80.驚異! キャンピングカー(なお魔蟲族も驚く)
魔蟲族というらしい。
あの仮面ラ●ダーに出てきそうな怪人は。
なんか普通の、等身大のバッタ怪人っぽいんだよね。
あのでかいダンゴムシ魔蟲とかの方が、ビジュアル的には強く見えるんだけど。
けれど。
「ひっ……うう……」
「あ、あ……終わりだ……」
車内の空気が凍り付いていた。
屈強な軍人たちが、ガタガタと震えている。
顔面は蒼白で、中には恐怖のあまり涙を流している者すらいた。
気丈なラディアスさんですら、呼吸が荒く、銃を持つ手が小刻みに揺れている。
「そんな怖いの?」
「ああ……。大昔に、魔蟲の群れによる、大規模な帝都への侵攻があった。その際、たった数体の魔蟲族によって、帝国の人口が半分に減らされたことがあるらしい……」
伝聞だ。
多分、魔蟲族をマジで見たことある人は、この場にはいないのだろう。
でも、前の世代の人たちが、子守唄代わりに言い聞かせたんだろうね。
魔蟲族に遭ったら死ぬと思え、と。
遺伝子レベルで刻まれた恐怖、というやつか。
つってもねー。
何がどう強いのか、私には分からないし、こっちにはキャンピーいるしね。
ジュウウ……。
『ちょっと、人の子よ。焦げてますよ! 肉が!』
「ああ、ごめんごめん。うん……やっぱり必要だな」
私が言うと、ラディアスさんはハッとして頷く。
「ありがとう。手を貸していただけると、心強い……」
「え?」
「え?」
噛み合わない視線。
あ、違う違う。
「あ、いや。戦闘協力じゃなくて。CPリスト見てて、これ、使えるなって」
私はモニターを操作する。
購入するのは、【全方位ドライビングレコーダー(ドローン連動型)】。
普通のドラレコじゃない。
車体の上空に極小ドローンを展開し、周囲360度をリアルタイムで監視、その映像をWi-Fiで端末に飛ばせる優れものだ。
いつまでも窓にへばりついてなきゃいけないのは面倒だからね。
ポチッとな。
「一体貴女は何をしてる! 来ているのだぞ、敵が、魔蟲族が!?」
この人もすっごい焦ってる。
まあ彼女らと違って、私は部外者だからね。
魔蟲族がいかに強いかなんて分からんしー。
うちにはキャンピーとそーちゃんの、ダブル神獣もいるしねー。
私はスマホを取り出し、専用アプリを起動する。
よし、映った。
画面の中に、鮮明な外の様子が映し出される。
魔蟲族が、空中で佇んでいる。
漆黒の外骨格、背中から生えた半透明の羽、そして複眼。
どう見てもバッタ怪人だ。
ブウウウウウウウン……。
羽音を響かせ、空を飛んでいる。
「キサマ……ニク……ヨコサヌ……ツモリカ……」
その時である。
ゴロゴロゴロゴロ……!
「!? ダンゴムシ魔蟲が、近づいてくる!」
ラディアスさんが、私の手元のスマホを食い入るように見ている。
「というか、なんだこれは!?」
「その様子を録画し、流す魔道具だよ……あと近い、重い」
ラディアスさんが、後ろから私にのしかかってきている。
画面を覗き込もうと必死なのだろうが、豊満な胸が私の背中に当たっている。
柔らかい。
そして、柑橘系のいい匂いがする。
役得である。
画面の中では、ゴロゴロ! とダンゴムシ魔蟲が走り、ジャンプ!
魔蟲族目掛けて、体当たり攻撃を仕掛けていた。
あらら、仲悪いのかな、この人ら。虫だけども。
「……ウットオシイゾ、コノ、原始虫ドモガ……」
魔蟲族が、鬱陶しそうに腕を振るった。
裏拳。
ただの、軽い裏拳だ。
しかし。
パァンッ!
乾いた破裂音と共に、魔蟲が弾け飛んだ。
文字通り、水風船のように。
硬い甲殻ごと中身がぶち撒けられ、緑色の体液が周囲の木々を汚す。
「なっ……!?」
背中の上のラディアスさんが絶句する。
「あり得ない……! あれは『神威鉄』を超える外殻だぞ!? 攻城兵器ですら弾く超硬度の甲殻を、素手で砕いただと……!?」
一撃必殺。
格が違う、ということか。
邪魔者を排除した魔蟲族は、再びこちらに向き直る。
その手には、緑色の血がべっとりと付着していた。
「……ツギハ……キサマダ……」
魔蟲族が一度地面に降りる。
脚に力を込める。
地面が爆ぜた。
おー。
「速っ!?」
と、ラディアスさん。
「そーなん?」
『全然』
と、私とテンコ。
テンコの動体視力なら止まって見えるらしい。
私には見えないけど、モニター越しだから冷静だ。
「来るぞ! 防御魔術展開! いや……間に合わない!?」
ラディアスさんの叫び声。
魔蟲族の跳び蹴りが、突き刺さる。
いや、蹴りじゃない。脚から鋭利な刃が伸びている。
狙うは、キャンピーの車体側面。
鋼鉄殻すら容易く粉砕する、死の一撃。
バギィイイイイイイイイイイ!
凄まじい衝撃音が響いた。
モニターにノイズが走る。
そして、肉眼でも見えてしまった。
窓の外、鉄壁を誇っていた黄金の結界に亀裂が入り、ガラスのように砕け散る光景が。
「ああっ!? 結界が破られた!?」
部下の一人が叫ぶ。
「えっ……うそ……!?」
私の背筋が、冷たいもので満たされた。
ちょっと待って。
あの結界、ガソリンつぎ込んだ最高強度のやつだよ!?
それが割れたってことは、次は生身のキャンピー(車体)ってことで。
それが貫かれたら、次は生身の私ってことで。
(やばっ……死ぬ!? 私、死ぬ!?)
さすがに血の気が引いた。
余裕ぶっこいてたけど、これは想定外だ。
私はとっさに身を屈めようとした。
ガギィッ!
しかし。
刃は、車体に触れる寸前で、見えない「何か」に阻まれて止まった。
「……ヌ?」
魔蟲族が動きを止める。
刃が小刻みに震えている。
まるで、絶対無敵の壁に突き刺さったかのように。
「け、結界が破られたのに……なぜ無事なのだ!?」
「ど、どうした、キャンピー!?」
「なんで貴女もまた一緒に驚いてるのだ!?!?!?!?!」




