19
明るい日差しの中で目を覚ます。いつもとどこか違うのは、開け放たれているカーテンと、台所から漂ってくる味噌汁の香り。
「奏多?」
ゆっくり起き上がりながら、ぼんやりとした頭で昨夜のことを思い出す。
月明かりの部屋の隅で、奏多と寄り添い合ってキスをした。奏多はずっとわたしの手を握っていてくれて、それから……それから?
「いつ寝ちゃったんだろう……わたし」
布団の中に残っているのは奏多のぬくもり。わたしの右手も、ついさっきまで握られていたみたいに温かい。
それは一つの布団で一緒に眠った、あの頃と同じように。
そう思ったら、無性に恥ずかしくなって、わたしは恐る恐る部屋を出て、階段を下りた。
台所をのぞくと、制服を着た奏多が背中を向けて、味噌汁を作っていた。
「奏多……おはよ」
消えそうな声でそう言うと、奏多はちらりとわたしを見てから、何事もなかったように後ろを向いた。
「飯食う?」
「つ、作ってくれたの?」
「自分が食いたかったから、作っただけ。別にお前のためじゃない」
ぶっきらぼうに言いながら、奏多はご飯をよそい、わたしの前に差し出した。
「ほら、ぼうっとしてないで、運べよ」
「う、うん」
言われたとおりにご飯と味噌汁を居間へ運ぶと、奏多が玉子焼きを持ってきた。
「とりあえずおかずはこれだけ。冷蔵庫の中、何にもねぇんだもん」
「ごめん。一人だと作る気がしなくて」
あきれたようなため息をついてから、奏多は「いただきます」とご飯を食べ始める。
数週間前と変わらない日常。昨日の夜、泣いているわたしを抱きしめて、ずっと手を握ってくれた奏多はいないけど、こっちのほうがやっぱり落ち着く。
「あのさ……奏多?」
目の前で、ご飯を口にかきこんでいる奏多に聞く。
「昨日の夜なんだけど……あんたわたしに、ヘンなことしてないよね?」
突然箸を止めた奏多が、乱暴に茶碗を置いて、わたしのことをにらむように見る。
「するわけねぇだろ。人のこと呼び出しといて、勝手にグーグーいびきかいて寝ちゃう人になんか」
「え、わたしいびきかいてた?」
「かいてた。よだれ垂らして」
「うそっ」
にやりと口元をゆるませて、奏多は玉子焼きを口に入れる。わたしはそんな奏多から目をそらし、うつむきがちにご飯を口に運ぶ。
しばらく会話もないまま食事を続けていたら、奏多がわたしの前でぽつりと言った。
「これ食ったら……あのアパートに帰るから」
ゆっくりと顔を上げ、わたしは奏多のことを見る。
――おれがずっと……日和のそばにいるから。
昨日聞いた奏多の言葉が、頭の中によみがえる。
「やっぱりさ……こういうのよくないだろ?」
奏多が静かに茶碗と箸を置いた。
「ここにいると、日和とずるずるそういう関係になっちゃいそうで……でもおれ嫌なんだよ。そういうの」
「奏多……」
「何て言うかさ、日和のことは、すごく大事にしたいなんて思うから……だから」
わたしから顔をそむけたまま、奏多が「あー」と言って、自分の髪をくしゃくしゃとかき回す。
「あと二年! おれがハタチになるまで待って。そしたらおれ……日和とずっと一緒にいる」
「ずっと?」
目の前の奏多をじっと見る。奏多もちらりとわたしを見た。
「それって……プロポーズなの?」
「うるさい。そんなんじゃない」
ぷいっと顔を背けた奏多の頬が、すごく赤くなっている。それがなんだか可愛くて……。
「待ってるよ」
そう言って、奏多に微笑みかける。
「待ってる。わたし、ずっと」
もう一度わたしに振り向いた奏多は、何も言わないで、ただわたしのことを見つめていた。




