第七話 オーシャンビュー!
2014/5/9 話結合
「オーシャン!」
「わぁ!」
大河を下り三千里、やって来ました大海原。
と言うことで、ここからの紹介はスライムのミルさんにやって頂きたいと思います。
現地のミルさん。
は~い(裏声)。
私は今、港町ナトランティスから2キロほど離れた場所に位置する砂浜来ております。
ご覧下さい。
この見渡す限りの水面と透き通る様な青!
エメラルドグリーンに輝く海はどんな宝石より勝るとも劣らないでしょう。
それに加えこの砂浜。
石英が多く含まれているのか真っ白な砂は、掴むとパウダーのようにサラサラと指先からこぼれ落ちていきます。
この白と青が奏でるコントラストは見るものを虜にすること間違いありません。
そしてそして、これだけ美しいビーチなのになんと!
人が居ません。
これは最早プライベートビーチです。
この素敵な空間を独り占めできる贅沢を是非。
一生に一度味わうのもいいかも知れませんね。
素敵な紹介ありがとうございました。
では、早速。
「イブ突撃だ!ヒャッホゥ」
俺はローブを脱ぎ捨てると海に向かってダッシュする。
前方抱え込み宙返り1回ひねり転で飛び込んだ。
決まりましたミル選手10点。
イブを見るとスカートを捲り恐る恐る水に足をつけていた。
ちらっと太股から覗くナイフがセクシーだ。
イブは海が初めてだ。
緊張しているのかもしれない。
ふぅ。
ほんの少しだけ、はしゃぎ過ぎた。
「イブ、大丈夫?」
「ん、面白い」
目を細めて笑う。
波が引くときに砂を持っていかれる感覚を楽しんでいるようだ。
乙女だ。
暗器を全身に隠し持っているくせに。
帯刀してるくせに。
やはり本職乙女は違う。
にわかとの格の違い見せ付けられた。
はしゃいでいた私が馬鹿みたいだ。
いや、外見的には分相応と言える。
セーフだ、セーフ。
「姉様、姉様」
イブがしゃがみながら巻き貝を拾ったようだ。
やめてくれ。
俺にそんな乙女アイテムは要らない。
「人に刺さりそうですね?武器に成りそうです」
そう言ってポーチに入れる。
全然乙女じゃなかった。
でもそっちの方がイブらしい。
よっしゃ。
浮かれた私はイブに飛び付くと勢いで押し倒した。
バッシャーンと音をたてて水飛沫が辺りに舞う。
濡れたメイド服ミルオリジナルverは後で再生成すればいいしね。
「わぷっ、姉様?」
「すでに戦いは始まっているのだ」
「わ、んー。えぃっ!」
気が付いたら視界は反転して、私の方が倒されていた。
マウントポジションを取られた。
くそ。
体術だけでは分が悪い。
こうなったら、戦略的撤退だ。
な、何?
動かない。
完全に関節を押さえられ加重も制御されている。
「い、イブ?」
「・・・姉様。美味しそう」
それは捕食者の目だった。
ふむ。
場の空気に酔っていたのは俺だけでは無かったようだな。
もしかしたら、スライムには依存性があるのかも知れない。
禁断の果実とはよく言ったものだ。
そろそろ、お姉ちゃんを食べるのも辞めさせないといけないかも知れないな。
考えてもみてくれ。
「はぁ、はぁ、姉様。お願い…。姉様が欲しいの」なんて蕩けた目で言われた時には、逆に襲ってしまうかもしれない。
ゴールまで一直線だ。
それにお姉ちゃんを食べる妹。
なんかエロいが、文字通りの意味なら猟奇的な気がする。
そんな、事よりも今の状況をなんとかしないといけないな。
全裸の美幼女を襲う美少女。
絵面的にアウトでは無いか。
「イブ、だめ」
「ちょっと。……ちょっとだけ」
ちょっとかぁ。
ちょっとなら良いよな。
「ちょ、ちょっとなら」
「ありがと、姉様ぁ。はむっ。ねぇはま」
ふぅ。
良かったな。
何が良かったって?
外見をおじさんとかにしなくてさ。
※
「おい!サンセウントにスライム商会が現れたって」
「マジか!隣じゃないか、くそ」
スライム商会。
それは数ヵ月前から現れるようになった。
従業員、本拠地、仕入先、目的など全て謎に包まれた移動式店舗の総称。
神出鬼没に現れ、魔物の素材、武具、薬品など信じられない値段で売っていく。
光竜の宝玉が250Gで売られていたのも確認されたらしい。
サラリーマンのお昼よりも安いのだ。
それだけではない。
数度、ギルドをあげて足取りを掴もうとしたが一切尾行を許さず何の手掛かりもえられなかった。
従業員は全てが統一された仮面をつけ、徹底した沈黙を貫き、その一人ひとりの実力も一流の冒険者並だという。
同時に数ヶ所で稼働されたこともあり、大規模な組織で動いていることは間違い無い。
水面下で何かがおこっている。
そんな気がする。
「スライム商会。一度見てみたいですね、姉様」
「ソウダネ」
俺達はナトランティスで食事をしていた。
魚介類が豊富な食事の数々は俺の舌を唸らせる。
存分に海を満喫し新鮮なお魚を食べまくる。
極楽は存在したよパトラッシュ。
「スライム商会ですか?巷では幾つかの都市伝説になっていますね。曰く邪神復活の為の闇の組織だとか、王国の転覆を目論む他国の諜報組織だとか。
先日にガナ王国でスライム商会に関する懸賞が出されたそうですよ。なんでも、本拠地を見付けた方には白金貨3枚も貰えるそうですね。
それよりも、これ美味しいです。有象無象が私の糧に成ることを主に感謝です」
邪神かぁ。
そんなのも居るのか。
恐い世界だな。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
なん、だと!?
何故奴がここに居る!
奴は名も知らない街に置き捨てたハズ。
馬鹿な!奴は大魔王だとでもいうのか?
ゆっくりと隣に振り向く。
おォ、神よ。
俺が何をしたと言うのでしょうか。
こんな仕打ちあんまりではありませんか。
俺の宿敵。
レイチェルの姿がそこにはあった。
「あら?ミル様、頬に食べこぼしがついていますね。とって差し上げましょう。あむ」
な、な、何しやがるんだこの女。
俺の、ほ、頬に、き、キスしやがった。
(この世界で)産まれてからイブ以外の誰にも触らせた事の無かったこの俺に。
余りの衝撃に頬を押さえ立ち上がる。
「うぅ、イブゥ。お姉ちゃん穢れちゃったよ」
「………」
「何を仰るのです?生娘ではあるまいし。ねぇ、い……」
うぉ!
イブの殺気が膨れ上がった。
何時もの怒り容量が2KBだとすると、今は4TBだ。
少しふざけ過ぎたかもしれない。
流石の電波もこれにはガクブルだ。
おい、俺を盾にするな。
止めろ。
お前に行くハズの殺気が全部俺で遮断されるんだぞ。
そして、イブ。
柄から手を放しなさい。
「い、イブ。刀振り回したら危ないよ?」
「大丈夫、姉様。後ろの塵虫だけ斬るから」
「どうやって?」とは聞けなかった。
言ったが最後、実践される気がしたから。
携帯があれば、『最近うちの娘が恐いです。怒ると直ぐに抜刀します』と知恵袋に上げただろう。
レイチェルは何をしているのかと言うと、「はぁ、はぁ」と息を乱し恍惚に頬を染めていた。
もしかして、イブに貶されて興奮しているのか?
電波でレズでドMなど、とんでもない変態だ。
どんなに祈ろうが主はお救い下さらないのでは無いだろうか?
いや、主も同じ穴の狢という可能性もある。
嫌だな。
こんなのが集まる聖教会なんて。
「た、大変だ!魔族が現れたぞ!!」
大きな音をたて扉を開けると男が叫ぶ。
いきなりの事に騒然とする店内。
一拍をおいて全員が動き出した。
「ほ、ほらイブ。魔族が現れたって。逃げないと」
魔族が何者か知らぬが良いタイミングだ。
これに乗らない手はないだろう。
何でこんな変態を庇わなければ成らないか分からないが、取り合えず今はイブを落ち着かせよう。
というか、何でイブはこんなに取り乱しているんだ?
ぁあ。
さては、嫉妬か。
大好きなお姉ちゃんが、ぽっとでの女にちょっかい出されたから怒っているんだな?
ふふ、可愛いやつめ。
ちょっと嬉しい。
「……塵虫」
「あ、今、塵虫と書いてレイチェルと読みましたね?」
お前は何故、場を掻き回すのだ。
誰かぁー。
助けて下さい。
逆転裁判では異議アリを連打していればなんとかなるけど、そんなことではイブ裁判官の目は誤魔化せないんだぞ。
覚えておけ。
弁護士の最大の敵は被告人だ。
「おぃ!お前たち、何をやっているんだ早く逃げろ」
外では怒声と爆発音が飛び交う戦場と化し。
先ほどまで賑わっていた街の姿はなくパチパチと燃え上がる炎が街を彩っていた。
魔族どんだけ強いんだよ。
考えていたよりも大事のようだ。
さっさと逃げないと余計な面倒事に巻き込まれてしまう。
「ね、イブ。早く行こ?」
「…………うん」
ムスッとした表情で立ち上がる。
こんな駄々っ子イブちゃんも初めてだ。
店には誰も残って居ない。
すでに皆、逃げたようだ。
「早く行って!」
「やだ!おかぁさん!!」
ヒュゥウゥウゥゥン、シュバァン!!
扉を開けて、直ぐに嫌なものを見た。
謎のエネルギー弾の様なモノが、倒れた母親らしき人の上半身を消し飛ばした。
あれが、魔族か。
なんというか想像と全く違っていた。
ド○クエのレッサ○デーモンの様なモノを想像していたけど、どちらかと言えばベルセ○クのゾッ○の様な感じだ。
5~8mはある。
助けて黒の剣士さん。
って、イブさん何やってるんですか?
イブは泣き崩れる女の子の前に立つと刀を抜き切っ先を魔族に向けた。
私が呼んだのはメイドの剣士ではなく冥土の剣士だ。
女の子は放って早く逃げよう。
そんな私の考えは他所に魔族は周囲に浮かぶエネルギー球(仮を放った。
くそ。
ヘイト値管理出来ない奴は狩猟笛使っちゃいけないんだぞ。
「主よ光の加護を我等に与えん」
私が庇おうと前に出る前にレイチェルが呟きながら印を伐った。
放たれたエネルギー球(仮が光の膜に当たると軌道が反れイブの脇を通過していった。
「貴様、我にあだなすか?」
タゲが完全にイブに移ったようだ。
イブは遮蔽物を利用しながら、降り掛かるエネルギー球(仮を
避けていく。
というか、あんなにデカイ図体の割にはやるるとがせこいな。
安置エリアからの遠距離攻撃なんて何処のゆとりだ。
まぁ、気が反れている今がチャンスか。
不意討ちなら任せてくれ。
音もなく奴の背後に忍び寄り一気呵成。
俺の蹴りが奴の脇を抉った。
文字通り脇が甘い!
「ガァアァァアァ!!」
一撃で仕留められないか?
奴が叫ぶと抉った場所を筋繊維が結び付き再生しようとする。
魔族の強さはB+級といったところか。
いや、セコさプラスしてA級だな。
だが、今の隙をイブが逃すハズも無い。
地に堕ちた魔族にイブが迫った。
「シッ!」
一呼吸の元抜刀し、瞬く間に刀身を収める。
チンッ……。
「また、つまらぬモノを斬ってしまった」
あ、前に俺が頼んだこと言ってくれた。
思った通りよく似合う。
ゴトリという音と共に魔族の頭部が転がる。
これで任務完了か。
と思ったらレイチェルが油をかけ火をつけた。
「魔族は燃やして灰にしないと復活しますよー?」
良いところを持っていかれた気がするが何はともあれ無事終了。
さっさとこんな辛気臭い場所から避難しよう。
「あれ?イブ様ー。ミル様ー。魔核忘れていますよ?」
「………あげる」
だから、ソイツを持ってさっさとどっかに行ってほしい。
「ほんとですか?嬉しいです。でも、そんな他人行儀なこと仰らないで下さい。私たちはもうパーティなのですから。これは皆の功績です」
もう。
ホント勘弁してください。