涼州にて
結局玲は離れないまま寝てしまったので朝までこの体勢のまま見張りをする事になったのだが今後は勘弁して貰いたい・・・神経を磨り減らす事になるし・・・
でもこれだけ気持ち良さそうに寝ていると起こすのも気が引ける。たまには良いかな・・・。とりあえず今日は玲が起きたら出発しようと思うのだが早めに休める処を見つけて休みたいのが本音だ、体力には自信があるが今は休みたいという気持ちの方が強い。もう日も上り始めている、玲も直ぐに起きるだろう。そうしたら今日の予定を相談して出発しようと思う
「あれ、私はこのまま寝てしまったのでしょうか?」
「おはよう。ああ、よく寝ていたよ」
「すみません。ご迷惑ではなかったでしょうか?」
「オレは大丈夫だ。気にしなくていい」
「本当に申し訳ないです・・・」
「玲が休めたならそれでいいんだよ。それより今日の予定を決めたいのだけど」
「ありがとうございます。今日はこのまま次の街を目指しますか?」
「オレはそれでいいと思っているけど問題ないかな?」
「はい、大丈夫だと思います」
「じゃあ出発しようか」
オレはこの辺りは涼州だと思っていたのだが今は違うらしい。少し前の時代までは涼州だったのだが今は四つに分裂したとの事。なのでこの辺の馬も非常に質のいい馬なのだが、聞いた話によると現在の涼州に当たる丁度西涼と呼ばれる地域のはもっといい馬がいると聞いて、玲と相談した結果そこを目指す事にした。山や森など複雑な地形も多く歩くのはやはり大変だ。オレは平気なのだが玲はやはり辛そうだった。最初の方に比べたら玲もかなり体力は付いているのだがまだまだ辛いのだろう。それでも弱音を吐かずに一生懸命頑張っている姿を見ているとオレも刺激になる、こっちに来てから歩くことが多くなり足腰が更にしっかりしたと実感できる
し経験を多く積んだ事によって剣の腕も上がった。自分の成長も少しではあるが実感できている。
暫く歩くと何やら賊らしき集団が身を潜めているのを発見した。玲と静かに近づいて辺りを確認したが他に人の姿は見当たらない。何人もの賊を見てきたが今回のような事は初めてなので慎重に様子を伺う
「玲、どう見る?」
「考えられるのは二つ。特定の相手から逃げていて身を隠している可能性、もう一つは待ち伏せをしている可能性」
「伏兵って訳か。賊が策を用いていると?」
「可能性としては考えられます。見たところ一点を注視していますし、身を潜めているとは言え戦意を失っているようには見えません」
「どっちにしろこの先には奴らとは別の集団がいるって訳か」
「そうなりますね」
「よし、オレが少し先を見てくるから玲は此処にいてくれ」
「はい」
「何かあったら合図をしてくれ、じゃあ任せたぞ」
玲と簡単に合図を决めて、先に移動する。少し離れた場所で賊と討伐軍らしき集団が戦闘をしていた。賊は押し込まれている様に見えるが先程の場所に少しずつ相手を誘導している。大体の情報は掴めたので玲の所へ早足に戻る
「何かあったか?」
「いえ、大丈夫です。宗一様は何か解りましたか?」
「ああ、恐らく罠で間違いない。このまま挟撃を仕掛けるようだ」
「やはり・・・私達はどうしましょうか?」
「ここは様子を見よう。先に飛び出して勘違いされるのも嫌だし、もし討伐軍が挟撃を受けても賊の討伐に支障が無いようならオレ達は早急に立ち去ろう」
「なるべく関わらないようにする、という事ですね」
「ああ、まずい時は助けに入るがな。危機を救われた人間にはそれなりの扱いをして貰えるだろうからな」
「なかなか黒いですね」
「まあ、もしもの事だ。今は様子を見よう」
霞視点
賈クっちが賊の情報を掴んだって言うんで討伐に来たんやがこいつらも大した事ないわ。あちらさんは逃げようとしながら戦っとるんやけどそれも直ぐに全員倒せるやろ、罠の可能性も考えて辺りを確認したが特に何もなかった。
「あと少しや!全員最後まで気を抜くんやないで」
「応!!!!」
士気も悪くないし罠もない、まあこれで大丈夫やろ・・・と思ってたうちの頭を一つの可能性が過ぎる。まさか、陽動か?だとしたら伏兵がおるはずやが・・・
「今だ!かかったぞ!」
「ちぃ・・・みんな、落ち着いて目の前の敵に当たれ!」
少し気付くのが遅かった。このままではちょっちアカンな、ウチは簡単には負けんが周りの兵士達が挟撃に動揺している間に随分と減らされてもうたな。数でも向こうが有利になると此方の状況も悪くなるばかりや。
こんなんやったらもう少し連れてくるんやったな・・・しかしどないしよう
「仕方ない、助太刀しよう」
「今度は何や!?」
声のした方を見ると二人組の男女が賊と戦っている。どうやら味方が来てくれよったみたいやな、助かるで~かなり危なかったわ。
「あんたら話は後や!今は手を貸しとくれ」
「ああ、そのつもりだ」
後ろの女はそうでもないがもう一人の兄ちゃんは相当の使い手なのが直ぐに判るった。いやー助かったで、正直かなり焦っとったからなあ・・・
とりあえず今はこいつらを倒さへんとな、さてウチももうひと暴れしてやるわ
宗一視点
様子を覗っていたがこのまま何もしなければ賊の待ち伏せが成功しそうだ、討伐軍と賊の姿が見えてきた。指揮官らしき女性が何やら指示を飛ばしたようだがそれと同時に伏兵が飛び出す。賊に挟撃される形になり形勢は逆転、兵士の数もどんどん減っていく。
しかしあの指揮官の女性の武器には見覚えがある。あれはおそらく偃月刀ではないだろうか?そして孤軍奮闘するその武勇、関羽と並ぶ偃月刀の使い手とされた人物に一人だけ心当たりがある。しかしその人物は史実だとこの時期は丁原に仕えていて洛陽にいるはずなのだが・・・まあ考えていても仕方ない、助けて話しを聞いてみるのが一番だろう
「玲、気になる事がある。突っ込むぞ」
「えっ?私はどうしたら?」
「一緒に来い、オレの後ろから離れるなよ?じゃあ行くぞ!」
「ちょっと!宗一様?」
近くにいる奴から斬り捨てて行く。先ずはこの状況を何とかする為に片方の集団を徹底的に叩く、それからあの女と合流して殲滅していけばいい
「仕方ない、助太刀しよう」
「今度は何や!?」
相手に味方だとアピールして賊に切り込む、突然の乱入に困惑している賊を一気に斬り捨てる。
「あんたら話は後や!今は手を貸しとくれ」
「ああ、そのつもりだ」
玲を庇いながらではあるが潜んでいた方の集団には致命的な損害を与えた。体制を立て直す隙を与えないまま敵を殲滅していき、此方の集団の状況も確認する。
どうやらこちらもかなりの損害を受けている様で、倒れた兵士と賊が数え切れないほどいた。見方は指揮官の女と数人の兵士しか残っていないが策が破られて動揺している今、賊の壊滅は時間の問題だった。
「いやぁ~助かったで。あんたらが来んかったら全滅しとったやろうからな・・・ホンマ感謝しとるで」
「いや、気にしないでくれ。オレ達も旅の途中でな、近くで何かあったから様子を見に来た所だったんだ。間に合ってよかったよ」
「せやったんか。あ、遅くなったがうちは張遼っちゅうもんや。よろしゅう」
「オレは沖田宗一。沖田でも宗一でも好きに呼んでくれ」
「私は王異と申します。宜しくお願いします、張遼殿」
「おおそうか~。じゃああんたは宗ちゃんて呼ぶわ!王異っちはどんなんがええ?」
「お、おう」
「私はなんでも構いませんが・・・」
「じゃあ王異っちでええか。二人共よろしゅうな」
やはり張遼か。張遼、字を文遠。魏に使えた猛将だが最初は丁原に使え、董卓が政権を握った時に董卓に仕える様になった。そして呂布の裏切りの後呂布の配下となり、呂布が処刑された後は曹操に仕える。数々の戦功を打ち立て後の魏の五将軍の一人となる猛将。それが何故この時期に此処に居るのだろうか?考えられるとしたらもう既に董卓に仕えている事。この世界はオレの知っている歴史とは違うというオレの立てた仮定が現実味を帯びてくるのだが実際はどうなんだろうか?
「それにしても宗ちゃんなかなかやるなあ~ちょっと見ただけで其の辺の奴よりよっぽど強いって思ったで」
「まあ、それなりには鍛えてきたからな」
「ほ~う、それに見たこともない獲物使ってるしなあ。それどうなってるんや?」
「まあ簡単に言うなら片刃の剣だな」
「確かにちょっと反ってるけど剣やな。なんでこうなっとるんや?本来の両刃の方がええんとちゃうか?」
「まあオレはこれが使いやすいけどなあ、慣れってのもあるが」
「まあそんなもんか。うち、宗ちゃんにちょっと興味沸いたわ!どうやろ、うちの仕えてるとこに一緒に来んか?お礼もしたいし、どうやろ?」
玲を見ると任せますと視線で訴えてくる。問題も無いようだし仮説を確かめに行きますか、まあオレが色々話をしてみたいと言うのもあるんだが
「ああ、お邪魔させてもらうよ」
「ホンマか!?じゃあこの後案内するで!」
「頼んだよ」
犠牲になった兵士たちの弔いが終わった後オレ達は張遼に案内されて彼女の拠点に向かうことになった。さて、丁原か董卓か・・・それとも違う人物か。誰が出てくるんだろうかね




