同時襲撃
「みんな集まったわね?って玲、何それ?」
「宗一様ですので心配しないで下さい」
「そう、なら構わないわ」
なんてことだ・・・
「お二人共初めまして、ですな。ねねが陳宮ですぞ。真名は音々音です、ねねとお呼び下さい」
「私は王異、真名は玲と申します」
「オレは沖田宗一。宗一と呼んでくれ」
「月殿から話は伺っておりますぞ、よろしくなのです」
入った時からちっこいのがいると思ったらこいつが陳宮か。まだ幼いがこいつも一流の軍師になる逸材か・・・
「さてと、簡単に状況を説明するわね。領内の多くの場所で同時に賊の襲撃が確認されたわ、場所と規模から考えて前回霞が討伐しに向かった奴らと考えていいでしょう」
「しつこい奴っちゃなあ・・・。でどんくらいなんか?」
「五箇所同時襲撃ね。人数が大体何処も100人前後、この場所から何処も近い所よ」
地図を確認すると何処も同じような距離にある村が襲われていた
「僕の見立てでは多分それなりに軍略を知っている人物が指揮を執っているはずよ。タダの賊では無いと思うわ」
「何が違うんだ?さっぱりだ」
「途中の村を放置しているところでしょうか?」
「へえ・・・何故?」
「ただ襲撃するなら近場に行けばいいですし、分散してまで各地に散る理由としても弱いと思います。近場には物資が無いと仮定しても何箇所も途中の村を飛ばす意味が有りません。こちらを分散させて各個撃破したいのではないでしょうか」
「悪くない答えね。ただ浅知恵でやっているのならこの配置にはならないと思うの。それの理由もわかる?」
「あえて拠点から遠い村を選んでいるからでしょうか?」
「そうよ。普通ならここは選ばないわ、拠点から候補から選んでいくはずよ。でもこの位置が襲撃された」
「さっきからさっぱりなんだが」
華雄は話についていけてない。オレもギリギリわかるくらいなんだけどね。恋は興味なさそうだし、霞は眠そうにしてるし
「華雄、敵の狙いはなんだと思う?」
「私達を分散させたいのだろう?」
「そうね。でもそれなら拠点から近いほうが退路もあるし援軍も送り易いと思わない?」
「確かにそうだな、じゃあなぜなんだ?」
「多分この二箇所は捨石ね。全滅しても構わない計算でしょう」
「な!?」
「華雄、賊と私たちの兵の練度とそれを率いている者を考えたら分散したところで勝ち目は無いと思わない?」
「まあそうだろうな」
「それでも同じくらいに分けたのは囮にしたいから。当たり前だけどきっと向こうは有能な人物が少ないのでしょう、何処か本命の場所以外は捨石にするのよ」
率いる将が無能だと軍隊は機能しない。それは日本の陸軍が証明してたな・・・
まあつまりこれを考えついた奴と頭貼ってる奴以外は所詮賊って事なんだろうな。だから分散させて人数を減らし、唯一勝てそうな奴の率いる別働隊をぶつけて数で勝つつもりか。これだと一箇所は勝っても他の場所は全滅すると思うんだがどうなんだろう
「あれか?将軍がいないと指揮できる奴がいないから部隊が機能しないようなものか?」
「まあ間違ってないわね。それで此方の対策なんだけれども、霞と華雄、ねねに私それから宗一と玲、貴方達には部隊を率いて貰うわ」
「おい、オレ達には経験がないぜ?大丈夫か?」
「まあ100人前後ならアンタも前線に出れば何とかなるでしょう」
「恋は・・・?」
「恋、アンタは悪いけど単独行動ね。あんたの力なら100人くらい何とかなるでしょう」
「ん・・・」
「恋はさっき言った場所ね。恐らく囮だと思うけど万が一数が多いようなら逃げなさい」
「大丈夫・・・恋、負けない」
「で宗一はねねと組んで。多少は経験が有るからいないよりはマシだと思うわ」
「納得行きませんぞ!ねねは恋殿に付いて行きます!!」
「バカ言わないの!!アンタがいたら邪魔にしかならないわよ!!一人でなら何とかなっても兵がいない状況でアンタを守りながら戦う方が難しい事くらいわかるでしょう!!」
「うう・・・ですが・・・」
「ちんきゅー、言うこと聞く」
「恋殿~」
こいつ恋の言うことしか聞かないのかよ・・・厄介極まりないな・・・
「私は玲と行くわ。霞と華雄は単独でお願い」
「わかった」
「まかしときい!!」
「二人は本命の場所に行って貰うからお願いね。直ぐに動ける伝令も付けるから、どっちかに敵本隊が現れたら必ず援軍に行って」
「はずれの方やったら早急に殲滅して助けに行けばええんやな?」
「ええ、他の皆も殲滅したら援軍に向かって頂戴」
「わかった」
「最後に兵の配置よ。ここは月に任せて1400残すわ。宗一には150、私が150、霞が400、華雄が400。で行くわ、わかったら急ぐわよ!今は村の自警団が抵抗してくれてるみたいだけど長くは持たないわ」
皆が出撃の準備に取り掛かる。霞が編成してくれた隊をねねと率いて門を出る。
二日目にこんな戦闘を経験することになるなんざ思わんかったなあ
「宗一殿は武勇に自信があるとお聞きしておりますぞ」
「まあそれなりだがな。ただオレは部隊を率いた経験が無くてな、ねねはあるのか?」
「詠殿と恋殿が賊を殲滅するときに一度連れて行って貰ったのです。だからねねもそんなに変わらないのです」
「何か言われたか?」
「そうですな・・・。ねねは軍師ですからなあ、軍師は常に冷静に戦場全体を見ろと言われました。あと戦局は常に動き続けているから常に次を考えろと言われましたぞ」
「なるほどねえ・・・。今回はオレも前に出るから後ろからの支援は任せるよ」
「ねねにお任せくだされ」
数日後、村は既に追い詰められていた。何とか持ちこたえているがギリギリの状態だったのだろう。
「よし、このまま突撃するぞ!お前ら、オレに続け!!」
雄叫びと共にオレ達は賊に突撃する。思わぬ援軍に動揺する賊達と、安堵する村人達。お互い犠牲者が出ているが賊はまだ元気そうだ。
「お前らは30人を残して回りこめ。退路を塞いで殲滅するぞ!」
「了解なのです。皆さん回り込みますぞ!」
確実に殲滅する為に挟撃をかける。オレのいる方は村人達の方に行かせない様に最低限の壁役を残して後ろに回す。オレは少人数の方が戦いやすいし、この人数なら一人でも何とかなる。
この作戦はスピードが全て。いかに早く殲滅し、近くの村に援軍を出すか。
詠の見立てでは賊の伏兵は規模から考えても多くて500。霞達は400なので数的には不利。ただ集まれば総数はこっちが上、如何に早く部隊を集めるか
片っ端から賊を斬っていく
「これで終わりですな」
「ああ」
この村の賊を殲滅したオレ達は被害の確認を行っている。すぐにでも出発したいのだが何か引っかかるなあ
「なあ、この作戦本当に分散狙いなんかなあ?」
「どういうことです?」
「確かにうまくいけば分散した部隊を一つ撃破できる。でも普通に考えたらそれ以外は全滅するし、それから援軍に来る部隊を全て相手したら何時かはやられちまうだろ?そこで撤退するとしても被害の割に戦果が割に合ってなくないかな?」
「詠殿もそれは言っておりましたな。でもねねはそこまで頭が回らなかったのだと思いますぞ」
「でもあの配置を考えた奴がそんな単純な事見落とすかね?最終的にこっちの本拠地を狙うとしても兵力が足りない。なんか噛み合わないんだよなあ」
詠がそれなりに知っていると評したのも最終的な意図が見えないからだろう。これでは兵力をすり減らしているだけだと思うんだよなあ・・・
「ねねは賊の規模が全体でどれくらいかわかるか?」
「確か多い時で2000くらいだったような・・・今は多分多くても1500くらいかと」
「守りを考えて出しても1000人・・・か。でも尚更わからんな・・・」
なんか最終的に負ける事しか見えない作戦なんだよなあ、浅知恵を見せたいバカが作ったのか、わざと負けたい奴でもいるのか・・・
「賊にこっちの間者なんかが紛れてたりしないよな?」
「それは聞いてないのでないはずですぞ」
「だよなあ・・・」
そう言えば敵は守りの人数の方が少ないのか・・・
もしオレの考えた通りなら本陣はガラ空きになっている可能性が高いのか。ひょっとしてチャンス?
「ねね、ここから賊の本拠地までどれくらいだ?」
「へ?ここなら一日も行けば辿り着ける距離だったかと・・・それが?」
「賊の規模的に見て詠の読み通りなら本陣は手薄なんだ。これは賭けてみる価値があるぜ?」
「ま、まさか敵の本拠地に?確かに可能性はありますが皆への援軍はどうするのです?」
「だからオレ一人で行くよ、残りの部隊はねねが率いて皆のとこへ行ってくれ。そのほうがオレも身軽に動けるし、作戦にも影響は出ないだろ?」
「危険ですぞ!!恋殿ならまだしも」
「まあ危なくなったら逃げるよ。それに奇襲を予想して備える事の出来る奴がいるならこんな作戦立てないだろうし」
「まあそうですが・・・」
多分いて200くらいか?それくらいならまあ何とかなるし死なない自信もある。
「さあ急いで皆のとこへ行ってやれよ。オレもすぐ行くから」
「先程の戦闘を見てれば実力はわかるのですが・・・」
「任せてくれ。まあとりあえず戦果はわからんが生きて帰って来るのは間違いない」
「約束ですぞ?」
「ああ、じゃあお互い急ごう」
「了解なのです。またあとで!」
風華に跨り目的地へ急ぐ。まあ大口叩いたんだから結果は出したいが危なくなったら逃げよう。
よく周辺地域に被害を出している様なので今後のためにもここで終わりにしておきたいがな




