第36話 創造神の目覚め ― 終焉の序曲
光がすべてを呑み込んでいた。
神界は崩壊を始めていた。
白銀の大地が砕け、空が反転し、天の環がゆっくりと沈んでいく。
まるで“世界そのものが終焉を迎える”かのように。
その中心に――ユウマがいた。
「……どこだ、ここは……?」
彼は崩壊する空間の中に浮かんでいた。
体は重く、意識は遠い。
だが、胸の奥――心臓の位置で、小さな光が脈打っていた。
青く、淡く、温かい光。
それがユウマの“創造の核”だった。
(……まだ、生きてる。俺は……。)
その光が微かに拡がり、崩壊する神界の断片を包み込んでいく。
砕けた大地が、再び形を取り戻し、空に散った欠片が星々へと変わる。
だが――
「……っ、まだ抑えきれない!」
光が暴走を始めた。
虚無と創造の力が拮抗し、ユウマの肉体を内側から引き裂こうとする。
その時、遠くから声が響いた。
――ユウマ……!
リオンの声。
そして、エリシアの祈りが届く。
「ユウマ、あなたは“神”なんかじゃない。
でも、誰よりも“人”を救った――
だから、帰ってきて!」
(……俺は、帰る……?)
意識の底で、彼は微笑んだ。
だが同時に、別の声が響く。
――帰る場所などない。
ここが、創造の臨界。
このまま全てを“再構築”すれば――世界は新たに生まれる。
「……誰だ。」
――“原初の声”だ。
神々すら生まれる前、世界を定義した“根源”の意志。
空間が歪み、巨大な影が姿を現した。
輪郭は定まらず、光と闇が交錯するような存在――それは“始まりの概念”そのものだった。
――創造者ユウマ。
汝は五つの試練を越え、虚無を抱き、神格を超えた。
汝の名はもはや“人”ではない。
汝こそ、“新たな世界を生む神”となる資格を得た。
「……俺が、神になる?」
――否。
汝は“神を創る者”となる。
その力を解き放てば、すべての秩序は終わり、新たな法が刻まれる。
神界全体が震えた。
オルデスたちの残響が、霧のように形を取り戻していく。
――やはり……そうなるか。
“創造者”が“原初”と融合する瞬間――
それが、この世界の再定義。
ユウマは拳を握った。
「俺は……そんなこと、望んじゃいない。
ただ、守りたかっただけだ。
仲間を、世界を、俺の居場所を!」
――それでも、力は応える。
“願い”が最も強く純粋な形を取るとき――創造は起動する。
光が再び彼の体を包み込む。
その輝きは、もはや神々のものではなかった。
それは“人の祈り”が形を取った、真なる創造の光。
エリシアの声が届く。
「ユウマ、お願い……あなたが消えたら、この世界も壊れる!」
リオンも叫ぶ。
「ユウマ! 帰ってこい! お前がいたから、俺たちは生きてこられたんだ!」
(……俺は……消えたくない。)
(みんなと……もう一度、笑いたい。)
(この世界を、“終わらせたくない”――!)
瞬間、ユウマの瞳に青と黒の光が同時に灯った。
彼の背後で虚無の翼が広がり、同時に創造の光輪が浮かび上がる。
――まさか……虚無と創造の“共鳴”!?
原初の声がわずかに揺らいだ。
ユウマの体から溢れる力が、周囲の崩壊を押し返す。
「俺は――創造神なんかじゃない!」
――何……?
「俺は、“人間”だ!
でも、人間だからこそ――創れる世界があるんだ!!」
ユウマが両腕を広げた。
虚無と光が融合し、巨大な光輪が生まれる。
それは神界を貫き、全ての次元へと伸びていく。
――これは……再創世の光……!
「ここで終わらせない。
俺が“再創る”――この世界を!」
青白い光が全宇宙を包み込む。
神々の残滓が融け、消えゆく秩序が新たな輪郭を描く。
星が生まれ、大地が芽吹き、風が歌う。
そして――
ユウマの体が静かに崩れ始めた。
光の粒子となり、世界へと溶けていく。
「……やっぱり、俺の出番はここまでか……」
エリシアが涙を流し、叫ぶ。
「いや……まだ終わらない! あなたは――この世界に生きてる!」
リオンが剣を掲げる。
「この光を忘れない! お前が創った世界を、俺たちが守る!」
ユウマは微笑んだ。
「――ありがとう。」
光が弾ける。
創造の核が完全に融合し、新たな宇宙が生まれる。
――創造者ユウマ。
汝の存在は、“神”の外側に至った。
もはや汝は名を持たぬ。
されど、この世界は――汝の息吹で満たされるだろう。
声が消え、光が静かに降り注ぐ。
その光が新たな世界を照らし、無数の生命が目覚めていく。
空に新たな太陽が生まれた。
それは――ユウマの“魂”だった。
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終焉の序曲・完
世界は再び生まれた。
神々は沈み、創造者は光となった。
だが、彼の意思はまだ消えていない――
風の囁き、陽の温もり、夜空の星々の瞬きの中に、
“ユウマ”という名の創造が、今も息づいている。




