67.冷静になってツッコミ大佐
妖精郷へ、軍人たちと一緒に向かっている道中。
そういえば、私には彼女にちゃんと聞いておかないといけないことがあった。
私はシートベルトを外し、運転席から立ち上がると、後ろのリビングスペースへとやってきた。
「ラディアスさん、ちょっとお話が……」
「!? 召喚者殿ぉおおおおおおおっ! 前っ、前ぇええええええっ!」
私の顔を見るなり、ラディアス大佐が裏返った声で絶叫した。
普段は凛とした美貌を誇るクールな女性将校が、今は顔面蒼白になり、ガタガタと震える指でフロントガラスを指差している。
その切れ長の目は極限まで見開かれ、額からは滝のような脂汗が流れ落ちていた。
鉄の女と呼ばれた威厳はどこへやら、彼女は今、パニック映画の犠牲者のような顔をしている。
「は、ハンドルから手を離すなんて! ああ、死ぬ! ぶつかるぅううう! あぶなぁあああああああい!」
カツカツと軍靴の音を立て、ラディアスさんが運転席へ飛び込もうとする。
私はそれをひょいと手で制した。
「いや、大丈夫ですよ。ほら、問題なく進んでるでしょ?」
今日もキャンピーは、超安全運転だ。
私が席を立っても、ハンドルは勝手に動き、車体を車線の中央に維持し続けている。
「なん……だと! じ、自動操縦機能までついている……だと……!」
『だと!』が二度も続いてる。
この人、マジで死神界からやってきたの?
「どうなってるのだ……」
「どうなってるって……意思をもってるとしか……」
「魔動カーには、意思はないぞ?」
「そうですね。でもうちのキャンピングカーには、あるんです。意思と可愛い性格が」
ぷっぷっぷー……♡
カーナビの画面を見ると、【(/ω\*)】という照れた顔文字が表示されていた。
相変わらず、かわいいやっちゃね。
あとでボディを泡まみれにして、わしゃわしゃしてあげよう(洗車の意味)。
「自動操縦……なんだ、どうなってるんだ。どういうメカニズムで……?」
「……さぁ」
「さぁって……」
ラディアスさんが、信じられないものを見る目で私を凝視した。
艶やかな唇を半開きにし、呆れを通り越して、恐怖すら混じった視線だ。
まるで、「お前は自分が何に乗っているのか、本当に分かっているのか?」と問いかけるように。
「まあほら、いいじゃん。メカニズムなんて。ほら、神の奇跡的なサムシング的なあれよ、あれ」
「……そんな曖昧なものに乗って、大丈夫なのか?」
「大丈夫に決まってんじゃん。信頼してるし、私。キャンピーのこと」
ぷっぷっぷ~♪
キャンピー、信頼されてちょーご機嫌だ。
ラディアスさんは、楽しげにクラクションを鳴らす車体と、それをニコニコと眺める私を交互に見て、眉間に深い皺を刻んだ。
「……そもそも物に意思が宿ってる時点で、貴殿はオカシイとは思わなかったのか?」
「え、まあ……最初はね」
「最初は!? いや、今もっとも不思議かつ、オカシイのは……他でもない、このキャンピングカーだと私は思うぞっ!」
そ、そうかな……。
そ、そうかも……。
ぷ~?
【(?_?)】
どうしたの~? って、カーナビが首をかしげている。
いやーんかわいい~。
「可愛いから、OKです」
「OKでは無いと思うぞっ」
「そう?」
「そうだぞ! まともな感性をしていたら、こんな得体の知れない乗り物、怖くて乗れないぞっ!」
ラディアスさんが声を荒らげる。
すると。
ぷー……。
【(T-T)】
カーナビに泣き顔が表示され、エンジン音がシュン……と悲しげにトーンダウンした。
「あーあ。キャンピングカーを泣かさないでくれないかな? 女の子だよ?」
「召喚者殿っ。冷静に考えてくれ。車が泣いてる時点で、だいぶ……変だぞ!」
変かな?
変かも。
でもだからなんだっ。
「キャンピングカーは物じゃあないから。相棒だから」
ぷ~~~!
【(*^▽^*)】
ほらかわいい、あらかわいい。
私がフォローすると、即座にご機嫌になる。チョロい相棒だ。
「全自動で動き、感情を持ち、それを表現する術を持つ車を、人は車と言わないと思うぞ!」
「キャンピーはね、野外活動車であって、車ではないのよ」
「屁理屈だっ! 誰かツッコんでこなかったのかっ。この謎物体についてっ」
ラディアスさんは長い髪を振り乱して頭を抱えた。
そして、どこか戦慄したような瞳で、私を見る。
「……この異常な状況を、当たり前の日常として受け入れている貴殿の感性こそが……一番の『異常』なのではないか……?」
なんか失礼なことをボソッと言われた気がするけど、エンジン音にかき消されてよく聞こえなかった。
ま、いっか。
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