91.バカを成敗!
「待って! 待ってよ! スミコ!」
兵士たちに両脇を抱えられ、拘束されているきらりんが、必死の形相で私を呼んだ。
ラディアスさんが聞く耳を持たないと悟り、ターゲットを変えたらしい。
「助けてよぉ! 私たち、同じ日本人でしょ!? 同郷のよしみってやつがあるじゃない!」
「…………」
同郷のよしみ、ねえ。
まあ、ね。これがきらりんじゃなく、例えば別の召喚者だったら、考えただろう。
右も左も分からない異世界で、同郷の人間が困っていたら手を差し伸べるのが人情だ。
だが、私はこの娘に対して、あまり好感を抱いていない。
というか、嫌いだ。
「助けないよ」
「なんでよ! 薄情者! 友達でしょ!?」
「友達だった覚えはないけど」
私はため息をつく。
「それにさ。私が『役立たず』って言われて、お城を追い出された時。あんた、助けてくれなかったじゃん」
「そ、それは……!」
ゲータ・ニィガの王子様に、聖女候補として召喚された私ときらりん。
王子は「きらりんが聖女、スミコは偽物」と断定し、私を捨てた。
その時、こいつは何もしてくれなかったのである。
「それこそ、同郷のよしみで助けるとかさ、できたわけじゃん。でもしなかった」
きらりんが言葉に詰まる。
私が追放を宣告され、途方に暮れていた時。
彼女は王子の隣で、クスクスと笑っていた。
『あーあ、残念な子』とでも言うように、嘲笑って見過ごしていた。
助ける力を持っていたのに、面白い見世物として楽しんでいたのだ。
「あの時、あんたは笑って見てたよね。だから私も、今のあんたを笑って見過ごすことにするよ」
「あ、あんたぁ……!」
「悪いこともしたんだから、ちゃんと罪は償いなよ」
私はそれ以上会話する気もなく、キャンピーに戻ろうとする。
「さて、ラディアスさん」
「はっ。では召喚者殿、こやつを護送するため、キャンピーに……」
ラディアスさんが言いかけた、その時だった。
『なりません!』
ピシャリと、厳しい声が響いた。
テンコだ。
彼女は窓から顔を出し、きらりんを冷徹な目で見下ろしている。
『スミコ、その女を乗せることは、妾が許しません』
「え、テンコ?」
『そいつは妾のスミコに酷いことをした、汚らしい存在です。そのような不潔なものを、我らの城に入れるなど言語道断!』
テンコぉ……。
友達(私)をいじめたやつを、許さないってことね……。
良い子……。
『それに、本当に汚いですしね』
テンコが尻尾で鼻を覆う。
まあ、確かにすごい匂いだもんね。
……ん?
もしかしてそっちがメインの理由?
いや、ないな。テンコって割と友達大事にするし。スミコファーストだし。
多分。
『それに、魂も薄汚れておる。そのような者をソーちゃんの近くに置くことなど、教育上よろしくありません!』
「だ、そうです」
私は肩をすくめてラディアスさんを見た。
「うちの神獣様がこう仰ってるんで、乗車拒否で」
「む、神獣殿がそう仰るなら仕方がない……」
ラディアスさんも納得したようだ。
助かった。
正直、新車の匂いがするキャンピーに、その異臭を放つ物体を乗せるのは嫌だったんだよね。
テンコ、ナイスフォロー。
「安心してくれ。手配は済んでいる」
ラディアスさんが懐から、通信用の魔導具を取り出した。
「先ほど、森の入り口に待機させていた我が軍の別動隊と連絡がついた。彼らに身柄を引き渡す」
「お、ナイス」
さすがラディアスさん、仕事が早い。
「ここから入り口までは、徒歩で連行する。総員、行くぞ!」
「はっ!」
兵士たちがきらりんを立たせ、強引に歩かせ始める。
「いやぁぁぁ! 歩くの!? こんな泥だらけの道をごめんだわぁぁぁ!」
きらりんが喚くが、無視だ。
私はキャンピーを発進させる。
快適な空調、ふかふかのシート、そしてテンコとソーちゃんの癒やし空間。
泥道をドナドナされていくきらりんの横を、悠々と追い抜いていく。
その圧倒的な「格差」に、きらりんのプライドが崩壊したらしい。
「あああああ! なんで! なんであんたなんかが!」
彼女は涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔で、絶叫した。
「なんで『モブ』のあんたが、こんな良い思いしてるのよぉぉ!? なんで私は泥まみれなのに! あんたはそんな良い車に乗ってんのよぉぉ! 私はヒロインなのに! 主役なのにぃぃ! ちくしょおぉぉぉ!」
魂の叫びだなぁ。
まあ、主役だモブだなんてこだわってる時点で、あんたは自分の人生を生きてなかったってことだよ。
『まぁま、うるさいねー』
『哀れな女ですね。自分の行いが返ってきただけだというのに』
後部座席の二人は冷ややかだ。
ソーちゃんが、窓の外のきらりんに向かって、無邪気に手を振った。
『ばいばーい』
その純粋な一言が、一番のトドメになったかもしれない。
きらりんはガクリと膝をつき、そのままズルズルと兵士に引きずられていった。
バックミラーの中で、ピンク色の影が小さくなっていく。
さようなら、きらりん。
少しは頭を冷やすといいよ。




