86.聖なる液体ブシャー!
「ぎゃあああああああああああああああ! 落ちる! 落ちるぅぅぅぅぅ!」
後部座席でラディアスさんが絶叫している。
失礼な。
落ちてないよ、登ってるんだよ。
私たちは今、神樹の幹を垂直に爆走していた。
重力制御と、キャンピーの神ドライビングテクのおかげで、体感的には平地を走っているのと変わらない。
「なんだこれ!? 上を向いて走ってるのに、重力を感じない!? あと頭に血も上らない!」
ラディアスさんに言われて、遅まきながら気づく。
確かに、これ上向いて走ってる訳じゃん?
なのに、私たちの体には全く負担がかかっていない。
あ、そっか。
キャンピーの中って異空間だったもんね。
現実空間とは別の場所にいるわけだ。
つまり、現実で掛かるはずの物理的な負荷が、この中だと完全に遮断されているってわけ。
「気持ち悪い……!」
「失敬な。キャンピーはキモくないでしょ」
「そうじゃあない! 車体は90度傾いているはずなのに、全く負荷を感じず、平地にいる時と同じだから! 感覚がバグる!」
「ああ、そういうこと……」
「召喚者殿はなんとも思わないのか!?」
「思いませんねー」
うちのキャンピーがトンデモびっくりドッキリメカなのは、今に始まったことじゃあないし。
「そーゆーもんかー、で受け入れてるぜ」
「『そーゆーもんかー』で済ませていいのかこれぇ……!」
窓の外の景色が、下へ向かって凄まじい勢いで流れていく。
『逃がすものか! 我が国をこれ以上荒らさせるわけにはいかぬ!』
下から、怒声が響く。ドラレコの様子がカーナビに表示される。
女魔王蜂だ。
彼女は羽を高速で羽ばたかせ、キャンピーの速度に食らいついてきている。
言葉には、女王としてのプライドと激しい怒りが滲んでいた。
『死ね、小賢しいネズミどもめ!』
女魔王蜂が腕を振るう。
爪の先から、無数の毒針が、マシンガンのように発射された。
ズガガガガガガガガガガ!
照射された毒針が、キャンピーの結界にぶつかる……と同時に、結界を通り抜けた!
「防御を溶かす毒針かっ! キャンピー!」
キャンピーが凄まじい速さで、左右に蛇行する。
私たちがいた場所に毒針が刺さる。
ドロォ……と、神樹の幹も溶けていた。
「【鑑定】!」
~~~~~
【溶解毒針】
解説:女魔王蜂の体内で生成される、強力な溶解液を纏った毒針。魔力そのものを分解する性質を持ち、防御結界すら容易く貫通・溶解させる。
~~~~~
「なるほど、とんでも溶解毒ってことね……」
キャンピーのドライビングテクのおかげで避けられたが……何度も避けられるだろうか。
結界は素通りするだろうし。
『く! 小賢しい! 死ねえ……!』
またも女魔王蜂が毒針を放とうとする。
「テンコ!」
『させぬわ!』
すかさず、テンコが動く。
窓から飛び出し、九つの尻尾を展開する。
『狐火・旋風陣!』
ゴオオオオオッ!
テンコの尻尾から放たれた炎が、風を巻き込んで渦となる。
炎の竜巻が毒針を飲み込み、焼き尽くした。
『チッ……! 忌々しい狐め!』
『スミコは運転に集中して! 背中は妾が守ります!』
「ナイスよテンコ! 頼りにしてる!」
テンコが迎撃してくれている間に、私はアクセルをさらに踏み込む。
だが、女魔王蜂も執念深い。
炎の壁を強引に突破し、巨大な毒針を構えて突っ込んできた。
『その鉄の箱ごと、串刺しにしてくれるわ!』
速い。
テンコの防御が間に合わないタイミングだ。
だが。
「甘い! 煽り運転は免許取り消しだよ!」
私はハンドルを急激に切った。
ギュルッ!
超速スピンするキャンピングカー。
もはやミニ四駆である! 漫画版の!
ガギィイイイイイイン!
『なにぃい!? 毒針を叩き割っただとぉ!?』
「ひゃっはー! 無敵のキャンピー様を舐めんじゃねえ!」
回転エネルギーに加え、キャンピーの大きな車体と重量が加わった、必殺の回転アタックだ。
細い針なんてぶっ壊しちゃうぜ!
「ひいいいいい!? よ、回転しているぅぅぅぅ!?」
私はさらに加速する。
敵の針マシンガン攻撃はだるいので回避。
右へ、左へ。
幹の凹凸を利用し、スラローム走行で攻撃を回避しながら、ひたすら上を目指す。
そして。
パァァァァァァァッ!
視界が白く染まったかと思うと、一気に開けた。
雲を抜けたのだ。
そこには、突き抜けるような青空と、太陽があった。
そして目の前には、広大な緑の台地――神樹の頂上が広がっていた。
反重力装置付きのキャンピーは、空中で半回転し、頂上でホバリングする。
もはやキャンピングカーって言うより、デ●リアンとか、マ●ハ号みたいだな、とか言わない。
ズサァッ!
ふぅ、到着。
『ハァ……ハァ……追い詰めたぞ……!』
遅れて、女魔王蜂が雲を突き破って現れた。
彼女は怒りの形相で私たちを睨みつける。
『ここは空の果て。もはや逃げ場はないぞ……!』
「逃げ場? 違うよ」
私はハンドルを握り直し、ニヤリと笑った。
「ここは逃げ場所じゃない。お前の『洗い場』だよ」
『なに……?』
「キャンピー、特製浄化液、バルブ全開!」
ポンッ。
カーナビに【OK!】の文字が踊る。
そう、キャンピーには浄化の力がある。
そして、私の目的は最初から一つ!
「喰らえ! 特濃・聖なるウォッシャー液! フルパワァァァァァァァ!」
私がスイッチを押し込んだ瞬間。
ブシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
ワイパーのノズルなんて可愛いものじゃない。
車体の至る所に展開された高圧ノズルから、青白く輝く液体が噴出した。
それはもはや放水だ。
ダムの放流だ。
聖なる力が込められた大量の液体が、濁流となって神樹の頂上から降り注ぐ。
『な、なんだこの水はァァァ!?』
女魔王蜂が悲鳴を上げる。
聖水を含んだウォッシャー液は、彼女ごとき邪悪な存在にとっては、煮えたぎる熱湯にも等しい猛毒だ。
『グアアアアア! 熱イ、熱イィィィ! 身が焼けるゥゥゥ!』
女魔王蜂は抵抗することもできず、聖水の滝に飲み込まれた。
そしてそのまま、神樹の表面にこびりついた汚れと共に、遥か下界へと洗い流されていった。
「ふぅ……。頑固な汚れもイチコロだね」
私は満足げに呟いた。
ラディアスさんは……言う。
体を震わせながら……。
「これのどこが車なんだーーーーーー!」
「いやほら、キャンピングカーですよ?」
「空を飛び、高速回転し、ウォッシャー液の洪水を垂れ流す、こんなのカーではない! 車の形をした、暴走する戦略兵器だぁぁぁぁぁぁ!」
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