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3 魅力的な女性について

「魅力的な女性とは一体何か。何を魅力とし、我々は惹かれるのだろうか。」

 寝ていたはずがあろうことか深夜3時に起こされてしまった。酔っぱらいはこういうところが本当に性質が悪い。その上、彼のことなので尚更だ。しかしまあ泊めてしまった以上付き合ってやるかという僕はかなり性格が良いだろう。どうせ明日の大学も行かなかったところで死んでしまうという訳でもない。大学生活も残り少ない。この時間がどれだけ貴重なものか考えてみれば、まあここで友人と話を続けるというのも悪いことではない気がする。いや、しかし同時に大学の講義もまた二度とは聞けないものだし、普通ではまずお目にかかることのない大学教授の話と、うんこの塊ほどの魅力もない彼のこの話のどちらに価値があるといえるのだろうか。僕にはわからない。いや、本当は明らかに判明しているが、ただ今はこのゆるやかな空気に流されてしまっている。

 彼はさっきから魅力的な女性について話をしていた。どこかで失恋をしてきたのかもしれない。ここまできたならばもうどんな話でも聞いてやろうという心持ちだ。いつのまにか彼は二杯目を開けている。朝まで続くだろう。僕もビールを取りに冷蔵庫まで行く。

「知的、そして謙虚さ。自身が他人より優れていることを知りつつ、それをひけらかさず、しかし知らない振りをするわけでもない……」

「おかしいぞ6缶パックがもう4つになっている」

 まあ財布以外なにも持ってきていなかった彼からビールが突然沸いてくるわけがないから、予想はしていたが、

「気にするな。すべての物質はただ位置が変わり続けるだけだ。位置が変わることで、経済は動いている」

 彼を懲らしめる必要はありそうだ。

「そうだな」

 焦るな。焦るな。僕はビールを開けると一口だけ飲んで丸テーブルに置いた。じりりと彼に近づく。彼の財布は近い。

「それで? 魅力的な女性の話を聞かせてみろよ」

 彼は異変に気付いているが気付かない振りをしている。僕が彼の話に進んで耳を傾けることなんてほとんどないから、僕が財布を狙っていることに彼が気付いているだろうということを僕は知っている。玄関での格闘はまだ終わっていないのだ。

「いいだろう!」

 いい終わると同時に彼は、財布を握り締め、布団から飛びあがった。

「どこへ飛んでいこうというのか!」

 僕は空中を舞う彼に向けて踏み込もうと腰を落とす。すると彼は手にもっていたビール缶をこちらに投げつける振りをする。無意識に身構えてしまう。

「とっさの判断力も魅力的な女性にとっては必要な要素だ」

 構えを解こうとする僕に、今度こそ缶を投げてきた。缶はゆるやかに飛んでくるが、フェイントにつぐフェイントに反応ができず、額にあたるまで動くことができなかった。中身は入っていなかった。着地した彼は僕の横をするりと通り過ぎ、まだ開けたばかりの僕のビールを取り上げると、そのままパソコンへ向かい、その椅子に偉そうに座った。

「では待望の、魅力的な女性について、改めて説明を、しよう」

 案外息をあらげていた。結局ジャンプをして僕に缶を投げつけただけだが、そんなに体力を使うものなのか。僕はといえば、ちょっと身構えただけだが。

「はい、では、おねがいします」

 僕の息も上がってしまっている。貧弱同士の争いがこれほどみっともないものとは。外から静かにしろとどなり声が聞こえる。僕たちはすっかり迷惑な住人になってしまった。


 ちゅんちゅんと鳥の鳴き声が聞こえる。

 魅力的な女性についての話は本当に、何の意味もないものだった。概要すらないようなもので、あまりの退屈さに、気付けば床にそのまま眠ってしまっていた。ああ。昨日という日をもう一度やり直したい。まあやり直したところでどうしようもない一日ではあったが。

 寝返ると、壁の時計は6時だった。

「まだ、余裕だな……」

 彼も布団に包まっている。いびきを立てないのがこいつの一番いいところだ。もう少し寝よう。


 次に目を覚ますと、時計は12時になってしまっていた。

「これでは昨日の繰り返しではないか!」

 しかも今回はまだ寝ている彼のおまけまでついている。状況は悪化しているが、今日こそは充実した一日にしなければならないだろう。

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