第四話 逃げるスライム
2014/5/9 話結合
「よし、良く見ておくのだ。お姉ちゃんが狩りの基本を教えてやる」
「はい」
ふふ。
こうしていると昔を思い出す。
勿論猟師をしていた経験は無くゲームの話だ。
俺は吹き矢にスリープダートを仕込みファウンドベアに狙いをすます。
先ずはこれで捕獲だ。
スニーキングゲームで鍛えた俺の腕を見せてやる。
息を大きく吸い込み。
一気に吹き出す。
パァン!!ドゴオォォオォン!!!
「…………………………」
「…………………………」
スリープダートはファウンドベアの頭は吹き飛ばし、貫通した弾は当たっていった木々を薙ぎ倒した。
「………じゃあはい、やってみて」
そう言ってイブに吹き矢を渡す。
何回かピュッピュッと吹き矢を飛ばした後イブは言った。
「無理」
「……………うん」
※
先程は失敗してしまったが今度は大丈夫だ。
自分にそう言い聞かせながら弓を取り出した。
「じゃじやーん」
「弓?」
そう文明の知恵が産み出した利器だ。
これは糸の張力を利用して矢を飛ばすのだ。
そんなことは馬鹿でもわかるな。
だが侮ることなかれ。
糸の張力を利用すると言うことが肝心なのだ。
俺の力がどんなに強かろうと糸の限界以上の威力にはならない筈だ。
「さて、見ていろイブ。これが狩りというものだ」
「うん」
俺は弓と弦を指で挟み適当にひく。
遠くにいるアダマントボアに狙いを定めて指を離した。
パァン!!ドゴオォォオォン!!!
「なんで!?」
矢はアダマントボアの頭は粉砕し、貫通した矢は当たっていった木々を薙ぎ倒した。
やはり俺には無理なのだろうか。
うちひしがれ膝をつく俺の肩をポンポンとイブが叩く。
こんな駄目な俺を慰めてくれるのかい。
仕方がない。
当初の目的通り薬草だけ採取して帰路についた。
※
薬草採集の報酬は銅貨1枚に屑銭5枚だった。
小学生のお小遣いかよ。
※屑銭一枚で1Gです。
「あ、ミルちゃん」
俺をちゃん付けで馴れ馴れしく呼ぶのはあの受付嬢。
「このあと一緒にお食事どうかな?」
ほう、一緒に食事か。
さては俺に惚れたな。
まぁ、さっきの約束を覚えていたのだろう。
義理堅い人なのかも知れない。
「お姉さんもお仕事終わりですか」
「うん。今日はもうお仕舞い。ミルちゃんの初仕事のお祝いにお姉さんが奢ってあげる」
「ほんとですか?ありがとうございます」
※
「そう言えばね、街の近くで頭部の無いC級の魔物の死体が発見されてね」
それは怖いな。
猟奇的だ。
「強い魔物が来ている可能性があるから気を付けてね」
強い魔物か。
ドラゴンかな。
まぁドラゴンくらい強いスライムならここに居るんだけどね。
「分かった。気を付ける」
ガッシャーーン!!
「ンジャ、コラァアァァ!!」
いきなり某侍ゲームのチンピラのような声が店のなかに響く。
その、怒りの矛先は全身を蒼い鎧でおおった人間だった。
ロ●か!
「勇者だかなんだか知らねぇけど調子乗っちゃってくれるじゃん?にぃちゃん」
兜から覗く二つの鋭い眼光はかの世紀末覇者を彷彿させた。
ラ●ウだな。
ラオ●に●トの装備を着けたらあんな感じだ。
あれは強い。
たぶん今の俺かそれ以上かもしれん。
「あ、あれは!」
「知っているのですか、お姉さん」
「彼の名はジェイソン・ステイサン。かつて、腰布すら付けずに裸で砦を陥落させた通称裸の王者です。他には蒼の勇者などとも呼ばれていますが裸の王者が一般的ですね。ですが何故彼がここに…。彼は冒険者ランクSを持っている数少ない人間です。彼ほどの実力を持った勇者も多くはないでしょう。その彼が、辺境の街に訪れる理由が思い浮かばないのですが」
説明ありがとう。
ふむ突っ込みどころが多かったな。
奴は変態なのかや裸で砦を陥落する状況とは何なのか、勇者が何人も居るのか、という疑問が頭に浮かんだが、まずそもそも勇者がいたのか。
勇者が居るということは魔王が居るかも知れないということ。
この世界に居るのは長いが初耳だった。
「きいてんのかテメェ、プギャアァァ!!」
目にも止まらぬ早さでチンピラの頭を左手で掴むと持ち上げる。
そのまま外に出ていくと握り潰した。
イヤーースプラッター。
そのまま、死体を放置すると勇者は去っていった。
「ぁ、食い逃げ」
※
くそ、Sランク勇者とかやべぇよ。
おまけになんかキチガイっぽかったし。
あんな奴の側に居てせっかく作ったミルスライム壊されたらたまったものじゃない。
早いとこズラかるぜ。
ということで俺はイブを連れて夜のうちに街を出ていた。
何が目的か分からないが勇者が居たところでろくなことには成らないだろう。
君子危うきに近寄らずだ。
俺はもっと楽しみたいんだ。
さて、さっきの街でてに入れた情報を整理するか。
まずこの世界には勇者が居る。
さっきのキチガイ勇者ジェイソンはSランクだ。
ということは黒龍レベルの魔物を討伐出来るレベルということだ。
俺もかつて黒龍を発見したときチキンプレイでばれないよう壁際によったところをすり抜けて背後から一撃で仕留めたが、攻撃を受けたわけでは無いからもし正面でぶつかっていたらどうなるか分からない。
あぁ、卑怯とでもなんとで、もいくらでも罵るがいい。
俺は何を言われようが安全マージンを第一にと心情にしているのだよ!
俺でなくともRPGでセーブ出来なかったら『ガンガン行こうぜ』なんて指示は出さないハズだ。
それと勇者が居るということは魔王が居るかも知れないということだ。
それも、魔王の実力はヤバイと予測する。
何故ならこの世界には何人も勇者が居るらしいのだ。
キチガイ勇者ジェイソンレベルも多くはないと言っていたが、多くはないと言うことは少なくとも一人ではないということ。
もし魔王という存在が存在するのならば、その実力は計り知れない。
黒龍とタイマンを張れるような人間が束になって拮抗するというのだ。
よかったぜ。
自分が最強だと勘違いして暴れなくて。
少なくとも自分の陣地から出たことなったからな。
居たとしても目はつけられていないだろう。
……………つけられていないことと思いたい。
自分が最強なのもつまらないが、かといって自分よりも強い奴と戦いたいわけでは断じて無いからな。
さて、このままずっと北上すればこの国の王都につく。
だからあえて俺は東へ向かおう。
何故かって?
思い出してみなよ受付嬢のお姉さんの言葉を。
「その彼が、辺境の街に………」と言っていた。
辺境の街に居る事がおかしいということは辺境の街で無いなら居てもおかしくないということ。
となれば、王都など辺境っつうか中心都市にはその手のやからがうようよしているハズだ。
わざわざ蛇の尾を踏みに行く必要はあるまい。
いいかよく聞け。
「無双していいのは勝てる確証があるときだけだ!」
「う、うん」
つい口に出してしまった。
イブも「何の事やらサッパリだぜ」という顔をしている。
そう。
今はまだその時ではないのだ。
私には、情報が必要だ。
調べて無理っぽかったら影でこそこそ生きればいい事だしな。
よし、これからの方針は決まった。
ミルはかんこ……情報収集を。
オリジナルの俺はコソコソと戦力の増強だぜ。
目指すは、ぇーっと。
………ここを西に行くと国を出て………エルキア?
エルフの国か。
よし、目指すはエルフの国だ。
※
話は移り俺(本体)はダンジョンに居た。
この世界にはダンジョンというものがありその最奥にはダンジョンを支配するボスが居る。
ボスはそんなに強くない。
壁をすり抜けて最短でボス部屋まで行き背後からトドメをさせばいいのだ。
人間がボスを倒せば経験値(後なんかアイテム)が手に入るだけだが、魔物が倒せばそのダンジョンの権利が移行する。
今ここのダンジョンは俺の物だ。
俺はある計画を進めている。
分裂というスキルを見付けたのだ。
有効利用しない手はない。
俺はダンジョンの魔物を片付けると作戦を第二段階へ以降する。
俺は分裂して、分裂した俺は分裂させないでそのままにしておく。
そうすれば、純度の高いスライム軍団が作れる筈だ。
先ずはこの300層あるダンジョンをスライムで埋め尽くしてくれるわ。
そして埋め尽くしたら次のダンジョンへ。
・・・一人だけで戦略シュミレーションゲームをやっているようだが気にしない事にする。
始めた理由は特にない。
別にF級だった事を気にしているわけじゃないんだからね。
数の力は何よりも勝るのだ!!
たぶん。
※
【主人公ステータス】
オリジナル
》総合能力不明
》スキル
変形 『分子単位で変形が可能』
分裂 『自身の半分の性能を持った分身を作る』
体当り 『相手に物理ダメージを与える』
》持ち物
ダンジョン 00001
分身スライム数 360匹(ミルを除く)
》所持金『0G』
ミル
》総合能力A級
冒険者ランクF
》スキル
変形 『分子単位で変形が可能』
分裂 『自身の半分の性能を持った分身を作る』
工芸 『自分の体から想像したモノを生成』
徒手格闘『相手に物理ダメージを与える』
武器使用『武器を使う』
》持ち物
ローブ
吹き矢
弓
吹き矢
短剣
イブ(外見年齢4歳)
》所持金『15G』