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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

握り潰したいほど可愛い病。

作者: ぷれ

!動物が残酷に殺される描写があります!


お気をつけください。





私は、可愛いものが大好きだ。



「ねー今日学校終わったらさ、

新しく出来たお店行ってみない?」


「駅前のファンシーショップのこと?

うん、行ってみたい。」



友人に誘われれば可愛い雑貨屋なんて勿論行くし、そうでなくてもひとりで行く。



「決まり!

うーん、楽しみ!!」


「その後どうする?

ひさびさにファミレス行かない?」



まあいつも散財しちゃうから、出来るだけ控えないととは思ってるんだけど。



「あー…うち、最近門限きびしーんだよね。」


「そうなの?」



それでもやっぱり、

可愛いものを愛でる楽しみは捨てがたい。



「ほら、最近さ…

近所で野良猫が殺されてるってやつ。

知ってるでしょ?」


「…。」



ああ、

今日はどんな可愛い子に会えるんだろう。



「ほんと怖いよね…

この間のなんかうちのめっちゃ近所なの。

てかキモい。なんで野良猫なんか…」


「…。」



たのしみだなあ。




***




「はーい、みんな2列に並んで。

整列した班から座ってくださーい。」


あれは忘れもしない、小学3年生の春。

遠足で小さな動物園にきたときのことだ。


新緑の山々、土の匂い。

原っぱを駆け抜ける風が心地よい、

絶好の遠足日和だった。


先生の話を聞いたあと、

みんなでワイワイ動物を見て回る。

男子がふざけて、

女子は動物園特有の臭いに顔を顰める。

まあそんな普通の遠足だったと思う。



あのときまでは。



「わ、ここどうぶつにさわれるんだって!

ねえ早くいこっ!」


「あ、まってっ…」



ごくごく普通の、動物とのふれあい広場。

羊や兎、馬なんかと触れ合えるアレ。



「わぁ…もふもふ。かわいい!」


「ね、かわいいね。

…あ、あっちもいってみようよ!」



当時の親友だった、

少しやんちゃな友達が駆けて行く。

私は慌ててついていった。



「きゃー!!かわいい!!」



彼女がなにかの「箱」を覗き込む。

私も遅れて覗き込んだ。

その箱には…



「…っ!!」



数えきれないほどのひよこ、ひよこ、ひよこ。

1メートル四方の浅い箱に、

ひよこがびっしりと詰まっていた。

ひよひよひよひよ…と、

ひっきりなしに聴こえてくる鳴き声が、

一瞬で私の頭の中をひよこ一色にしていく。



何故か、私の心臓がどくんと脈打った。



「ふわふわでかわいー。

…あれ?さわらないの?」


「!」



恐る恐る、中からひよこを1匹取り出す。

私の両手のひらで包めるほどの、小さな存在。

ひっきりなしに、ひよひよと鳴いている。

抵抗しているのか、もぞもぞとか弱く動いた。



「…かわ、いい。」



と、口に出してみる。

違和感。

可愛い…間違いじゃないけど、

ほんの少し違う。


私がいま感じているこれは、一体なに?

なんだかどきどきして、胸が苦しくなってきた。



「ねぇ…ねぇってば!」



友達の声で我にかえる。



「な、なに?」


「またうさぎさんさわりに行こ?

先に行ってるからね!」



…。

仕方なく、ひよこを元に戻す。

戻したひよこは瞬く間に黄色の波に飲まれ、すぐに行方がわからなくなってしまった。



「…。」



私は後ろ髪をひかれながら、彼女の後を追った。




***




遠足から数か月後。


もう誰も遠足の話などしないというのに、私だけは「ひよこ箱」のことが忘れられずにいた。


たった5分ほどの出来事なのに、頭にこびりついて離れない「ひよこ箱」の光景。


今でも鮮明に思い出せる、あのひよひよというか弱い鳴き声。


そして手のひらで包んだときのあの感じ…


私はもう一度それらを確かめたくて、

夏休みの昼下がり、

今度はひとりで動物園に行くことにした。






じりじりと照りつける日差し、蝉の声。

麦わら帽子を被って、田んぼ沿いの道を行く。

時刻は午後2時40分。まだまだ暑い時間帯。

汗が噴き出る。早く「ひよこ箱」が見たい。



「…!

はぁっ…はぁっ…ついた…!」



ようやく動物園につく。

貯めたお小遣いでチケットを購入し、

係の人に渡した。

お父さん、お母さんは?と聞かれたが、

入場出来ないと困るので走って逃げた。


そのまま走り続けて、

大急ぎで「ひよこ箱」へ向かう。



「はぁっ…はぁっ…」



謎の緊張に、息があがる。

閑散とした、夏場の動物園。

巣にこもっているのか、動物すら見かけない。

もう少し、もう少し。

ふれあい広場の門をくぐった。

あのときと変わらない光景。

一直線に「ひよこ箱」へ向かう。


微かに、ひよひよひよひよ…と

鳴き声が聞こえてきた。



「っ!!」



つんのめるように「箱」を覗き込む。

私の目の前に、ひよこの海が広がった。

相変わらず、1メートル四方の浅い箱にみっちりと詰まってひよひよと鳴いている。


震える手で1匹取り出す。

両手で包んで撫で回してみる。

そして、ぽいっと「ひよこ箱」に落とす。



「…!」



ひよこを、落とす。


この行為に、何故か胸が高鳴った。

もう一度ひよこを取り出し、「箱」に落とす。

そしてまた別のひよこを取り出し、今度は少し高いところから放り投げた。


投げ出されたひよこは、微かに小さな足をバタつかせて「海」に飲み込まれていく。

その様子を見るのが、なんともいえなかった。

愛らしくて、苦しくて、もっと困らせたくなる。



「ふふ…っ」



楽しくて仕方がない。

立ち上がって、とても高いところから落としたり、ビー玉みたいに両手ですくって落としたり。

落とすとき、ひよひよの鳴き声が少し大きくなる。

驚いているのかな。

じゃあ、もっともっと驚かせてみたい。


怖がらせたい、

苦しめたい、

握り潰したい。



「…!」



…そうだ。握り潰したいんだ。

握り潰したいほど、可愛くて仕方がない。

小さくて、無力で、こんな狭い箱につめられて。

生きる理由なんてひとつもないように思える命。


私が少し力を入れれば、

簡単に潰れてしまう儚い命。


時刻は15時20分。

まだまだ暑い、夏場の動物園。


「ひよこ箱」を蹂躙する小学生を止める大人は、どこにも居ない。



「…。」



適当に1匹、ひよこを取り出す。

両手で包んで、撫で回す。



「かわいい。

ふわふわして、ちっちゃくて…っ」



少しずつ、両手に力を込めていく。

心臓がどくんどくんと鳴り始めた。



「かわいい、かわいい、かわいいっ…」



さらに力を込める。

ひよこは、苦しそうに呻き始めた。

私の手の中で激しく足をバタつかせ、喘ぐように酸素を求めている。


瞬きも忘れて、苦しそうなひよこに見入る。

自分のしていることへの恐怖で、手ががくがく震える。

心臓もばくばくとうるさい、息が乱れる。


まだ引き返せる。

一瞬だけ、そう思った。

でも、「可愛い」という感情が溢れて止まらない。

もうだめだ。



「はあ、っ、かわ、いい…っ」



ぶちゃっ。

一気に、握り潰した。

ひよこの口から聞いたことのない音がし、ピンク色のドロドロが飛び出る。

くるくると動いていた可愛らしい目から、瞬く間に生気が消え失せた。


生暖かい液体が、じわりと私と両手を濡らす。



「っ…」



…汚い。


すっかり「可愛くないもの」に成り下がったひよこを見て、私は我に返った。



「…!!」



とんでもないことをしてしまった。


動物園の動物を、殺した。

バレたら怒られる。

もしかしたら警察に捕まっちゃうかも…


それに、私はなんて残酷なことを。

どうしよう、どうしよう、どうしよう!


慌てて立ち上がって、手を洗いにいく。

迷った末、ひよこの死骸はトイレに流した。


私は、逃げるように動物園を後にした。




***




「ねーこれ超かわいくない?

ほらみて!!」


「ん?」



あれから8年後。

高校生になった私は、仲良しの友人とファンシーショップにきていた。



「うん、かわいい。」


「でしょ!?

…ぁー、でもちょっと高いなぁ…」



うーむ…と唸る友達を尻目に、私も「可愛いもの」を物色する。


赤ちゃんアザラシのぬいぐるみに、

押すと音が鳴る子猫のフィギュア。

瓶詰めにされたハムスターの置物に、

ぷくぷくした赤ちゃんパンダのシール。


私は相変わらず、

か弱そうなものに「可愛い」という感情を

抱く傾向にあった。


そして…



「はー…

あんたまたそんな子供っぽいもの…」


「いいじゃん、可愛いんだもんっ。」


「『握り潰したくなるほど可愛い』だっけ?

よくわからんわ…」



あの感情も、健在だった。




友人と別れて、帰路につく。

手には今日の戦利品。結局全部買ってしまった。

良いお店だったなあ。

可愛いものがいっぱいあった。



「ただいまー。」



家に着く。

家族への挨拶もそこそこに、2階の自室へあがる。

扉を開く。電気をつける。



バラバラにされたぬいぐるみ達が、

床一面に転がっている。



「…っ!」



途端、呼吸が乱れる。

手に持ったビニール袋を引きちぎりながら、急いで机に向かう。

今日買ってきたばかりのアザラシのぬいぐるみ。

それを机上のカッター台に丁寧に乗せる。



「…ふぅ、」



一息ついて、部屋の灯りを消す。鍵をかけた。

机の電気だけつけると、

気分はまるで手術室。

使い慣れたカッターを取り出し、

ちきちきと刃を引き出す。


ぬいぐるみの愛くるしい目。

ふわふわの毛並み。

ころっとしたフォルム。


それら全てが可愛くて、

今すぐめちゃくちゃにしたかった。

もう我慢できない。


ぎゅ…っと抱きしめる。

もみくちゃにする。

それだけではやっぱり足りなくて、お腹にカッターを勢いよく突き刺した。



「っはぁ…っ!!」



中の綿を掻き毟りながら抱きしめる。

しっぽの部分に容赦なく噛み付く。

気の済むまで、何度も何度も。

ほつれた目玉を引きちぎり、皮を破る。


あっという間にアザラシのぬいぐるみは「死んでしまった」。



「つぎ…っ」



死んでしまったものは「可愛くない」。

適当に机から叩いて落とす。

今度は瓶詰めハムスターを取り出した。

少し大きな瓶に小さなハムスターのぬいぐるみがみっちり詰まっていて、すごく可愛い。



「はぁ、…はぁっ…」



「ひよこ箱」を彷彿とさせるフォルムに、興奮がおさまらない。

無理やり瓶をあけて、小さなハムスターたちを取り出す。

思いっきり握り潰したり、噛みついたり。

それで壊れなければ、カッターで滅多刺しにした。


1匹ずつ、そのときの気分で愛していく。

両手にすっぽり収まるサイズ、ふわふわの毛並み。

そして壊れるまで私の愛を受け止めてくれる健気さ。

もうどうにかなりそうだ。


瓶詰めハムスターたちも、間も無く全員息絶えた。

はぁ、と息を吐く。たまらない。


別に殺したり、壊したりすること自体に快感を感じているわけではない。

むしろ死んだものには全く興味がわかなかった。


ただひたすら、可愛い。

抱きしめて愛を囁くだけでは物足りない。

それだけのことだ。



「…。」



今日はなんだか、興奮がおさまらない。

私は夜風にあたりに行くことにした。




***




春めいてきた、夕飯時の散歩コース。

藍色に変わりゆく空と、微かな花の匂い。


私はゆっくりゆっくり、

自身を落ち着けるように散歩した。


人気のない河川敷に腰を下ろし、川を眺める。



「…はあ。」



なんで私はこうなんだろう。

そう思わなくはない。


どうして普通の人が我慢できることが、自分には出来ないのか。

私は所謂変態なのではないか。

いやもしかして、

巷で噂のサイコパスとかいうやつなんじゃ…


考えれば考えるほど、負のループに陥る。


…だめだだめだ。もう帰ろう。

もうすぐご飯だし。それでもう、今日は寝よう。



そう思って立ち上がった、そのとき。



「…みゃぁ、」



いつの間にいたのか、

生まれたての子猫が足に絡みついてきた。



「!

わあ…!」



春先は野良の子猫がよく増える。

どの子もまだ警戒心が薄く、

自ら人間に近寄っていく子も少なくない。



「どうしたの、お母さんは?

この辺りに住んでるの?」



喉仏をくすぐってやる。

子猫はすぐにゴロゴロと甘えて、

仰向けにころんと転がった。



「…っ」



まだ丸まった耳、小さな頭。

お腹は痩せこけて骨が浮き出ている。

ああ、どれもがか弱くて、愛らしい。


子猫を膝の上に乗せて、全身を撫で回す。

可愛い、可愛い、可愛い。

興奮で呼吸が乱れる。

私は両手のひらを、

ゆっくりと子猫の首元へ移動させた。



ーーほら、最近さ…

近所で野良猫が殺されてるってやつ。



何も知らない子猫は、

ただ気持ちよさそうに目を細めている。



…ねえ、知ってる?

私、あなたのこと簡単に殺せちゃうんだよ。



ぽつり、雨が降ってきた。

のんきにあくびをしている子猫。

いま私が両手に力を込めれば、

この子の首は簡単に折れて死んでしまうだろう。


息が荒くなり、手が震える。

そんな私を、子猫が不思議そうに見上げている。



ーーてかキモい。なんで野良猫なんか…



「っ!」



ちがう、だめだ、

私はもうこんなことやめるんだ。


普通になりたい。

私だって普通に愛したい。


雨足がどんどん強くなっていく。

突然、涙が溢れてきた。


私だって、可愛いものはずっと可愛いままでいてほしい。

可愛いものには、うんと長生きして欲しい。

小さな命でも、一生懸命生きて欲しい。


どうして私はこうなの?

みんなみんな、私に出会うと壊される。

私は壊さずには、いられなくなる。


…そうだ。私なんか、もう一生可愛いものと出会わなければいいんだ。

私になにかを愛す資格なんかないんだから。



だってほらまた、こうやって。



うとうとしていた子猫が飛び起きた。

私の腕の中で、苦しそうにじたばたと暴れる。

母猫を呼ぶ、か弱い鳴き声。

ばたばたと暴れまわるしっぽ。小さな手足。


ああ、どうやっても、

苦しむそれらの動きが、愛おしいとしか思えない。


ザーザーと雨が降る中、

私は泣きながら、子猫の首を絞め続けた。



「かわ、いい…っ、ああもうやだっ、 もうやだ…!!」



ぐっ!と力を込める。

子猫が「ニャ」と「ギャ」の中間みたいな、鋭い悲鳴を上げた。

手には嫌な感触、漂う絶望感。


子猫は、ぐったりと動かなくなってしまった。



「…。

うう…っ!!」



私は泣いた。

子猫の死骸に、ぽたぽたと涙が落ちていく。


ごめんね、ごめんね。


あなたのこと、ちゃんと愛してあげられなくてごめんね。



感情を抑えられない自分への怒り。

自分だけがおかしいという理不尽さ。

子猫や、これまで死んでいった者たちへの懺悔の気持ち。


それらがごちゃまぜになって、わんわん泣いた。




雨は今晩、止まないようだ。

子猫の身体が冷え、固くなっていく。


それでも私は子猫の側を離れられないまま、いつまでも泣き続けた。




***

おしまい。

ありがとうございました。


可愛いものを潰したくなる気持ちは誰にでもあって、巡り巡って「お世話したい」という感情を引き起こす大切な気持ちなのだそうです。


くれぐれも、この女の子のようにはならないようにしましょう。

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