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 その日は平日だったから、わたしは仕事へ、奏多は学校へ行かなければならなかった。

 二人で朝食を食べ終えると、片づけもそこそこに支度をし、わたしたちは一緒に外へ出る。

 一瞬、あの男の姿がよみがえり、わたしは足がすくんで立ち止まってしまった。

「日和?」

「何でもない。大丈夫」

 そう言って笑ったわたしの前を、奏多が自転車を押しながら歩き出す。わたしはそんな奏多の後ろを黙って歩く。

 大きくなったなぁ、奏多の背中……そういえば自転車に乗れずに、いつもめそめそ泣いていた奏多を特訓して、乗れるようにしてあげたのはわたしだった。

 ふらふらと、頼りなく揺れている自転車の後ろを支えて、奏多の小さな背中を見守りながら……。


「日和、お前さ。今晩から慶介さんとこ、泊めてもらえよ」

「え?」

 目の前を歩く奏多を見る。奏多は前を向いたまま、わたしにつぶやく。

「あそこなら会社のすぐ裏だし。しばらくこの家には帰って来ない方がいいと思う」

「でも……」

「大丈夫だよ。事情を話せば、綾子さんだってわかってくれるだろ?」

 そうだけど……。

 奏多が立ち止り、わたしに振り向いた。バス停は右へ、奏多の高校は左へ。別れ道に来ていた。

「それじゃ」

 自転車にまたがり、左へ曲がろうとする奏多を見ながら思う。

 奏多は何にも感じないのかな。わたしが慶介くんにお世話になっても、何も感じないのかな。

 なんだろう……胸の奥がヘンな気持ち。


「風子ちゃんに……よろしくね」

 思わず出たその言葉に、奏多が動きを止めてわたしを見る。

「わたしこの前、アパートのそばで会ったの。可愛くていい子だよね、あの子」

「あのさ、念のため言っとくけど」

 奏多がため息をつくようにつぶやく。

「おれ、風子とは何にもないから。高二の時、『付き合って』とは言われたけど」

「え……」

「でも断った。そしたら普通の友達でいてっていうから……それだけだよ」

 普通の友達……風子ちゃんは、本当にそう思っているのかな。

 奏多の部屋で見た、バースデーカードの文字が頭をよぎる。


「だけど風子ちゃんには、ずいぶんお世話になってるでしょ? 今度風子ちゃんのお母さんにも、お礼に行かないと」

「いいよ。そんなの」

「でも保護者として挨拶くらいは……」

 そこまで言ってハッと気づく。保護者……そうだ、わたしは奏多の保護者なんだ。

 顔を上げると、奏多が怒ったような顔でわたしを見ていた。

「そうだよな。保護者として、勝手に挨拶でもすれば」

「あ、ちょっと、奏多!」

 わたしに背中を向け、振り向きもせず走り去って行く奏多。

 ああ、怒っちゃった。

 だけどわたしは奏多を見守る立場で……それなのにキスとかされてうかれちゃって……何やってるんだろう。

 もやもやした気持ちのまま、バス停へ向かって歩く。

 これから奏多とどういう気持ちで接したらいいのか、わからなくなっていた。

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