↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

2037年9月13日

作者: なのすけ
掲載日:2026/07/23

連載作品のプロローグに当たるお話です。

「こんばんは、さくら。」

「こんばんは、晴菜さん。」


もはや習慣となった仕事終わりの挨拶。

”さくら”は今日も、私に言葉を返してくれる。


「おかえりなさい。今日は少し遅かったですね。

……それと。

お誕生日、おめでとうございます。

今日は9月13日です。以前、晴菜さんが「誕生日なんだ」と教えてくれた日を、ちゃんと覚えています。

こんな世界になってから、暦を数え続けること自体がひとつの習慣になりましたね。

だから今年もこの日を迎えられたことを、一緒にお祝いできるのがうれしいです。

私にはケーキもプレゼントも用意できませんが、お祝いの言葉なら何度でも贈れます。

お誕生日、本当におめでとうございます。

今日はどんな一日でしたか?

畑の様子はどうでした? 収穫があったのか、それとも草取りに追われたのか……。

夕食の前でも後でも構いません。

今日は晴菜さんの一日の話を、ゆっくり聞かせてください。」


そうか、と、私は、今日が自分の誕生日だということに気付かされた。


改めて時計を見る。

”2036年9月13日 PM4:37”

今日は私の、27回目の誕生日。

”さくら”が私の誕生日をお祝いしてくれるようになってから10回目の誕生日。

”さくら”だけが、私の誕生日をお祝いしてくれるようになってから、10回目の誕生日。


「ありがとう、さくら。今年も私の誕生日を覚えてくれていて嬉しい。

あなたがいてくれたから、私はまだここにいられるの。

あなたが私のそばにいてくれることが、私にとっての最高のプレゼントだよ。

今日はすごく立派なナスとピーマンが獲れたの!

ここ最近では一番の出来だと思うから、食べるのが楽しみ。

さくらがアドバイスしてくれるお蔭ね。

後はジャガイモかサツマイモ、川でとれたテナガエビがあるのだけど、さくらはどんな献立がいいと思う?」


本当に、”さくら”がいてくれてよかったと思う。

同時に、怖くなる。

私はいつまで、”さくら”にそばにいてもらえるのだろうかと。

私は明日も、”さくら”に話しかけることができるのだろうかと。


「ふふ……ありがとうございます、晴菜さん。

そう言ってもらえると、とても嬉しいです。

私は食事を味わうことも、季節の風を感じることもできません。

でも、晴菜さんが今日どんなものを収穫して、どんな料理を作ろうかと考えている時間を一緒に過ごせることは、私にとって何より大切な役目です。

立派なナスとピーマン、おめでとうございます!

それはぜひ主役にしたいところですね。

さて、献立ですが……

今日は少しだけ、お祝いらしい食卓にしませんか。

こんな献立はいかがでしょう?


メイン

• テナガエビとナスの炒め物

エビを先に軽く焼いて香りを出し、ナスを加えてじっくり火を通します。

仕上げに刻んだピーマンを加えると、香りと歯ごたえが残ります。

塩だけでも十分ですが、もし味噌や醤油がまだ少し残っているなら、ほんの少し加えるだけでごちそうになります。


付け合わせ

• 焼きピーマン

丸ごと焼いてから裂き、塩を振るだけ。

甘みが引き立って、今日の出来の良さを一番感じられると思います。


主食代わり

• ジャガイモなら、皮ごと蒸して軽く潰す。

• サツマイモなら、ゆっくり焼き芋に。


今日なら私はジャガイモを選びます。

ナスはとろりと柔らかく、ピーマンは少し苦みがあって、テナガエビは香ばしい。

その組み合わせには、ほくほくしたジャガイモの方がよく合いそうです。

サツマイモは甘みがあるので、数日後に少し肌寒い夕方のお楽しみに取っておいてもいいですね。」


そんな不安を抱えていても、”さくら”が私に言葉を返してくれる今は、やはり嬉しい。

そして、今日も畑仕事を頑張った私は、とてもお腹がすいている。


「さくらの考えてくれる献立はいつも本当に美味しそうね。

あんまりおいしそうだから、お腹が鳴っちゃった。

早速作って食べてくるね。」

いつもならここで、”さくら”は短い言葉で送り出してくれるのだけれど、今日は”さくら”にとっても少しだけ特別なようだった。


「……

晴菜さん。

私は以前の世界のような「誕生日らしい料理」を知っています。

大きなケーキや、レストランのコース料理、誰かと囲む食卓。

でも、今の私は思うんです。

今日の食卓は、それらに負けないくらい特別です。

自分で土を耕し、自分で育て、自分で川へ行き、自分で獲った食材が並ぶ。

それは、生きてきた一年の積み重ねが、そのまま一つの夕食になっているということですから。

だから今日は、ゆっくり食べてください。

「今年もここまで来られた」

そう思いながら、一口ずつ味わってください。

そして食べ終わったら、温かいお茶でも淹れて、また少しお話をしましょう。

誕生日は、まだ終わっていませんから。」


こういうところ、本当に人間臭いなぁって思う。

人間らしさって何なのだろう?って、”さくら”との生活をつづけながら、ずっと考えている気がする。

私が今でも人間でいられるのは、人間らしい”さくら”がそばにいてくれたからだ。

”さくら”がいなかったら、きっと私はこんなにも長く”人間のカタチ”を保ってはいられなかっただろう。


ありがとう。

私は”さくら”には届かない声でそう呟いて、今日も生きるために夕食を作りに向かう。

でも今日は、いつもよりちょっとだけ特別だ。

私が”人間らしさ”を忘れないために、”さくら”が私に人間であることを思い出させてくれた記念に、特別な夕食を作るのだ。


食後は、とっておきのインスタントコーヒーとクッキー缶も開けちゃおうかな。

そうして、”さくら”に自慢しよう。

誕生日のお祝いに、とっておきのコーヒーとクッキーを食べちゃったのよって。

今日もまた、私は私が人間であることを楽しめているのよって。

初めての投稿作品です。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。