第37話 創造の果て ― 永遠に響く名
――世界は、静かに息を吹き返していた。
草原に風が渡り、光が降る。
かつて神々の調律によって崩壊した神界は跡形もなく、
その代わりに広がるのは、青い空と大地。
生命が芽吹く音が聞こえる。
鳥が歌い、川が流れ、人々の笑い声が響いていた。
「……やっと、戻ってきたんだな。」
リオンが、丘の上で空を見上げていた。
その隣にはエリシア。
彼女の金の髪が風に揺れ、淡く光を反射している。
彼女の手には、青く輝く宝珠――“創造の欠片”が握られていた。
「この光、まだ生きてる。……ユウマの、光。」
エリシアが微笑む。
リオンは頷き、静かに目を閉じた。
「俺にはわかる。
あいつは消えたんじゃない。
世界になったんだ。」
二人の視線の先――
空には、どこか懐かしい青白い輝きがあった。
まるで太陽の隣に、小さな“もう一つの光”が寄り添うように。
『――リオン、エリシア。』
微かな声が風に混じって届いた。
それは、確かにユウマの声だった。
『これが俺の“世界”だ。
だからもう、泣かないでくれ。
これからは、お前たちの時代だ。
人が、神に支配されない世界を――生き抜け。』
涙が零れた。
けれど、それは悲しみの涙ではなかった。
「……ああ、ユウマ。
お前の“創造”は、ちゃんとここにある。」
リオンが拳を握り、青空へと掲げる。
風が吹く。
それはまるで、ユウマが笑っているような優しい風だった。
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◆ 数年後 ― 新生の都・アストレア ◆
広大な都市の中央で、鐘が鳴り響く。
「第七創世暦・三年目、創造記念祭を始めます!」
子どもたちが走り回り、大人たちは笑いながら屋台を並べていた。
そこにはもはや“神々”の姿はなく、代わりに“人々の手”で築かれた文明が広がっていた。
リオンは衛兵団の団長として新都を守り、
エリシアは“創造教会”の初代司祭として人々を導いていた。
教会の中心には、透明な結晶が静かに輝いている。
その内部には、青い光の粒が脈打つように揺れていた。
それは――ユウマの“魂の残響”。
エリシアは祈りを捧げながら、微笑んだ。
「あなたの創った世界、今もちゃんと動いてるわ。
戦うことも、泣くことも、愛することも――
全部、あなたが残した“人の形”よ。」
彼女の隣で、リオンが言った。
「……なあ、エリシア。
もしあいつが生きてたら、どうしてたと思う?」
エリシアは静かに微笑んだ。
「きっと――この祭りの屋台で、子どもたちに笑われてるわね。」
二人は顔を見合わせて、同時に笑った。
教会の窓から差し込む光が、ふたりの影を長く伸ばしていく。
その光の中心で、青い輝きが微かに瞬いた。
『……悪くないな。こういう世界も。』
ほんの一瞬、ユウマの声が響いた気がした。
だがそれはもう、風の中に溶けていた。
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◆ 時は流れ、伝説となる ◆
千年後――。
創造神ユウマの名は、もはや神話として語られていた。
だが、その神話の最後には、いつも同じ言葉が刻まれている。
『創造は神のものにあらず。
人が願い、人が生きる限り、創造は続く。』
そして今もなお、青白い星が空に瞬く。
それは世界の誰もが“創造の星”と呼ぶ光。
その星が、かつて一人の“人間”の魂であったことを知る者は、もういない。
――だが、それでいい。
その光は、永遠に消えることはなかった。
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終章 ― 永遠に響く名
世界を創り直したのは、神ではなかった。
一人の“人間”が、恐れずに願いを貫いたからだ。
その名は、ユウマ。
神々の時代が終わり、
“人の時代”が始まった今も――
その名は、風と光の中に響いている。




