89.かがくのちからってすげー
女王蜂を倒し、報酬もゲットして、一件落着。
……とは、いかないよねえ。
「ありがとうございます、召喚者殿。これにて依頼達成でございます」
ラディアスさんが深々と頭を下げる。
いやいや、まだ早いって。
「いや、まだっしょ」
「? 依頼は神樹の治療で、それはもう見事に達成していただけましたが……?」
「いやいや、虫。魔蟲。まだいるじゃん。ね、テンコ」
『ええ。女魔王蜂は居ませんが、その子供らがまだ周囲に隠れ潜んでおります』
やっぱね。
それに、そもそもの原因である魔蟲。
こいつらがいる限り、この神樹がまた奴らの寝床、あるいは出産場所になってしまう可能性がある。
それに……。
「神樹がまた病気になったら、またあのバカ聖女が出張ってくるかもしれないよ?」
きらりんのことだ。
結局、きらりんのアホはこの森では見かけなかったな。
この森にいるんじゃあないかと思ってたんだけども。
まあそっちはどうでもいい。
問題は、また神樹が病気になって、聖女が出張しないといけなくなる可能性があるってことだ。
また来るのはめんどいし、だいいち治療した私のことを、後から「詰めが甘い」とか悪く言われるのは嫌だ。
テンコも頑張ってくれたしね。
だから、問題の火種は完璧に取り除いておきたいのである。
「てことで、魔蟲をなんとかします」
「なんとかって……無理ですよ。ここは妖精郷。いにしえの時代より魔蟲の巣となっており、その数は夜空の星ほどあります。その全てを駆除するなんて……」
まあ、現実の森にいる虫を、全部いなくならせるなんて無理だろう。
しかーし!
「そこは……現代アイテムチートさんの出番ですよ! KAmizon! 発動!」
どこぞの『とんでも』な作品だと悪用されていた、なんでも取り寄せスキルKAmizon。
ほんと、道具って使い手次第よねえ。
私のような善良なる人間が使えば、みんなが幸せになれるっていうのに。
え、善良じゃなく、馬鹿なだけ?
そこは……まあ……うん(諦念)。
私はKAmizonを起動する。
検索ワードは【虫除け 強力 広範囲】。
そして……見つけた。
これだ。欲しいものが、ある。
「ポチッとな」
ポンッ。
虚空から段ボール箱が出現する。
中から取り出したのは、緑色の渦巻き状の物体と、それをセットする豚の形をした陶器。
そう、日本の夏の風物詩。
【強力蚊取り線香(プロ用・森林香)】と【蚊取り豚】だ。
「な、なんだその間の抜けた豚の像は!? 魔導兵器か!?」
「いや、ただの香炉だけど」
私は蚊取り豚の中に線香をセットする。
あとは火をつけるだけだが……あ、マッチ買い忘れた。
まあいいや、もっといいライターがある。
「テンコ、これに火をつけてくれる?」
『お安い御用です! 狐火!』
ボウッ。
テンコの尻尾から、神聖な狐火が放たれ、線香の先端に灯る。
本来ならじわじわ燃えるだけの線香が、神の火を受けてカッ! と輝いた。
モクモクモク……!
豚の鼻から、凄まじい勢いで白い煙が噴き出す。
普通の線香の煙じゃない。
なんか金色に輝いてるし、匂いも「THE・蚊取り線香」の懐かしい香りに、フローラルな聖なる香りが混ざっている。
現代科学の殺虫成分ですよ。
「行けー!」
テンコが風を起こし、煙を神樹の下へと流す。
煙は雲のように広がり、瞬く間に森全体を覆い尽くした。
その効果は劇的だった。
ギチチチチチチ!
ギャアアアアア!
煙に触れた魔蟲たちが、苦しみもがく……のではなく、「嫌だー! この匂い無理ー!」とばかりに、一目散に逃げ出したのだ。
殺虫というより、強力な「結界」だ。
黒い雲のようだった魔蟲の大群が、煙に追われるようにして、森の外へ、帝国の反対側へと去っていく。
お、おう……まさかここまで強力とは……。
かがくのちからって、すげえー。
「おお……! 魔蟲たちが、蜘蛛の子を散らすように逃げていく……!」
「これでもう、戻っては来ないでしょ」
人間にとっては「ちょっと懐かしい匂い」でリラックス効果があるが、虫にとっては「絶対立ち入り禁止エリア」となる。
完璧だ。
「す、素晴らしい……! これぞ『聖なる祓魔の香煙』……!」
「いや、ただの蚊取り線香だけど」
「カトリセンコウ……なんと神聖な響き……」
ラディアスさんが、蚊取り豚に向かって拝んでいる。
豚も心なしか誇らしげだ。
しっかしちょっと効果ありすぎじゃない?
もしかして……。
「【鑑定】」
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【聖獣の蚊取り豚(覚醒状態)】
解説:現代の強力な殺虫成分が、神獣の聖なる火によって昇華された状態。物理的な殺虫効果に加え、「不浄なる者を退ける」概念的な結界効果が付与されている。虫型の魔物にとっては、存在するだけで苦痛となる聖域を形成する。
~~~~~
なるほどぉ……!
現代科学プラス神獣のコラボってことね!
……どーりで効きすぎてるって思ったわ。
「ラディアスさん、この火絶やさないようにしてね。あと……はい、これ予備」
私はKAmizonで追加購入した「蚊取り線香・業務用50巻入り」の箱をいくつか、ラディアスさんに手渡す。
「これを毎日、神樹の周りで焚いておけば、虫は寄ってこないから」
「こ、こんな貴重な神具を、大量に……!?」
「いや、一箱千円くらいだし」
ラディアスさんは箱を抱きしめ、涙ぐんでいる。
「ありがとうございます……! 貴女は、帝国の……いや、我ら人類の救世主だ……!」
まただ。
また、神扱いされてしまった。
私はただ、快適なキャンプライフのために、虫除けをしただけなんだけどなぁ。




