遭遇
「おい、そこのお前!いいもの持ってるじゃないか、さっさと置いていけ」
「ついでにその珍しい服も置いてけよ。まあ命までは取らん」
荒野を一人で歩いているとようやく人に出会えたのだが、どうやらオレは恐喝されているらしい。相手は二人組でみすぼらしい格好だが槍のようなものを持っている。こんなご時世に槍を振り回すなんてすぐに捕まるって・・・
「おい!聞こえなかったのか?早くしろ!」
オレが考え込んでいる間に相手はイライラしてしまったようだ。困ったな、これは適当にいなしてさっさと撒くか。
「いやーこれを渡すわけにはいかないんですよ。悪いんですが諦めてもらえないですかね?」
「ふざけてんのかテメエ?」
「もういいさっさと殺っちまえ」
「な・・・!?」
いきなり切りかかって来たのも驚いたが何より驚いたのがあの槍だ。あれは模造品などではない。本物の槍だ、殺す気で来ているのだろう。
「まさか本物とはな・・・。人に刃向けたんだ、覚悟できてるんだろうな?」
「ああん?なんだ・・・!?」
オレは一瞬で接近すると二人の槍を根元から切断した。刃のついている部分を即座に蹴り飛ばし二人に刀を突きつけた。
「まだやる?付き合ってやってもいいけど?」
「ヒィィィィィ・・・いっ命だけはお助けを!」
「悪かった悪かったから!」
どうやらこの場は丸く治まったみたいだな。とりあえずこいつらに必要なことを聞いてみるか。
「ならオレの質問に答えてもらおうか。それで許してやるけど嘘教えたりしたら・・・わかってるよな?」
ふたりはものすごい勢いで頷いてくれた。
「まずここはどこなんだ?」
「へい!ここは司隷の河東です」
「は?ここは日本じゃないのか?それに河東って中国だろ!ここは中国なのか?」
「日本?中国?よくわかりませんがここは河東で間違いないですよ旦那」
なんだ?話が全く噛み合わない。だが嘘を言っている感じはしないな。どうなってやがる?日本語が通じているから日本だと思っていたが違うのか?
「そうだな・・・今の年号を教えてくれ」
「?今は光和・・・5年だったか?」
「ああ間違ってないはずだ」
光和?なんだそれ?聞いたことないようなどこかで聞いたことあるような・・・
「じゃあこの国のトップは誰だ?」
「とっぷ?」
「ああ、一番偉いやつだ」
「なら霊帝様だな。旦那、そんなことも知らないなんてどこから来たんですか?」
・・・!?霊帝といえば後漢末期の皇帝か!そんな奴が今生きているはずがないだろう
「じゃあこの国の一番の都と言えばどこになるんだ?」
「洛陽です。旦那まさか外の国から来たんですか?」
洛陽、霊帝、河東・・・こいつらの言うことが正しいのならここは後漢末期の中国ということになる。やはり嘘を言っている気配もない、本当にタイムスリップしたって事か?
確かめてみよう、本当なのか否かを
「なあ、ここが河東ならこの近くに腕の立つやつがいるはずなんだ。知ってたら名前を教えてくれないか?」
「ああ、それならあの女だな!あいつにはひどい目に合わされたぜ。あいつなんていったっけか?」
「関雲長だろ。山賊刈りの関羽。多分この辺じゃ一番強いな」
本当なのか・・・確かに史実では河東は関羽の出身地だ。本当にここは後漢時代なのか?しかし確証がない。せめてその関羽に会うことができたら
「お前らその関羽の居場所とかしらないか?会ってみたい」
「確かここから東の街に住んでいると聞いた気がするが、旦那悪いことは言わねえ。やめといたほうがいい。あいつはマジでやばいぜ」
「素性のわからない奴はぶった切られる。旦那もあいつには近づかない方がいい」
「そうか。色々と助かった。オレはそこを目指してみる。お前らもほどほどにしろよ」
二人の動きを一応警戒しつつ東を目指す。何も手がかりがない今信じて行動するしかあるまい。オレは疑惑と少しの期待、そして好奇心を胸に東を目指した。




