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 家までの道を、ほろ酔い気分で奏多と歩く。いつもだったらバスに乗る距離だけど、バスに乗ろうとは、どちらの口からも言い出さなかった。

 もう少し一緒に、歩きたかったから。

 頬に当たる夜風が心地よい。暑くもなく、寒くもなく、雨の季節が訪れる前の、わたしの一番好きな季節。


「綾子さんのお料理、美味しかったね」

 久しぶりにいただいた綾子さんの手料理は、お母さんの味がした。お腹いっぱいご馳走になって、満足気分のわたしに奏多が言う。

「日和、お前さぁ、ちゃんと飯食ってんの?」

「え」

「一人だからって、手抜きしてんじゃねぇの?」

 何も言い返せないわたし。確かに奏多が家を出てから、まともに食事を作っていない。

 だって食べてくれる人がいないから、何の張合いもないんだもん。

「食事には手を抜くなって、いつも千景さんが言ってたろ?」

 奏多の口から出た、わたしの母の名前に、きゅっと胸が痛くなる。

「奏多こそ、ちゃんとご飯食べてるの?」

「日和よりはまともに自炊してる」

 隣を歩く奏多の姿をちらりと見る。すると奏多もわたしを見て、自慢げに言った。

「おれは一人でも、毎朝味噌汁作ってるし、昼は弁当作っていくし、夜はバイトの賄い食う時や、風子のお母さんにおかず分けてもらう時もあるけど、それ以外はちゃんとご飯作ってる」

「……偉い」

「偉いじゃないんだよ。お前ももっとちゃんとしろよ」

「奏多にそんなこと言われるとは思わなかった。大きくなったね」

「なんだそれ」

 ふうっと笑うわたしの隣で、奏多があきれたようにため息をつく。そしてわたしから視線をそらすと、なんとなく空を見上げて、こんなことを言った。


「おれさ……ひとこと謝りたいんだよな。お母さんたちに」

 わたしは黙って、奏多の横顔を見つめる。

「おれの本当のお母さんは、毎日仕事ばかりしてたから、あんまりおれと遊んでくれなくて。だからあの頃は、お母さんといるより、日和の家にいたほうが楽しかった」

 ――日和ー、かなたんが来たよー。

 小さい頃、恵さんの陰に隠れるようにして座っていた、奏多の姿を思い出す。

「今なら、お母さんはおれを育てるために、必死に働いてくれてたんだってわかるけど……あの頃は全然わかってなくてさ」

 奏多が夜空を見ながら、ふっと息を吐く。

「おれ、お母さんの前で、あんまり笑った記憶がないんだ。きっといつもふてくされてた、可愛くない子どもだったと思う。本当は一緒に遊んだり、一緒に笑って欲しかったんだけど、それも言えなくて……」

 初めて聞く奏多の言葉。ずっと一緒にいたのに、わたしはそんな奏多の気持ち、何にもわかっていなかった。

 黙ったままのわたしに振り向き、奏多が笑って言った。


「でさ、二番目のお母さんは、めっちゃ口うるさくて。飯食いながらテレビ見るなとか、肘ついて食うなとか……あー、この人ウザいっていつも思ってた」

 そう、わたしの母は、お母さんを亡くした奏多を特別扱いするわけでもなく、自分の子どもと同じように接していた。

「だけどそれも、おれのことを思ってくれてたんだって、今ごろになって気づいて……あー、おれずっと、何やってたんだろうなんて最近思ってさぁ」

「奏多……」

「今さらこんなことに気づいても……もう遅いのに」

 奏多のお母さんも、わたしのお母さんも、もうこの世にはいないから。

 ありがとうも、ごめんなさいも、ごちそうさまも、おやすみなさいも……もう言うことはできないから。


「……大丈夫だよ」

 すっかり大きくなった奏多につぶやく。

「大丈夫。お母さんたちは、ちゃんとわかってくれてるから」

「……そうかな」

「そうだよ」

 奏多にそう言って笑いかける。奏多もわたしの前で小さく笑う。

 ひとりぼっちの奏多と、ひとりぼっちのわたし。

 まだまだ頼りないわたしたちだけど、お母さんたちは空からずっと見守ってくれる。きっと――。

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