第7話 第一の試練への道 ― 審判の地へ
神々の声が消えてから、三日が経った。
あの日、空に現れた七本の光の柱は、いまだに消えずに世界を照らしている。
それは美しくも、不気味な光景だった。
昼は太陽の輝きを喰うように、夜は星々を押しのけるように。
まるで「神が見ている」と言わんばかりに――。
俺たちは、第一の光柱が立つ「審判の地」へ向かっていた。
そこは帝都から北へ二日、灰色の大地と氷の峡谷が広がる場所だ。
伝承では“神々が最初に人間を裁いた地”とされている。
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「にしてもよ……神々の試練ってのは、もっとこう、“力比べ”とか“魔法勝負”みたいなもんじゃねぇのか?」
焚き火の火をつつきながら、リオンがぼやいた。
「お前、どんなゲーム脳だよ……」
エリシアが呆れたように笑う。
「神の試練っていうのは、力だけじゃなく心も見られる。
古代の伝承にも、“己を裁けぬ者に創造の資格なし”って書いてあるわ」
「己を裁けぬ者、ね……」
その言葉に、俺は少しだけ言葉を失った。
あの戦いのあと、俺は何度も思った。
――俺は、本当に正しかったのか?
――あのとき、セリアを“救う”と信じて戦ったけど、それはただの傲慢じゃなかったのか?
あのときの“創造の力”は、確かに世界を救った。
でも、同時に俺は“神の一柱”を消滅させてしまった。
救ったつもりで、奪っていたのかもしれない。
焚き火の火が、ふと揺れる。
その橙の光が、どこかで見た女神の瞳のようで、胸が少し痛んだ。
「……試練ってのは、もしかしたら俺自身のためのものかもしれないな」
「ユウマ?」
「“創造”ってのは結局、何かを作る代わりに、何かを壊すことでもある。
オルデスって神は、それを“裁く”立場にあるらしい」
「裁く……ってことは、ユウマが“裁かれる”の?」
エリシアの表情に不安がよぎる。
「多分な。でも、それでいい。
この力を持ったまま、曖昧にしておくわけにはいかない。
俺が本当に“創造者”であるなら、罪も責任も、全部引き受ける。」
焚き火が、静かに弾けた。
夜の森には、風の音と、遠くの狼の遠吠えが響く。
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翌朝。
俺たちは、北の氷峡へと足を踏み入れた。
風が痛い。
雪が視界を奪い、吐く息すら凍る。
まるで大地そのものが「人の侵入を拒んでいる」ようだった。
「寒っ……! なんで神様の試練って毎回環境まで鬼畜なんだよ……!」
「文句言うな。神様に聞こえたら雪崩でも起こされるぞ」
「お前、冗談じゃ済まなそうだから怖いんだよ!」
リオンが雪を払いながら悪態をつく。
エリシアは淡々と魔法で暖気を展開してくれていた。
その小さな光の球が、凍える空気の中で唯一の救いだった。
「……助かる」
「いいえ。でも、これも長くは保たないわ。
審判の地まで、あと二刻。そこから先は、魔力そのものが削られるらしい」
「削られる?」
「神聖領域に近づくと、魔力が“罪の重さ”に応じて削られる。
つまり――“罪深い者ほど力を失う”の」
「はは、じゃあ俺はヤバいな」
「笑い事じゃないから!」
エリシアの声が少し強くなる。
リオンがそのやり取りを見て苦笑する。
「ま、俺たちでフォローするさ。
罪だの裁きだの、神のルールなんざ知らねぇけど……ユウマがやってきたこと、俺たちは見てる。
だから、信じる」
俺は一瞬だけ言葉を失い、それから笑った。
「ありがとな、リオン」
「礼なんかいい。どうせまたトラブルに巻き込まれるんだからな」
「それは否定できねぇな」
そんな冗談を交わしながら、俺たちは吹雪の中を進んだ。
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やがて、空が開ける。
雪雲が裂け、光が降り注ぐ。
その中央に、黒曜石のような大地が広がっていた。
そこだけ、雪も風もない。
完全な静寂。
「……ここが、“審判の地”か」
大地の中心に、巨大な石碑が立っている。
その表面には、古代文字が刻まれていた。
【汝、創造者にして罪人。
己を赦すこと能わざる者、此処に入るを許さず。】
「赦すこと能わざる者……?」
「自分を赦せない者は、試練を受ける資格もないってことよ」
俺はゆっくりと、碑文に手を触れた。
瞬間――世界が反転した。
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視界が白に染まり、足元が消える。
風も音もない、純粋な“無”。
そして、その中央に――
白い鎧を纏った神が立っていた。
金の天秤を手にした、荘厳な存在。
「――汝が、創造の担い手か」
その声は、空間全体から響いていた。
背筋が自然と伸びる。
「我は、審判神オルデス。
汝の“罪”を量り、汝の“意志”を問う。
それが第一の試練――“裁きの天秤”。」
「……上等だ」
剣を構えた瞬間、空気が震えた。
神々の試練――その幕が、いま上がる。




