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 明るい日差しの中で目を覚ます。いつもとどこか違うのは、開け放たれているカーテンと、台所から漂ってくる味噌汁の香り。

「奏多?」

 ゆっくり起き上がりながら、ぼんやりとした頭で昨夜のことを思い出す。

 月明かりの部屋の隅で、奏多と寄り添い合ってキスをした。奏多はずっとわたしの手を握っていてくれて、それから……それから?

「いつ寝ちゃったんだろう……わたし」

 布団の中に残っているのは奏多のぬくもり。わたしの右手も、ついさっきまで握られていたみたいに温かい。

 それは一つの布団で一緒に眠った、あの頃と同じように。

 そう思ったら、無性に恥ずかしくなって、わたしは恐る恐る部屋を出て、階段を下りた。


 台所をのぞくと、制服を着た奏多が背中を向けて、味噌汁を作っていた。

「奏多……おはよ」

 消えそうな声でそう言うと、奏多はちらりとわたしを見てから、何事もなかったように後ろを向いた。

「飯食う?」

「つ、作ってくれたの?」

「自分が食いたかったから、作っただけ。別にお前のためじゃない」

 ぶっきらぼうに言いながら、奏多はご飯をよそい、わたしの前に差し出した。

「ほら、ぼうっとしてないで、運べよ」

「う、うん」

 言われたとおりにご飯と味噌汁を居間へ運ぶと、奏多が玉子焼きを持ってきた。

「とりあえずおかずはこれだけ。冷蔵庫の中、何にもねぇんだもん」

「ごめん。一人だと作る気がしなくて」

 あきれたようなため息をついてから、奏多は「いただきます」とご飯を食べ始める。

 数週間前と変わらない日常。昨日の夜、泣いているわたしを抱きしめて、ずっと手を握ってくれた奏多はいないけど、こっちのほうがやっぱり落ち着く。


「あのさ……奏多?」

 目の前で、ご飯を口にかきこんでいる奏多に聞く。

「昨日の夜なんだけど……あんたわたしに、ヘンなことしてないよね?」

 突然箸を止めた奏多が、乱暴に茶碗を置いて、わたしのことをにらむように見る。

「するわけねぇだろ。人のこと呼び出しといて、勝手にグーグーいびきかいて寝ちゃう人になんか」

「え、わたしいびきかいてた?」

「かいてた。よだれ垂らして」

「うそっ」

 にやりと口元をゆるませて、奏多は玉子焼きを口に入れる。わたしはそんな奏多から目をそらし、うつむきがちにご飯を口に運ぶ。

 しばらく会話もないまま食事を続けていたら、奏多がわたしの前でぽつりと言った。


「これ食ったら……あのアパートに帰るから」

 ゆっくりと顔を上げ、わたしは奏多のことを見る。

 ――おれがずっと……日和のそばにいるから。

 昨日聞いた奏多の言葉が、頭の中によみがえる。

「やっぱりさ……こういうのよくないだろ?」

 奏多が静かに茶碗と箸を置いた。

「ここにいると、日和とずるずるそういう関係になっちゃいそうで……でもおれ嫌なんだよ。そういうの」

「奏多……」

「何て言うかさ、日和のことは、すごく大事にしたいなんて思うから……だから」

 わたしから顔をそむけたまま、奏多が「あー」と言って、自分の髪をくしゃくしゃとかき回す。

「あと二年! おれがハタチになるまで待って。そしたらおれ……日和とずっと一緒にいる」

「ずっと?」

 目の前の奏多をじっと見る。奏多もちらりとわたしを見た。

「それって……プロポーズなの?」

「うるさい。そんなんじゃない」

 ぷいっと顔を背けた奏多の頬が、すごく赤くなっている。それがなんだか可愛くて……。

「待ってるよ」

 そう言って、奏多に微笑みかける。

「待ってる。わたし、ずっと」

 もう一度わたしに振り向いた奏多は、何も言わないで、ただわたしのことを見つめていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] きゃー♡
2023/10/09 22:08 退会済み
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