58.カフェでお昼
帝国はサラディアスの街へとやってきた。
門をくぐった瞬間、私はその光景に圧倒された。
そこは、これまでの異世界ファンタジーとは一線を画す、近代的な街並みだったのだ。
赤レンガと鉄骨で組まれた、四階建て、五階建てのビル群が整然と立ち並んでいる。
道路は綺麗に石畳で舗装され、魔導灯らしき街灯が等間隔に設置されている。
「どひゃー、背の高い建物がいっぱいですねー」
ネログーマの時もそうだったけど、こっちの世界の建物は、あんま縦に長くないのが普通だ。
でもこっちは、現代日本の高層ビルってほどじゃあないけど、見上げるような建物がいくつも空に向かって伸びている。
「…………」おー。
キャンピーは口をあんぐりと開けてビルを見上げ、そのまま後ろにコケそうになる。
それをテンコが背後からすっと支える。
態度はあれだけど、この子は友達思いだから、私は嫌いになれないんだよね。テンコさん。
【馳走】
念話でちゃんと会話してる。偉いぞテンコ。偉いから、その頭の中が食べ物で埋め尽くされてるのをどうにかして。
「ごはんにしますか、まずは」
私たちは道行く人達に混じって、大通りを進んでいく。
すごい人混みだ。
スーツのような服を着たドワーフ、洒落たドレスのエルフ、作業着姿の獣人。
多種多様な種族が、忙しなく行き交っている。
活気があるというより、都会の喧騒といった感じだ。
「うわ……すげ……」
「なんだあのでっかいの……」
「魔物……?」
「従魔だろ……」
「にしてはでかすぎるだろ……」
ああ、目立つ。目立ち過ぎちゃう。
そうだよね。こんなでっかい黄金の狐が、のしのし歩いてたらね。
でも入国許可証のおかげで、通報にまではいかないでいる。マジで許可証助かるわー。
ほどなくして、目的のカフェへと到着した。
看板には、猫と犬のマークが描かれている。
「【白猫と黒犬】……ここね」
【人の子、スミコよ。ここはなんですか?】
「カフェよ」
話聞いてなかったんかい。
【カフェ……?】
「喫茶店」
【ふぅ……】
はい始まりましたね、そのあからさまなため息。
【人の子よ。喫茶店なんかで、腹が膨れるものですか。茶をすする場所でしょう?】
「すみませーん、二人と従魔二匹でお願いしまーす」
【ちょっと! 人の子よ! 無視はいけませんっ!】
ムシムシ。
私は外のテラス席に通される。さすがにこのデカペット(※テンコ)を、店の中に入れるわけにはいかないもんね。
そーちゃんは私の膝の上にちょこんと座る。
『まぁま、ごはん?』
「そ、ご飯」
『やったー! ちそー!』
バンザイするそーちゃん。
そこへ、注文を取りに来た店員が、そーちゃんとテンコを見て、ギョッとする。
「あ、すみません。従魔なんですこの子達」
「な、なるほど……」
店員はチラと私の首元の入国許可証を見て、ほっと安堵の息をつく。
やっぱり便利♡、ボクのドッキリテクスチャー(※入国許可証)。
「ご注文は?」
「コーヒー一つ。あとなんか大量に食べれて、美味しいものを」
「かしこまりました~」
店員は去って行く。
『まぁま、ごはんは~? そーちゃ、おなかぺこちゃん』
「もうちょっと待ってねー」
【ふむ……スミコよ。馳走はまだですか】
「直ぐ来るからまっとけって」
【む! 人の子よっ。なんだか、そーちゃんと、妾への態度が、違いすぎませんかっ。ひいきが過ぎますよっ】
「そりゃ生まれたてベイビーと、デカベイビーじゃ、対応は変わりますよ」
【同じ待遇を所望します!】
「はいはい」
別に区別も差別もしてない。ただそーちゃんはまだほんとにちっこいからね。私が面倒みないとって思ってるだけ。
「お待たせしました。コーヒーと……ジャンボクレープです」
「…………オー。じゃ、ジャンボー」
ドンッ!
テーブルが軋む音と共に置かれたのは、もはやクレープと呼んでいいのかわからない代物だった。
ミルクレープだ。それが、何十……いや、100層くらい積み重なったものが、目の前に鎮座している。
椅子に座る私。その顔と、同じ高さくらいある!
甘いバニラと焼き立ての生地の香りが、暴力的なまでに鼻腔をくすぐる。
「お、多過ぎでしょこれ……」
「これが帝国名物【ダークノワール・ブラックシュバルツクレープ】です!」
名前長っ。
つーか、ダーク(闇)・ノワール(黒)・ブラック(黒)・シュバルツ(黒)って。全部「黒」じゃん。
何その頭のオカシイ名前。中二病の極みか。
「帝国を興した皇帝陛下が、ダークノワール・ブラックシュバルツタワーという巨塔をかつて建てた伝説をもとにつくられた、めちゃくちゃでかいミルクレープです!」
「へー……」
一応ここの郷土料理……というか、ここでしか食べられないものらしい。
たしかに、量がたくさんあるけどさ。
【ひ、人の子よ……】
じゅるり……とテンコが大量のよだれを垂らしている。
その目は、獲物を狙う野獣そのものだ。
【た、食べてもよいのですかっ】
「え、ああ。どうぞ」
【いただきますっ!】
テンコがテーブルに身を乗り出す。
犬がそうするように、テンコが両手で皿を抱えて、上からガブリといく。
バグッ!
【む……! こ、これはぁ……! 美味ぃ!】
テンコがはぐはぐ、と巨大なクレープを頭から丸かじりする。
口の周りにクリームをたっぷりとつけながら、恍惚の表情を浮かべている。
バタバタバタバタバタッ!
テンコの尻尾が、扇風機のような勢いで左右に振られている。喜びすぎでしょ。
【この薄い生地の間に……濃厚なクリームが何層にも挟まって……噛むたびに甘みが溢れる……美味!】
『あー! テンコちゃ、だめー! そーちゃも、そーちゃもたべりゅのー!』
そーちゃんはテンコの顔近くへやってきて、てしてしと手で叩く。
頬を膨らませて猛抗議だ。
【美味! 甘くて美味! 止まりません!】
『わーん! まぁま~! テンコちゃが独り占めする~!』
よしよし、と私はそーちゃんの頭をなでる。注意しても無駄なのは、わかってるのだ。
食事に夢中だし、聞こえてない。
「別の頼んであげるから」
『ほんとー? わーい!』
そーちゃんがパァっと笑顔になり、私の胸にスリスリしてくる。可愛い。
それにしても……良かったぁ。大食いが一人いて。
これ、私が何も知らずに一人で頼んでいたら、絶対に残していたもん。
「あんがとね、テンコ」
【美味!】
食事の時に、テンコの大食いっぷりに感謝する日がくるとはねぇ。
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