87.ロードローラーだぁー!
ドラレコの映像が、キャンピーのカーナビ上に表示される。
神樹の頂上から、濁流となって流れ落ちる聖なるウォッシャー液。
それが神樹の幹、枝を伝っていく。
魔物の毒に冒された神樹が、聖なるパワー液で治療されていく。
さすがキャンピーの浄化液だ。
みるみるうちに、神樹の色が元通りになっていく。
色で健康状態を判断できるものなのかはさておき、さっきまでの禍々しさは消えているのは確かだ。
「いいぞ、キャンピー。この調子でキャン汁ブシャーだ!」
『ごーごー! きゃんぴー!』
私とソーちゃんがキャンピーを応援する。
ソーちゃんも、チャイルドシートで両手を上げてはしゃいでいる。
プップー!
む、キャンピーのクラクション。
しかし、いつもの楽しげな感じじゃあない。
警告音だ。
女魔王蜂は、その激流に飲まれ、断末魔と共に視界から消え失せた……と、思ったのだが。
『……許サヌ……』
地獄の底から響くような、怨嗟の声が聞こえた。
「うわ、まだ生きてんの?」
私はげんなりしてモニターを見る。
ボロボロになった女魔王蜂の手が、こちらに向かって伸びてきていた。
幹にしがみつき、ズルリ、と彼女が這い上がってくる。
その姿は、先程までの妖艶な美女とは程遠い。
自慢の翅は溶け落ち、美しい顔も聖水で焼かれ、ドロドロに崩れている。
もはやゾンビだ。
あるいは、殺虫剤を浴びてもなお動き続ける、あの黒い害虫並みの生命力だ。
「腐っても女王か。キャンピーの浄化を食らってもまだ生きてるなんて」
『ヨクモ……我ニ、恥辱ヲォォォ!』
女魔王蜂が絶叫する。
その全身から、赤黒い瘴気が噴き出した。
最後の力を振り絞り、自らの命そのものを燃やしているようだ。
『貴様ラダケハ……道連レニシテヤルゥゥゥ!』
彼女の腹部が異常に膨れ上がる。
自爆覚悟の特攻だ。
巨大な毒の塊となって、キャンピー目掛けて一直線に突っ込んでくる。
「ひぃぃぃ! く、来るぞ!」
ラディアスさんが悲鳴を上げる。
しかし。
『させるか!』
ドンッ!
テンコが宙を蹴って飛び出した。
『悪足掻きは見苦しい! そこでお座りしていなさい!』
テンコの九つの尻尾が、鞭のようにしなる。
風が巻き起こり、女魔王蜂の体にまとわりつく。
小型の竜巻が発生し、彼女を空中で縫い留めた。
『グヌゥ……!? ウ、動ケヌ……!?』
『スミコ! 今です! トドメを!』
テンコが自ら手を下さないのは、多分汚いからだろう。
あいつ結構きれい好きだしね。
まあいい。
「OKテンコ! こいつで終わりだ!」
テンコが作ってくれた絶好のチャンス。
私はシフトレバーをガコンと入れる。
「キャンピー、ハイジャンプ!」
以前手に入れていたスキル、【ハイジャンプ】を発動させる。
バシュッ!
キャンピーの下部スラスターが火を吹き、数トンの巨体が軽々と宙に舞う。
私たちは一気に上昇し、女魔王蜂の遥か上空へと躍り出た。
「しょ、召喚者殿!? 一体何を!?」
「あいつを倒さないと、依頼達成にならないっしょ?」
「そうですがっ。しかし、このカーで一体何を!?」
太陽を背にする。
巨大なキャンピングカーの影が、眼下の女魔王蜂を覆い隠す。
「な、何をする気だー!?」
ラディアスさんが叫ぶ。
何をするかって?
決まっている。
物理で潰すんだよ。
「反重力制御、解除!」
私はコンソールを操作し、キャンピーの質量設定を最大に変更する。
普段は燃費のために軽くしている車体を、逆に極限まで重くする。
その重量、推定数十トン。
超高密度の鉄の塊だ。
空中で静止したキャンピーが、重力に従って落下を開始する。
ターゲットは、直下に固定された女魔王蜂。
「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
私はアクセルをベタ踏みし、さらに下方向へのスラスターを噴射して加速をつける。
『ナ、ナニィィィ!?』
見上げる女魔王蜂の顔が、恐怖に歪む。
迫りくる巨大な鉄塊。
逃げ場はない。
私は叫ぶ。
あの名台詞を、一度言ってみたかった、あの台詞を!
「ロードローラーー……じゃなくてッ! キャンピングカーだッ!!」
私たちは、流星のごとく突っ込んだ。
ズドォォォォォォォォォォォォォン!!
天地を揺るがす轟音。
キャンピーの巨体が女魔王蜂を真上から押し潰し、そのまま神樹の広大な枝の床へとめり込む。
衝撃で土煙が舞い上がり、世界樹全体が大きく震える。
「あ……あ……」
ラディアスさんは、あまりの衝撃に言葉を失い、口をパクパクさせている。
しばらくして、土煙が晴れた。
そこには、地面(枝)にめり込み、深々と突き刺さったキャンピーの姿があった。
私は反重力制御を使って、ゆっくりと車体を浮上させる。
その下には。
まるで押し花のように平らになった、女魔王蜂が張り付いていた。
ピクリとも動かない。
完全なる沈黙だ。
「ふぅ。粗大ゴミの圧縮完了」
私は額の汗を拭う。
さすがにこれなら、もう再生できないだろう。
その時。
今までドス黒く濁っていた神樹の葉が、一斉に輝き出した。
サラサラと心地よい音が響き、柔らかな光の粒子が私たちを包み込む。
どうやら、神樹様も「ありがとう、肩の荷(物理)が下りたよ」と言ってくれているようだ。
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