言おうとする。
「あのさ、実は通販が――」
言いかけて、リビングに『ピーンポーン』というインターホンの音が鳴り響いた。
もしや、もう石鹸が到着したのかな?
1人で配達の人の対応をするのは嫌なので、私はシェフィーとミィアを連れて玄関へ。
ミィアが勢い良く玄関の扉を開けると、そこに人はいなかった。
代わりに、不思議な鳴き声が私たちの鼓膜を震わせる。
「ふーん、ふーん!」
視線を下げれば、ダンボールが乗っかるソリを引いた、まん丸なキツネさんっぽい小動物が1匹、家の中に入ってきた。
かわいい小動物の登場に、シェフィーとミィアは目の色を変えている。
「大変です! かわいすぎるお客さんです! わたしは、一体どうすれば!?」
「ミィア、この子抱っこした~い!」
問答無用で小動物を抱き上げたシェフィーとミィア。
私は小動物ではなくダンボールを持ち上げ、すぐさま中身を確認した。
ダンボールの中身は、私が注文した通り、液体石鹸5リットル。
まさか本当に異世界で通販が利用できるなんてびっくりだ。
一方のシェフィーとミィアは、あることに気づく。
「見て! 名札が付いてる!」
「ええと『女神の使い魔ミードン』と書いてありますね」
「ミードン? それがお名前?」
「ふーん!」
短い右前足を挙げて答えるミードン。
シェフィーの表情はますますとろけていく。
そんなシェフィーたちに、私は通販のことを説明した。
「あのさ、実はね――」
数分間の説明。
説明を聞いて最初は戸惑っていたシェフィーたちも、私が元いた世界の文明に驚き、同時に女神様に感謝する。
通販の説明が終われば、今度は液体石鹸についてだ。
「それで、この液体石鹸なんだけど、上質な泡が作れるものなんだよね」
「上質な泡!? ということは、あわあわ魔法石の代わりになるものなんですか!?」
「うん」
「おお~!」
「でさ、シェフィーにお願い。これをトラコンたちに渡してくれないかな」
「もちろんです!」
「ミィアも行くよ~!」
2人はミードンを抱いたまま、元気よくトラコンの里へ。
液体石鹸を持った2人がトラコンの里に向かって数分後が経った頃。
リビングでくつろいでいた私たちのもとに、シェフィーとミィア、ミードンが帰ってくる。
2人の表情は、とっても明るかった。
「液体石鹸、届けてきました!」
「トラコンのみんな、すごく喜んでたよ~!」
「ふ~ん!」
この報告に、スミカさんとルフナの表情もパッと明るくなる。
「フフ、それは良かったわ。またユラちゃんのお手柄ね」
「一時は諦めかけたクエストも、これで無事達成だな」
そう、私たちは初クエストを成功させた。
トラコンのみんなも喜んでくれたみたいだし、ぴかぴか魔法石も手に入れたし、なんだかんだといいことずくめ。
ところで、ミィアに抱かれていたミードンが唐突に前足を上げた。
直後、ミードンは黄金色の光と雲に包まれ、消えてしまう。
突然のことにミィアは焦り気味。
「あれ~!? ミードン、どこ行っちゃったの~!?」
「お届け物の仕事が終わって、女神様のところに帰ったんじゃないかな」
「そ、そんな~!」
「まあまあ、通販で何か買えば、また会えるから」
「おお~! じゃあじゃあ、いっぱいお買い物しよ~! ミードンに会うために!」
なんだか通販の使い方が間違ってる気がする。
とはいえ、私たちは通販という最強のツールを手に入れた。
通販さえあればクエストだって達成できる。
これで私は、異世界のんびり生活を満喫できるんだ。
なお、町に戻った私たちは、クエスト達成の報酬とぴかぴか魔法石を売って得たお金で、ちょっとしたお金持ちに。
結果、シェフィーは魔法のインクを手に入れ大喜び、ミィアは自宅のキッチンが大量の食材とお菓子に占領されて大喜びすることになった。
今回で第5章は終わり、次回からは第6章「『西の方の国』で女王様とお城さんに会う話」がはじまります! どうぞ続きもご覧になってください!
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