第2話 「南の孤島」
――南の孤島『モーシャス』
「後ろ! 払い! 前へ! 突きー!」
「ヤアアーッ!」
「トウヤアアーッ!」
アクア・モオは女の身で有りながら、騎士としての訓練を受けていた。
「これにて終了!」
「「「ありがとうございましたー!」」」
視界を塞いでいたマスクを取る。
「ふうーッ!」
真っ赤な巻き毛が、崖下から上ってくる潮風にたなびく。
「アクア姫! かなり上達しましたね!」
「今度お手合わせをしてください!」
「これ! 姫になんてことを!」
「爺や! 特別扱いするな!」
アクアは目付け役の爺やを制した。
騎士の訓練は自分から進んで志願した。
姫という立場を利用するつもりはない。
「いいえ! お姉さま! 危険なことは、止めてちょうだい!」
あたりに鈴を転がすような美声が鳴り響く。
兵士達の手が一斉に止まり、一瞬のち男たちの口からため息がこぼれた。
麗しの姫君マリー・ベルの登場だ。
腰まで伸びた美しいブロンド、パッチリとしたブルーの瞳は艶やかに輝く。
小柄な身体をピンク色のドレスで包み込み、絵本から抜け出た妖精のように軽やかに微笑む。
「お姉さまったら! また泥だらけになって! もうすぐ、ドラッヘン国の王太子さまがいらっしゃいますのよ!」
「……水浴びしてくる」
「お姉さま!」
アクアはマリー・ベルの手を避け、鎖帷子を着けたまま密林の中ヘ消えていった。
――キーキーキーキー、ケッケッケッケッ。
「あの子は、どうも苦手だ……」
アクアは密林の奥にある滝壺に来ていた。
鎖帷子を脱ぎ捨て、服もすべて取り去り裸になった。
――ザッパーン!
思い切り滝に飛び込んだ。
「ふーっ! 気持ちがいい……」
身体の土を洗い流し水に浮かびながら天を仰いだ。
青い空と眩しい太陽。
辛い現実をしばし忘れた。
――ザザザザッ!
「なにやつ!」
アクアが水の中からうしろを振り返ると――そこには、見たこともない男が立っていた。




