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 翌朝、眠気をこらえながら台所へ立つと、昨日ラップをかけて冷蔵庫へしまったお皿が、綺麗に洗われて、食器かごの中に並べてあった。

 食べたんだ。奏多。

 冷蔵庫の中をのぞくと、チョコレートケーキもなくなっている。

 ちょっとだけホッとした気分になって、お弁当の支度にとりかかろうとすると、わたしの背中に声がかかった。

「弁当……いらないから」

 驚いて振り返ると、制服を着た奏多が立っていた。

「あ、今日はお弁当ない日だっけ?」

 そう言いながら、昨日慶介くんに言われた言葉を思い出す。

 ――ひとりの女として、見てると思う。

 どうしよう。奏多の顔をまともに見れない。


「違う。これからずっといらない。バイト代で昼飯買うから」

「え、そんな、もったいないよ」

「朝飯もいらない。学校で食う」

「な、なんで?」

 バッグを肩にかけ直し、背中を向けて歩き出す奏多のことを追いかける。

「ちょっと待って! 奏多、わたしのこと、まだ怒ってるの?」

 玄関に座り込み、靴を履いている奏多に言う。

「ごめん。勝手に人のもの見たのは、悪かったと思ってる。奏多が嫌なら、もう絶対奏多の部屋入らないし、それに……」

「もういいよ。そんなの」

 わたしの言葉を遮るように、奏多がつぶやく。

「別にもういい」

「じゃあ、朝ご飯ぐらい、うちで食べて行きなよ」

 だけど奏多はわたしに振り向かないまま、玄関のドアを開く。

 眩しい朝日が差し込んで、一瞬目を閉じたわたしの耳に、聞き慣れない声が響いた。


「あ、奏多くん! ちょうどよかった」

 静かに開いたわたしの視界に、奏多に駆け寄る女の子の姿が見える。

「今ね、間違えて隣の家に行っちゃったの」

 奏多と同じ制服を着た彼女が、そう言いながら笑っている。後ろ姿の奏多が、どんな表情をしているのか、わたしにはわからない。

「ほら見て。約束通り、ちゃんとお弁当作ってきたよ」

 そう言って、可愛らしい絵柄のついたランチバッグを、奏多に見せている彼女。

 わたしの頭に、バースデーカードに書かれた丸っこい文字が浮かんでくる。


「あ……」

 ふと、わたしのことに気づいた彼女が、小さく頭を下げた。短い髪をした、運動部にいるような、活発そうな女の子。

 わたしは少し戸惑いつつも、同じように挨拶をする。

「お姉さん?」

 小声でささやく彼女の脇を、奏多が自転車を押しながら、早足で通り過ぎる。

「行こう。風子」

「あ、うん」

 風子と呼ばれた女の子が、もう一度わたしに頭を下げ、奏多の後を追いかけるようにして去って行く。

 わたしはそんな二人の姿を、ただ黙って見送るだけだった。


 その日は仕事でミスばかりしてしまい、そんな自分が許せなくて情けなくて、もう本当に最悪だった。

「そんな日もあるわよ」

 そう言ってさりげなく、増えてしまった仕事のフォローをしてくれた綾子さんには、頭を下げっぱなしだ。

 なんとか一日の仕事を終わらせて、机の上を片づけながら、社長の席を見る。

 社長と明日の打ち合わせをしている慶介くんとは、今日はまだ一言も話していなかった。

「お先に失礼します」

 社長が「お疲れー」と手を上げて、慶介くんがわたしを見た気がしたけど、声をかけられる前に逃げるように事務所を出た。

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