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捨てられ聖女は万能チート【キャンピングカー】で快適な一人旅を楽しんでる  作者: 茨木野


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65.バカ聖女の尻拭い



 妖精郷アルフヘイムいきまーす!

 ……というわけで、出発の準備だ。


「イケメンさんもついてくるんすか……?」


【がるるるる……】


 私の言葉に反応したのは、なぜかテンコさんだった。

 喉の奥から低い唸り声を上げ、牙を剥いている。なんか普通に野犬みたいになってるけど……君は高貴な狐の神獣ではなかったか……?


『そーちゃ……がるるるる……』


 見れば、そーちゃんまで真似をして野犬化していた。だめでしょーに。教育に悪いよ、もー。


「残念ですが、私はここを離れる訳にはいきませんので。ええ、非常に残念ですが」


 オタッキーが言う。

 でも、ちっとも残念そうには見えないんだよね。わざとらしい溜息をつき、両手を広げ、やれやれと首を振る。

 そのポーズ、S●S団の超能力者ですかな?


「私が同行する。それと、部下もな」


 と、ラディアス大佐殿がおっしゃる。

 部下? この部屋には大佐一人しかいないけれど。


【外で待機してますね。妙な布をかぶってます】


「外に部下さんいます? ステルス的な迷彩してたり?」

「……ッ」


 くわっ、とラディアスさんが目を見開く。


「……お見事。気配は完全に消させていたはずだが。さすが、召喚者殿」

「いやいや、うちのテンコさんが優秀なんですよ」


 ぶぉんぶぉん! とテンコが自慢げに尻尾を振る。当たると痛いからやめて。


「おっしゃる通り、外には光学迷彩の魔道具を着せた部下が、10名ほど待機しております」

「その人らも乗せる感じですか」

「え?」


 えってなんだろ、えって。


「馬車を使って、召喚者殿の後からついて行かせようかと思っておりましたが……」


 なるほど。たしかに、今のこのリビングスペースにあと10人乗っかるのは、流石に狭い。普通ならそう考えるか。そうだよね。

 普通ならね。


「大丈夫です。へいキャンピー」


 ぷっぷー♪


 私が何か言う前に、キャンピーがクラクションで返事をする。

 直後、カッ……! と車内が光に包まれた。


 ズズズズズ……ッ!

 重厚な音が響き、壁が奥へとスライドしていく。天井が高くなり、床面積が倍、いや三倍へと拡張されていく。

 まるで、ワンルームのアパートが、一瞬にしてホテルの大宴会場へと変貌したかのようだ。


「なん……だと……!?」


 バン! 回! とかしてきそうな勢いで、驚くラディアスさん。


「部屋が……広がった。なんだこれは……空間魔法……?」

「ですです。うちのキャンピーさん、使えるんです。10人くらいなら余裕っすよ」


 ぷ~♪


 カーナビは見れてないけど、多分画面には【(/ω\*)】が表示されているだろう。


「なんてことだ……やはり、人選をミスっていたな……」


「????」


 なんだろう、その独り言……。人選……?


「配慮、感謝する。では、部下達を中に入れても?」

「OKですよ」


 ラディアスさんが部下を呼びに出て行く。

 残されたオタッキーさんが、ふと真面目な顔で口を開いた。


「実は……神樹が枯れた原因が、聖女にあるんです」

「はぁん? どゆこと?」


「一ヶ月前でしょうか。神樹の実のりが悪くなってきたので、調査に行ったのです。念のため、同行者に『聖女』を連れて」


「ほうほう」


「思った通り、神樹は少し根元が腐っているだけでした。これなら対処できる、と一旦調査員は帰って、科学班を連れてくる……はずでした。ただ……そこで同行した聖女が『これならきらりんにも直せまーす☆』と」


「ほ、ほー……」


 なんだろう、どっかで聞いたことあるような一人称だぞ~?

 あと、この後の展開も容易に想像できた。


「で?」

「そのきらりんとか言うクソ……失礼、女は聖女の力を使いました。ただ……『浄化』ではなく、『治癒』を誤って使ってしまいました」


 神樹が腐ってるなら、まず『浄化』して腐敗を取り除くべきでしょ。

 そこに……治癒?

 腐った細胞に、活性化させる『治癒』をかけたら……?


「もしかして……」

「はい。腐食が活性化し、爆発的に浸食してしまい……結果、神樹は深くダメージを受けました。実りはさらに減り……しかもそのせいで、森は現在、瘴気で満ちる結果に」


 大☆惨☆事じゃん!

 なにやってるの……あの子……。


 きらりん、って、多分、木曽川きそがわ煌海きらりんのことだろうなぁ。

 あいつなんで帝国に来てたんだろ……。王国の召喚聖女じゃなかったっけ……?


 ふと、オタッキーさんを見ると、その表情は笑顔のまま固まっていた。

 だが、奥の瞳は、これっぽっちも笑っていない。むしろ、絶対零度のように冷え切っている。


 握りしめた拳は、血が滲むほどに食い込んでおり、彼がどれほどの怒りを腹の底に溜め込んでいるかが伝わってきた。

 もし今ここにその『きらりん』がいたら、この温厚そうな商人は、迷わずその首をへし折っていたかもしれない。


「お、おう……」


 ちょーキレてるやんこの人……。普段がおちゃらけてるだけに、マジで怖いんですけど。

 やっぱり商売道具(魔道具)の元になる神樹のことだから、商人としては死活問題なんだろうなぁ。


「正直、手詰まりでした。帝国民には明かしておりませんが、今、帝国は窮地に立たされているのです」


 重いよー。なんか重いよー。

 軽い調査クエストだと思ったら、とんだ国救う系クエストだった件。

 私、勇者じゃあないんですけど……。


「なので、どうか。聖女殿。……この国をお救いくださいませ」


 オタッキーさんが、深く、深く頭を下げた。

 その声は微かに震えていた。商人の仮面をかなぐり捨て、まるで国を背負う王族が民に縋るような、そんな重たい必死さがそこにはあった。

 ……なんか急に、とんでもない大事件に巻き込まれてしまった……。


【金に釣られて安請け合いするからですよ】


 ぺしんっ、とテンコが尻尾で私の頬を叩く。


【どうせスミコのことです。あの男の顔が良いから、断りきれなかったのでしょう。ふんっ】


 テンコさんはそっぽを向き、つんっと澄ましている。

 その尻尾はパタパタと不機嫌そうに床を叩いており、あからさまに「面白くない」というオーラを放っていた。

 ……なんでこの狐、あのイケメン相手だと当たり強いんすかね。


「乗車完了した」


 と、そこへラディアスさんが戻ってきた。

 後ろには、完全武装の兵士たちがぞろぞろと乗り込んでくる。


「了解。そんじゃ……」

「はい、行ってらっしゃいませ」


 オタッキーさんに見送られ、こうして私は出発する。

 ……煌海きらりんの尻拭いってのが、なんかいやーん。


 てか、煌海きらりんってその後どこ行ったんだろうか。

 オタッキーさんは何も言ってなかったけど……まあ、ロクな目には遭ってないだろうな。


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