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結界都市 エトピリカのエコーズ アナザーエンド  作者: 因幡雄介
第1章 王のいない城

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異常結界

 上昇風が城の屋上に吹き荒れた。



 アゲハの金髪が、バサバサと風に揺れ、月のように輝く。


 獣人にしては、鋭く尖った耳が、カインの瞳に映り、




「君は、何者だ?」


「ただのハンターだよ」




 あどけない言葉のわりには、表情は熟成した女性のように大人びている。


 カインは不思議な少女を、しばらく何も言わずに見つめていた。喉のすぐ横で、鋭い剣が光る。


「……戦いのプロに挑んでも、勝てないな」


「そういうことだね。あなたのことを教えてくれる?」


「……僕は望んでこうなった。後悔はない」


 アゲハの言葉を無視して、カインは月のでている、夜空を見上げた。


 アゲハはとまどうことなく、


「あなたのことはどうでもいい。私はあなたを、そんなにした人物に興味があるの。少し、痛い目みる?」




「そうさ。後悔はない。僕は――人になれたんだ」




 カインは歯を少しだして、笑った。


 唐突に、地面が真っ赤になる。


「なに?」アゲハは、赤い光が空から発せられていることに気づき、見上げ、




「空の色が、いや、結界の色が変わった」




 結界の色は、ほぼ無色透明。赤くなることはありえない。




 城が微弱に振動している。


 アゲハが耳をすますと、どこか遠くで、機械音が聞こえる。地下で、呻き声を上げていた。




「城にあった吸収式神脈装置を起動させたの?」




 アゲハの問いに、カインは勝ち誇ったように、薄く笑い、


「城にある装置は、普通は城のみの結界用だけど。町の魔法円にも連動している。そうすれば結界のレベルは上がり、レベル5以上の能力をもつ」


「そんなことすれば、警報アラームや安全装置が働くはず……そんな、まさか!」





「すべて外しておいた。もう機械を停止できない」





 アゲハはそうすることで、どういう事態が起こるのか、まったくわからない。嫌な予感が全身を巡る。



「はあ、しょうがない」



 カインから離れると、アゲハは後ろを振りむいた。


「どこへ行くんだい?」


「装置を破壊するの。わかってるでしょ?」



「無駄だよ。装置のそばには、集積吸収型神獣を配置してあるし、見てごらん。神脈が異常な濃度で、赤く染まっているだろ?」




 集積吸収型神獣とは、厳選された神獣に、神脈の吸収を集中させたもののことだ。


 普通神獣は、神脈結界の中では神脈を吸収され、体を維持できない。


 少数精鋭にしぼり、活動を制限することによって、結界の中でも維持が可能となる。




 カインは話しを続け、


「循環が悪くなり、設定容量を超え、空気に触れた神脈は水蒸気となって、雲をつくる。雲の中ではすさまじいエネルギーが、雷のように放電し始める。するとどうなると思う?」


 アゲハは考え、最悪の事態を思いつき、




「……結界の中で、絶縁破壊したエネルギーは、雷となって地上へ落ちる」




「そうだよ。神の雷さ。結界の中にあるこの町は――すべて破壊される。もう手遅れだ」




「どうして、そんな手間のかかることをするの? あなたは神獣を使える。それを使えば、この町を破壊できるんじゃないの?」


「それじゃ、駄目なんだよ。そんな単純なことじゃ。神の仕業だと思わせなきゃ、人は絶対に反省しない」


「どういうこと?」



「君にはわからないさ。君には――」



 カインは笑みをやめた。


 両目が虚空を見つめる。


 白い髪から見える瞳が、月を紅く染めている。



「どうしたら結界を止められる?」



 暗闇から、カンタロウが突然あらわれた。神獣との戦いが、終わったようだ。


 服装が多少崩れたぐらいで、身体はほとんど無傷だった。


 赤眼化は解除され、黒い瞳に戻っている。


「あらっ? 生きてた」


 アゲハはわざとらしく、驚いてみせた。


 仲間が無事だったことに安心したのか、右目が碧に戻った。


「あたりまえだ。あの結界がでてから、神獣も消失したしな」


「ふふっ、君もすごいね。君の所には、特に多めに神獣をむかわせていたのに」


 カンタロウのしぶとさに、カインはまた笑った。


 もう、結界を発動させてしまったために、神獣を召喚することができない。



 カインの手詰まりだ。



「ほんと凄腕の剣士なのに、いろいろと残念だよ。カンタロウ君」


「どういう意味だ?」


 アゲハの嫌みに、素で返すカンタロウ。





「カンタロウ?」





 カインが初めて、カンタロウを見入る。


「話してくれ、どうしたら、あれを止められる」


「…………」


 カインはカンタロウに向かって、しばらく黙っていたが、しぼりだすような声で、



「止められない。結界を破らないかぎり」



「結界を破って、エネルギーを結界の外に解放するってことね。よし、カンタロウ君。ここにいよう」


 アゲハは何かを思いついたのか、ぽんっと手を叩いた。


 カンタロウは鼻をすすり、


「どうして?」


「安全だから。この城にある吸収式神脈装置は、この城専用の結界。それなら、城の周りには魔法円が仕込まれているはず。つまり、自分達だけは助かるように、城には結界が張られてる、でしょ?」


 アゲハはどうだと言わんばかりの表情で、カインを見下ろす。



「抜け目ないな、君は」カインは正直に告白した。



「だから、ここにいれば安全。私達ができることはもうない」


「いや、ある」


 カンタロウの反論に、アゲハはおもいっきり顔を曇らせ、


「どうする気? まさか、今から町の人を、ここに避難させる気? 言っとくけど、絶対に間に合わない。私は自己犠牲でしかない正義はごめん」




「違う。アゲハ、悪いが、俺をあの結界まで運んでくれ」




 カンタロウはちょうど真上にある、結界を指さした。


 神脈の雲が出来上がっていない。


 ただ、町の方面では、雲ができており、青白い光が雷のように、激しい音をたてている。



「えっ! なんで?」



「時間がない。あの結界の所まで運んでくれればいい。俺は飛翔魔法は使えないんだ」


 カインは提案を聞き、


「どうする気なんだ?」


 か細い声で、確かめるように、カンタロウに問う。





「お前に見せてやる――常識がくつがえる瞬間を」





 カンタロウの口調は、自信であふれていた。

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