第三話 人里
2014/5/9 話結合
「そこの怪しい奴止まれ!」
門番が叫ぶ。
俺は街に来ていた。
「早く止まれ!」
怪しい奴か。
もうすぐ春も終わるってのに昼間からご苦労な事だ。
そう思いながら俺は門に近付いていく。
「お前だ!お前」
肩に衝撃が加わりつい振り替える。
そこには先程まで叫んでいた門番が立っていた。
「なんだ?中に入りたいのだ……です。私に構わず早くその怪しい奴とやらを捕まえてくr、ださい」
「お前がその怪しい奴だ!」
そう言って被っていたフードを脱がす。
失礼な。
「む、女か。年は幾つだ?」
私の顔を見て少し態度が軟化した。
それはそうだ。
私は美少女だからな。
このロリコンめ。
「たぶん9~11歳、です」
「まだ、子どもじゃないか!隣の子どもは?親はどうした」
赤ん坊に私を与え続けていたら何と僅か数日で4歳くらいの外見に成長した。
流石万能スライム。
子どもには『イブ』と名付けた。
イブは私から離れようとはしない。
つねに私の手かローブ等をつかんでいる。
小判鮫みたいだな。
「もし、私がこの子が妹で親が死んだと言ったら信じる、ますか?」
意外と敬語は難しい。
魂レベルで格下の相手に敬意を表すのを拒否しているようだ。
「ん?あぁ」
「じゃあ、それで」
「じゃあ、ってなんだ。じゃあ、って」
「信じないのですか?まさかさっきの言葉は嘘だったのですね。悲しいことです。こうして私達力の無い無力な子どもは大人に、社会に良いように使われるのです。よよょ」
最後に泣き真似をする。
昔見た映画の修道女の真似をして見た。
演じている時は上手く敬語を使える。
今後はこんな感じでいくか。
「わかった、信じる」
辟易とした顔で返事を返す。
「よっかったでは通って良いのですねありがとうございます」
「………ま、良いがな。面倒は起こすなよ。それと、フードは被らない方が良いんじゃないか?」
馬鹿め。
一見頭まですっぽり被って防御力が高そうに見えてその実はローブを羽織っているだけで中は裸というところが良いのではないか。
まぁ、こんな凡人に言ったところで理解はされないな。
「私の様な美少女が居たら襲われるに決まっています」
「………自分で美少女とか言っちゃうのね」
※
「ねーちゃ」
イブは既に言葉を覚えた。
言語野が発達しているからだろうけど言葉を3日で覚えた。
うちの子は天才ではなかろうか?
「なんだい?イブ」
くいっ、と服を引くイブ。
可愛いのぅ。
娘というよりは妹といった感じだ。
故に姉と呼ばせている。
今はまだ舌足らずではあるが、将来はお姉様と呼ばせてみるのもいいかもしれない。
別に百合なアレを見たいわけではない。
イブは俺の手を引くと指をくわえる。
舐めるように舌を動かしながら指を吸っていく。
すでに固形物は食べられるのだがイブは俺を食べることが好きなようだ。
あ、なんか今のフレーズエロかったな。
ぷはぁと息をはき私の指を離す。
と思ったらまたくわえた。
イブは何でも無いときでも私の指をくわえようとするからな。
ライナスの毛布のようなものか。
さて人里にきたはいいがどうしたものか?
領土制圧?
いつでも出来るな。
宿探し?
何処でも寝られるしなぁ。
うーむ………。
よし!
先ずはギルド登録だな。
※
「どうしたのかな」
受付のお姉さんが、にこにこしながら俺を見下す。
まぁ背が低いから見下されるのも致し方無いか。
というか転生してから数百年一度も見下されなかったことはない。
これもスライムの悲しき性よ。
というか、いつも思うのだがこんなところに美人のお姉さんがいて大丈夫なのか。
受付にいる3人の女性を見ても皆美人だ。
ギルドマスターの趣味の良さが伺える。
きっと顔で選んでいるな。
あとおっぱい。
「お姉さん綺麗ですね。私と食事でも行きませんか?」
「ふふ、ありがと。お仕事が終わったらね」
適当にあしらわれてしまった。
こやつは俺が子どもだと思って侮っているらしい。
宜しいならば戦争だ。
今のうちにいくらでも侮るがいい。
その豊満なおっぱい、たわわにしてくれるわ。
「ついでに、ギルド登録もお願いします」
「わかったわ。じゃあこの紙に記入してね。あ、文字は書けるかな?」
なめるな小娘。
伊達に漢検一級持っていたわけではないわ!
俺にかかれば文字の百や二百種類容易い事だ。
だが、ここで書けると言うのは三流のやること。
俺のような一流は書けないふりをして敵の保護欲を促し尚且つ会話の回数を稼ぐのだ。
因みに補足をしておくが、子どもがおこずかい稼ぎにギルド登録をすることは珍しくない。
薬草採集とか掃除の依頼とかそうゆうのもあるからな。
「いえ、分かりません!」
「そっか、じゃあ質問していくから答えていってね?」
「分かりました」
隣のイブは俺のかつて無い変なテンションに驚いているようだ。
口をポカンとして見上げている。
飴を精製して放り込んでおいた。
「先ずはお名前は?」
「ミルです。こっちの子は妹のイブ」
「あ、二人で登録するのね。分かったわ」
※
幾つかの質問を終えカードを2枚渡される。
ギルド証だ。
勿論再発行にお金がかかるのは言うまでもないな。
イブはキラキラした目で嬉しそうに私からその内の1枚を受け取る。
物をイブにあげたことは無いな。
初めての自分の物だ。
嬉しいのだろう。
「ギルドについて説明はいるかな?」
「宜しくお願いします」
普段ならチュートリアルなどスキップするのだが美人のお姉さんが説明をするのなら話は別だ。
いいだろう。
聞いてやろう。
「先ずこの渡したカードなのですが冒険者ギルドとしての証しとなります。普段使うことはありませんが時折提示させてもらう場合もございますので無くさないで下さいね。再発行両として銀貨3枚が掛かってしまいますので」
価値の低い順に屑銭、銅貨、銀貨、金貨、大金貨、白金貨が存在する。
屑銭が10枚で銅貨。
銅貨が10枚で銀貨。
銀貨が10枚で金貨。
金貨が100枚で大金貨。
大金貨が100枚で白金貨だ。
勿論国によって貨幣の価値は変わるがこの国ではだいたい銅貨が約1$、100円程度の価値だ。
100万円分の価値のある大金貨や1億円分の価値のある白金貨は滅多に市場に出回る事が無いためお目にかかる機会は少ない。
「お仕事、依頼については彼方を御覧ください」
そう言って受付嬢は指し示した先にはFからA、Sランクと書かれたボードの上に紙が貼られている。
依頼書だ。
簡単にランクの内容を説明すると、
Fランクは薬草採集、兎狩り、スライムなどのF級の魔物の討伐。
EランクはゴブリンなどのE級の魔物の討伐。
DランクはF級の魔物の集団かビッグベアなどのD級の魔物の討伐。
CランクはE級の魔物の集団か変異種・上位種、アダマントボアなどのC級の魔物の討伐。
BランクはD級の魔物の集団かワイバーンなどのB級の魔物の討伐。
AランクはC級の魔物の集団かドラゴンや吸血鬼などのA級の魔物の討伐。
SランクはB級の魔物の集団かドラゴンの変異種・上位種、黒龍などのS級の魔物の討伐。
ここにはボードが存在しないがEXランクのクエスト(A級の以上の魔物の集団の討伐)が存在するらしい。
というかスライムが兎と同列とか悲しかった。
いつかスライムの恐ろしさを世界に知らしめたい。
「あれはクエストボードといって冒険者の受けられるランクの依頼によって分けられています。AランクならAランクまでのCランクならCランクまでのクエストを受ける事が出来ます。初めはFランクから始まりますのでミルちゃんたちが受けられるのはFランクからね」
ちゃんとか本当なら俺の方がちゃんと呼ぶ年齢なんだがな。
話が長いからか気が付いたらイブが俺の足にもたれ掛かり眠っていた。
「ランクの中にも難易度があってポイントによって難しさが変わります。このポイントは依頼を達成したら加算されていき一定のポイントに達したらランクが上がります。ポイントが高ければ難しくなりますが、その分速くランクをあげることが出来ますね。
それとEランクからは3人以上でパーティ登録が出来ます。パーティにはランクが付きパーティランクによっては自分の冒険者ランクよりも高いランクのクエストを受ける事も可能です。詳しくはパーティ登録の際にまた聞いてね。
説明は以上になります。なにか質問はありますか?」
「いえ、ありません。ありがとうございました」
「どういたしまして。このあとミルちゃんはどうする?依頼を受けてみるかな?」
「はい、じゃあこの薬草採集を受けてみます」
「分かりました。収集した薬草はここまで持ってきてね。頑張ってミルちゃん」
「はい、頑張ります」