76.吸血樹が、道を塞ぐ
よし、給油完了っ。
いやぁ、野外活動スキルって最高よねー。
私はドヤ顔で外から戻り、ドアを閉めた。
「あら? どったのこれ……?」
車内の空気が、どんよりと重い。
まるで梅雨時の湿気のように、ジメッとした空気が漂っている。
ラディアス大佐たちは、シートに深く沈み込み、膝の上で手を組んで俯いていた。
さっきまでの驚きや興奮はどこへやら。
今はただ、深い深い、海底のような沈黙に包まれている。
一方で、テンコは助手席に寝そべった状態で、ふんっ、と鼻を鳴らした。
『脆弱なる人の子らが、己の無力さに打ちひしがれているのです』
無力さ……?
なんかしたっけこの人達……?
あ、そっか。
なんもしてないから、落ち込んでるのか……。
してないっつーか。できないっつーか。
「我らが付いてくる意味は……なかったのではないか……」
ラディアスさんが、蚊の鳴くような声で呟く。
「召喚者殿に依頼をし、護衛として、案内役として同行したが……蓋を開けてみればどうだ。敵は瞬殺、環境ダメージも無効化、さらには無限の燃料補給……。我々はただ、快適なソファで焼きそばを食べているだけではないか……」
うん……まあ、ぶっちゃけ私もそう思っちゃう。
いやでも、それを『SEYANA!』と言っちゃうのは、ちょっと下品っというか、可哀想だ。
この人らは、私の護衛的なこともするために、来たわけだし。
それに、軍人として、帝国のピンチを救いたい、と息巻いてきたわけだ。
そんな彼女らに、お前ら役立たず、って言うのはちょっと、いや、だいぶ酷に思えた。
「いやでも……そうだ、ほら。神樹。私、神樹知らないからさぁ。そこまで案内してもらわないと、ね? いけないわけだから、ね?」
そう、広い森の中で、特定の木を探すのは至難の業だ。
神樹を治療するにしても、神樹そのものを知らないと、どれを直せば良いのか分からないわけだしね。
「そ、そうか……そうだな。我らは……そこで役に立っているのだなっ。召喚者殿っ」
「そーよそーよ。それ以外の部分は、この野外活動持ちの私にまっかせなさいっ。分業よ、世の中。適材適所ってやつ」
ラディアスさんが、バッと顔を上げる。
死んだ魚のようだった瞳に、生気が戻っていく。
部下たちも、「そうだ、我々には道案内という崇高な使命が!」「我々はカーナビなのだ!」「高性能カーナビとして誇りを持て!」と励まし合っている。
……カーナビでいいのか、お前ら。
うん、まあ良かった。元気出たみたいで。
『人の子よ、鑑定スキルがあれば「神樹」で検索すれば場所くらい……もがもが……』
「シャラップ、フォックス!」
余計なことを言う狐の口を、みかんで塞ぐ。
さて……テンコを黙らせたし、給油も済んだ。
いざ再出発。
ブロオォオオオオオ……。
エンジン音が低く唸る。
反重力機構付きキャンピーが、再び滑るように森の奥へと進んでいく。
……フロントガラス越しに、妖精郷の道を見て……改めて思うわ。
「これ……人は入れないでしょ……」
道路は奥へ進むにつれて、グッチョングッチョンになっていく。
木々は腐り、ドロドロに溶け落ちているところも多々見受けられる。
うわ……動物の死骸もあるや。
しかも原型を留めておらず、半分ゲル状になってるの……うへえ……教育上に悪いですわ……。
キャンピーの中は、空気が綺麗なので、臭い匂いがしない。
視界も明瞭。
……これ、キャンピーがなければ、走破不可能だったのでは……?
キャンピーがたまたま来なかったら、詰んでいたのでは……?
キキッー!
おっと、私は前に突っのめる。
グエッ、ハンドルがみぞおちに当たったンゴーー。
いってえ……。
「どっ、たの……キャンピー?」
プップー……。
『障害物だそうです』
「ほん? って、なんじゃこりゃ……」
顔を上げると、視界を埋め尽くすほどの、赤い……茨の壁があった。
それが、上に、横にと広がっている。
まるで、巨大な肉の壁が、道を通せんぼしているかのようだった。
「ラディアスさん、道って合ってるんだよね?」
「ええ……ただ……こんな茨は見たことがありません……」
「ふぅん……」
こっそり鑑定。
~~~~~
吸血樹
→動物の肉のような赤い色をした寄生植物。通りがかる生物を捕食し、その血液を養分として異常成長する。硬度は鋼鉄並み、再生速度は速い、植物界の悪魔。
こわっ!
「おっそろしい樹木みたい」
「! ハイビームで消せないのですか?」
「それがどーにも……モンスター判定じゃあないみたいで」
あくまで「植物」だから、魔物特効の聖光波は効きが悪いらしい。
これで樹木に分類されるんですって、奥さん。
こんな木があって堪るかってんだっ。
はぁ……はぁ……。
さて……。
「どうする? 迂回するか?」
「いや、なんか生きてるっぽいし、なんか追いかけてくるって」
蔦がズルズルと動き、こちらの動きを監視しているようだ。
迂回しようとしても、先回りされて囲まれるのがオチだろう。
ジャンプスキルでポーン! と飛び越すのも、上空まで茨が伸びてるから却下。
「となると、あの吸血樹を、ずったずたに、物理的に木っ端微塵にするっきゃないかと」
「任せてくれ! 我々には秘密兵器があるのだ!」
ラディアスさんが、ここぞとばかりに立ち上がった。
その目は燃えている。汚名返上のチャンスと見たか。
「秘密兵器ぃ~?」
彼女が懐から取り出したのは、拳大の金属球だった。
表面には複雑な魔術式が刻まれ、禍々しいほどの魔力を放っている。
「これは魔科学の粋を集めて作られた、魔法手榴弾! 着弾と同時に、内部の火炎の魔石を臨界点まで暴走させ、局地的な爆縮を起こす!」
「はえー……どれくらいの威力なの?」
「先程の魔蟲の外殻ですら、木っ端微塵にするレベルだ!」
「ならそれ最初から使わんかーい」
「ただこれ、一個作るのに年単位で掛かるし、国家予算並みの費用が掛かるので……連発はできないのだ……」
なるほどね。一応、魔蟲においそれと使えない理由があるわけだ。
決して、作者が今思いついてポッと出した訳じゃあないみたい。
「いくぞっ!」
ラディアスさんは、手榴弾のピンを抜き、少しだけ窓を開けて、ポーイと投げる。
手榴弾は緩く放物線を描きながら、吸血樹の方へと向かって飛んでいく。
その途中で、カッ! と目も眩むような閃光を発生させた。
ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
爆風が吹き荒れ、車体が激しく揺れる。
赤い肉片のような木片が、辺り一面に飛び散った。
煙が晴れると、そこには……巨大な風穴が開いていた。
「おお、開いたね、穴が」
ちょー威力あるじゃん。
やっばー……。
「さぁ、この隙に!」
「よしきた! キャンピー、ゴー!」
ラディアスさんがガッツポーズをする。
私もアクセルを踏み込む。
これで突破できる!
シーン……。
「どしたの、キャンピー」
プププー!
警告のクラクションが鳴る。
な!?
「穴が……塞がれていく!」
手榴弾による爆風で、破壊されたはずの茨が……。
ニョキニョキ、ブチブチ、と不気味な音を立てて伸び、開いた穴を一瞬で塞いでいくのだ!
再生速度が速すぎる!
「どないなっとんねん……」
「植物だから……だろうか」
「あー……成長速度がヤバいってことか」
穴を開けても、その部分を、茨が生長して塞ぐってことか。
っかー! だるー!
「手榴弾のストックは?」
「まだあるが……もう数が……」
OK、全然ないわけね。
手榴弾で穴を開けた瞬間、ダッシュで通り抜ける作戦は……リスクが高すぎる。途中で挟まれたらおしまいだ。
っていっても、あれ以上の物理攻撃が……。
『おっほん』
キャンピーにタックルしてもらうとか?
いや、絡め取られて動けなくなるかも。
『うぉっほんうぉっほんっ』
ハイジャンプからの、落下アタックとか……。
いや、クッションみたいに受け止められるかも。
『人の子よっ! もっと興味を持ってください!』
テンコがカーッ、と牙を剥く。
無視されて拗ねていたらしい。尻尾が不満げにバシバシとシートを叩いている。
「で、なに?」
『あの樹木を破壊するのでしょう?』
「うん、で?」
『ここは……この神獣、テンコにお任せなさい……!』
テンコがふんぞり返る。
うーん……。
最近やったことと言えば、焼きそば食べて寝てただけの狐さんに、できるのかなぁ~……。
私はジト目で、テンコを見た。
【おしらせ】
※1/9(金)
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