42.焼きマシュマロに、絶賛する食いしん坊たち
ふぶきのところに、一泊させて貰うことになった。
寝る前に、うちの食いしん坊どもが、腹減ったと騒ぎ出した。
私たちはたき火の前に居る。
「ではこれより美味いもんつくります」
『フッ……スミコよ。そんな駄菓子で、この美食家の舌をうならせることができるとでも?』
テンコがふんぞり返り、呆れたように肩をすくめる。
その尻尾は、しかし、期待にパタパタと揺れていた。素直じゃないねえ。
「やってみないとわかんないでしょ」
やらなくてもどうなるか火を見るより明らかだけども。
「それより、ちゃんと約束守りなさいよ」
『フッ……。よいでしょう。美味しいを提供できるのであれば、言いましょう。ぎゃふん! と』
はいはい。私は、バーベキュー用の串(ふぶきに借りた)に、マシュマロを突き刺す。
「そして後は火であぶる。以上」
『ふっ、ふふふっ、はーっはっは! スミコよ。人の子よ。なんですかっ。それが調理? 人の子よ……コノ程度で妾をぎゃふんと言わせることなんて、不可能ですよっ!』
ムシムシ。もう数十行の展開&セリフは見えてるから。
しばらく、マシュマロを火であぶる。
すると、ぷるぷる、とマシュマロが熱でとけて、一回り大きく膨らみ、じんわりと柔らかくなっていく。
表面がきつね色に染まり、砂糖が焦げる甘く香ばしい匂いが、あたりに漂い始めた。
『むほ……♡ じゅる……♡』
テンコが鼻をひくつかせ、口端からツーーーっとよだれを垂らした。
「もうぎゃふんって言う?」
『な、何を馬鹿なことをっ。まだ一口も食べていないのに、ぎゃふんなんて言うものですかっ!』
言いながらも、その目は串の先のマシュマロに釘付けだ。目が泳いでるよ。
『わぁ! まぁま、なんかおいちそーなにおいしゅるー! あまぁくて、おいちそー!』
ちょうど、出店のわたあめ屋っぽい匂いがする。
どっちも熱した砂糖菓子だからね。
マシュマロ表面が少し焦げてきた。こんがりとした焼き目が、食欲をそそる。
『おいちそー! まぁままぁま! まーだぁ!?』
そーちゃんは、よだれを垂らして火の中に突っ込みそうになってる。
キャンピーがそれを後ろからガシッと抱っこして止めている。今はキャンピーの腕力で制御できている。が、いずれ、いや待て、キャンピーも人間じゃあないからな。
そーちゃんがでっかくなっても、余裕で押さえつけられそう。
私の脳裏には、でっかくなった蒼銀竜を、羽交い締めにする小柄なメイドキャンピーの姿がよぎった。パワフル可愛い。
何年後かわからないけど、巨大怪獣が二匹になるっていう確定した未来には、目を逸らしつつ。
「そろそろかな……できたよそーちゃん」
『わぁ! まぁま、これはこれはぁ?』
「さっきのマシュマロを焼いたものです」
『まちゅまろっ。やいたっ。ぷるぷるっ。うまちそー!』
うまちそー?
ああ、美味そうな馳走ね。ほんと、テンコのそばにいると、変な言葉覚えるんだからもう。
『ひ、人の子よっ』
「はー? なんすかね」
隣を見ると、よだれだらだらの天狐さんが、前足で私の服をちょいちょいと引っ張っていた。
『は、早くそれを早くっ!』
「えー、馬鹿にしてませんでした?」
『きゃふぅん……』
もうすでに『ぎゃふん』と言いかけていた。濁点一個付ければゲームセットだぞ。チョロすぎないですか君?
「まずはそーちゃんから」
『そんな! 殺生な! こんな美味しそうな匂いをさせておいて、お預けですって!?』
テンコがガクッと項垂れ、耳をぺたんと伏せる。
「我慢できるでしょ。さっきまであんなに馬鹿にしてたんだから」
『ぎゃぶぅん……』
おしい、濁点がつきすぎていた。まあ、こうなるのは見えていたしね。驚きなんてない。
「はいそーちゃん。あーん」
私はトロトロになったマシュマロをそーちゃんに差し出す。
そーちゃんは大きな口を開けて、パクッ、とマシュマロに食いつく。
『ん~~~~~~~~~~! びみー!』
『ああ……! そんな……! 一口でっ!』
テンコがこの世の終わりみたいな顔をして、地面に突っ伏した。
君のどこに神聖さがあるというのだね?
『とろとろ。さくさく。びみ~!』
「おいしい?」
『うんっ! まぁま、だいちゅきっ! いっぱいびみーくれりゅっ! だいちゅき!』
そーちゃんは目を細め、とろけそうな笑顔で身悶えしている。
あらあらうふふ。可愛い子だよ。
素直だからね。
『ぐぬぅううううううううう~……』
一方で、別ベクトルで可愛い娘がひとり。いや、一匹。
テンコは滝のようなよだれを流しながら、恨めしそうにそーちゃんを見てる。
『びみ! びみー!』
『こ、こらっ。食レポは妾の役割でしょうがっ』
しょく、れぽ?
あれは、しょくれぽ、だった、だと!?(驚愕)
私はあまりの事実に、持っていた串を取り落としそうになった。
嘘でしょ!? あれが!? あんなの赤ちゃんでも(※そーちゃん)できるよ!?
あれが食レポ!?
『人の子よ、なんですかそんな驚いた顔をして』
「いや……なんか……ほんとに異世界にきたんだなぁ……って」
もしかしたら、あの貧弱語彙から繰り出される、品評ですらない感想が、こっちの世界じゃゴールドスタンダードな食レポなのかもしれない。
現実世界と、異世界じゃ、いろいろと価値観は異なるからね。
いやぁ、異世界にきたわぁ~。って初めて実感したかもしれない。
『馬鹿にしてますよね、馬鹿にしましたねっ!』
そういえば心読めるんだっけか、テンコさん。
『まぁま、まぁま! びみ! しゃらなる、びみを!』
「はいはい。どうぞそーちゃん。あーん」
『あーん♡ ん~♡ びみ~~♡』
外はカリカリ、中はクリームのようにとろっとろの焼きマシュマロを堪能するそーちゃんっ。
『きゅぅう……きゅうぅん……きゅぅうううん……』
「そんな悲しそうな声あげないの」
テンコが捨てられた子犬のような目で見上げてくる。
なんだか不憫になってきた。からかいすぎちゃったかな。反省。
「ほら、テンコの分も」
キャンピーさん&ふぶきさんご協力のもと、焼きマシュマロをじゃんじゃん焼いているのだ。
テンコの分を、私は差し出す。
ばくっ!
テンコが電光石火の早業で食らいついた。
『はぁああああああああああああああああああああああああん♡』
至福の表情で、テンコが叫ぶ。九本の尻尾が扇のようにブワッと広がった。
『美味!』
「はいはいお粗末さま」
『美味ですよこれはっ! これは美味ですよ!』
「食レポどーも」
ばくばくばく、とテンコが焼きマシュマロを吸い込んでいく。
そーちゃんも負けじと猛烈な速度で食べていく。
結果、徳用のマシュマロが、あっという間に一袋空いてしまった。
ああ、金が、金が飛んでいく、あははは。私は乾いた笑いを漏らすしかなかった。
「これは【あれ】やらないほうが……」
『スミコよ! なにかまだ美味を隠してますね!』
テンコがズイッと顔を近づけてくる。黄金の瞳が、獲物を狙う獣のようにギラついていた。
なんだよ美味を隠してるって。
しかしめざとい狐だなこの娘。
「でもなぁ、これやるとなぁ~……お金がなぁ~……」
『金なら妾が魔物を狩ってくればいいんでしょう!?』
『そーちゃも、かりゅー!』
まあ、このダブル神獣がいれば、魔物なんて軽く一ひねりできるだろうし。
しょうがない。
作らないと、うるさいだろうからね。
「では作ります。まずはKAmizonで、チョコとビスケットを買います」
続いて、焼いたマシュマロを、ビスケットの上にのっける。
さらにひとかけらのチョコレートを乗せ、もう一枚のビスケットで挟んで、ぎゅっと押しつぶす。
熱でチョコとマシュマロがとろけ合い、ビスケットの間からはみ出しそうになる。
「はい完成、スモアです」
『すもー?』
どすこいっ!
「スモアだよ。そーちゃん。ほら、あーん」
そーちゃんに、とろとろのスモアを向ける。
ばくっ!
『あー! てんちゃん、そーちゃのすもーとったぁ……!』
はっけよい!
って、テンコのやつ、そーちゃんが食べようとしたのを、横から残像が見えるほどの速さで取りやがった。
『あーん! あーん!』
「こら、駄目でしょテンコ。赤ちゃんのご飯とっちゃ」
『あーん! あーん! まぁま、あーん!』
「あれ泣いてない? あーんってしてるだけ……?」
意外と強い子だね君。
そーちゃんにスモアをあげる。
『美味! おお、なんということでしょうっ。ビスケットと、溶けたチョコと、溶けたマシュマロ、美味の三乗! 美味じゃあないわけがないっ!』
『びびび~!』
びびび?
ねず●男ですか? そーちゃん。
『びみの、さんじょー!』
「あ、そう……お気に召したようで?」
『うん! ちょーびみ~!』
そーちゃんは頬っぺたを押さえて、幸せそうに体を揺らしている。
どれ私もちょこっと一口。
サクッ! とろ。
う~ん、美味し。ビスケットのサクサク食感に、熱で溶けた濃厚なチョコとマシュマロの甘さが絡み合って、口の中でとろける。
チョコビスケットと味は似てる。でもぜんぜんちがう。
やっぱ温めてるからかな。
溶かしたことにより、チョコもマシュマロも、常温で食べるよりも香り高く、甘い。そこにビスケットのザクザクとした香ばしい食感も加わり、まじで美味しい。
『んふぅ~……♡』
「さぁて、テンコさん? 何か言うことあるんじゃあないですか?」
まあほぼ言ってるようなものだけども。
するとテンコはこほん、と咳払いし、口元のチョコを舐めとった。
『大儀』
「なーにが大儀じゃ。ほれほれ、言ってみ? ぎゃふんっ。ほら、言ってみ?」
『ふんっ。誇り高きこの天狐が、そのようなセリフを言うわけがないのですっ!』
さっきほぼ言ってたんすけどね。
まあいいや。子どもとの約束だしね。
『それより、スミコっ。もっとスモアを作るのです!』
『すもっとぉ~!』
スモア+もっとで、すもっとか。可愛いなそーちゃん。
そういえば、スモアの語源って『Some more!』つまり、『もっとちょうだい! おかわり!』の意味らしい。
なるほど、語源は正しいなと、異世界に来て、理解する私なのだった。
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