70.もうついたのぉ!?
焼きそばを配り終えると、車内はズルズルという豪快な音と、幸せそうなため息で満たされた。
『ふむ……美味……なんとも……美味……ずるる……美味……』
ほんとに語彙力が貧弱すぎるよなぁ……。
うちの狐さんはよ。
一心不乱に麺をすすり、口の周りをソースまみれにして、目は完全に据わっている。
これぞまさに「無我夢中」ってやつだ。
『そーちゃ、ソース味、ちゅき~♡ まぁま、おいしいの、ありあとー!』
「おー、そーちゃーん。そうかいそうかい、ありがとねー」
赤ちゃんのほうが礼儀正しいってなんなんでしょうね、って思う私である。
よしよしよしと、そーちゃんの頭を撫でてあげる。
『うむ、人の子よ』
テンコが空になった皿を、スッと差し出してくる。
「はいはいおかわりねー」
『ふっ……言わずともわかるとは。やはりスミコは、妾の唯一無二の相棒にふさわしいですね……。妾達は、魂のレベルで心が通じ合っているのです。あのいけ好かないキザ男とスミコの間には、絶対に生まれ得ない絆ですがねっ!』
何言ってんだか……。
その対抗意識、なんなのホント。
「あの、出ました」
「お、ラディアスさん」
バスルームから、ラディアスさんが戻ってきた。
裸ディアスさんから、ラディアスさん(萌え袖スウェット姿)へと、変貌していた。
髪はまだ少し湿っていて、頬は上気し、湯上がり美女のオーラがすごい。
「濡れた服は洗濯してるんで、ちょっちその服でいてください。飯作ってあるんで、食べて待っててくださいな」
「れ、礼を言う……」
ラディアスさんが、部下たちの元へ行き、彼らと一緒にソファに座る。
そして、渡された焼きそばを一口。
「こ、これは……! なんと美味しいのだ……。甘く、しかしコクのあるソース。それが絡むモチモチの麺……シャキシャキの野菜……。こんな麺類は食べたことがないっ!」
さすが軍人さん。どこぞの狐さんよりも、食レポの語彙が豊富だった。
「この黒いタレ……ただ塩辛いだけでなく、果実のような酸味と、複雑なスパイスの香りがする。それが豚肉の脂と絡み合い、絶妙なハーモニーを奏でている……! これは……止まらん!」
「お気に召したようでなにより。おかわりまだまだあるけど、いります?」
「「「「いります……!」」」」」
軍人さんたちが、バッと勢いよく手を挙げる。
それだけ、この焼きそばが美味しいって思ってくれたようだ。
やっぱ、地球のご飯は世界一だね! 某這い寄る混沌さんも言っていたし(言ってない、正しくは娯楽)。
そんな風に、みんなで焼きそばをもぐもぐしていた。
そして数十分後。
みんな……幸せそうな顔で、床暖房の上に仰向けに寝転がっている。
完全なる「食っちゃ寝」スタイルだ。
……テンコさんもですか。
『ふぅ……人の子よ。妾は、満足です♡』
『そーちゃも、まんじょく~』
神獣達も私の焼きそばを、心ゆくまで堪能したようだ。
テンコはお腹をポンポンと叩き、そーちゃんはその上で丸くなっている。
ぷっぷ~♪
「ん……? キャンピー?」
どったんだろうか。
軽快なクラクションが鳴った。
あ、そっか。洗濯が終わった合図か。
私は立ち上がって、ランドリースペースへと移動する。
おお、ラディアスさんの軍服の洗濯&乾燥、終わってるじゃあないの。
「お待たせしましたー。服、乾きましたよ」
「なん……だとぉおおおおおおおおおおおおおお!?」
リビングに戻ると、ラディアスさんが素っ頓狂な声を上げた。
いやいや、ラディアスさん、ちょいと驚きすぎやしないか?
「たかがズボンが乾いただけで……ほら、うちドラム乾燥式の洗濯機なんで……」
「驚いているのは、ズボンのことじゃあない!」
見れば、ラディアスさんは窓ガラスにへばりつくようにして、外を見ていた。
その背中は強張り、スウェット越しでも分かるほどに戦慄している。
「外に何が……ああ? なんだあれ」
私も窓の外を見る。
そこには、異様な光景が広がっていた。
巨大な木々が、空を覆い尽くすように林立している。
一本一本が、高層ビル並みの太さと高さを持つ、超・巨大樹の森だ。
まるで、巨人の国に迷い込んだかのよう。
木々の枝葉は天蓋のように空を隠し、昼間だというのに薄暗い。
「でっけー木だねえ……それで驚いたの?」
「そうじゃあない!」
そうでもないのかぁい。
「じゃあ何に驚いてるんすか?」
「ここが……妖精郷だっ」
「え……? キャンピー、目的地についたの?」
【(^_^)b】
着いたみたい。
いやぁ、いつも思うけど、移動が楽で仕方ないわー。
「ありえない……! まだ出発して、さほど時間が経過してないのにっ。現地に到着するだなんて!」
ラディアスさんが愕然として振り返る。
「本来なら、魔物との戦闘を繰り返し、野営を行い、泥にまみれて数日かけて辿り着く場所だぞ!? それが……」
「良かったじゃあないですか」
「そうだが……しかし、我らはただ、風呂に入り、焼きそばを食って寝ていただけだぞ!? それで、最難関の秘境に到着するだなんて……」
ラディアスさんは、自らの手(まだスウェットの萌え袖)を見つめ、震えている。
苦労せずに偉業を成し遂げてしまったことへの、謎の罪悪感と感動がない交ぜになっているようだ。
「まあ、楽できて良かったじゃん」
「……なんてことだ。とんでもないカーだな、これは」
「まぁね」
【(^_^)v】
カーナビにピースサインが表示される。
褒められて喜んでいるキャンピー。
「野営もせず、戦闘もせず……ここまで快適に来れるだなんて……」
ラディアスさんがしきりに、キャンピーを褒める。
キャンピーはめちゃほめられて、めちゃくちゃ嬉しそうだった。
コロコロと、カーナビ上の表情が笑顔や照れ顔に変わっていて、かわよでしたね。
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