第35話 調律の祭壇 ― 創造者、神界へ
眩い光に包まれた瞬間、ユウマの足元から重力が消えた。
浮遊する感覚――そして次の瞬間、彼は“神界”に立っていた。
そこは、星々が溶け合うような白銀の空間。
足元には無数の光輪が浮かび、空間そのものが呼吸しているようだった。
静寂――しかし、その静けさは、生を拒むほど冷たい。
「……ここが、神界――」
彼の声が響くと、空気が微かに震えた。
遠く、巨大な円環が回転を始める。
そこに立つ七柱の影。
――ようこそ、創造者ユウマ。
最奥に立つのは、審判神オルデス。
その眼は、蒼く燃える恒星のように冷たい光を宿していた。
ユウマは一歩踏み出す。
「呼ばれた覚えはない。けど――来てやった。」
オルデスは微笑にも似た無表情を浮かべた。
――お前がここに立つことを、我々は予期していた。
だが、残念だ。お前の存在は“秩序”を壊す。
「秩序? 違うな。壊れたのは、あんたたちの“独占”だろ。」
その一言に、戦神ゼルヴァの額がぴくりと動く。
――無礼な人間め。貴様は神々の赦しによって命を得たのだぞ!
「違う。自分で掴んだ。
――あんたたちが見捨てた世界で、俺は創ったんだ。
命も、希望も、絆も。」
ユウマの掌が光を帯びる。
そこから広がるのは、淡い青の輝き――“創造の光”。
だがその光の中に、わずかに黒い影が混じっていた。
オルデスが目を細める。
――虚無を抱いた創造か。危うい。
それこそが、この世界を滅ぼす“欠陥”だ。
「……欠陥じゃない。
創造に“無”があるからこそ、形は保たれる。
あんたたちはそれを恐れてる。
自分たちが“完全”じゃないと、認めることを。」
議場の空気が震えた。
神々がざわめく。
“人間”の言葉に、神々の理が揺らぐ。
イリュナだけが、静かに目を閉じていた。
その瞳には、かすかな希望の光があった。
――ユウマ。
あなたの言葉は、神々にとっての“鏡”なのよ。
だから彼らは、それを壊そうとしている。
オルデスが一歩前へ出る。
彼の周囲に、七つの光輪が回転し始めた。
――創造者ユウマ。
汝をこの場に呼び出したのは、滅ぼすためではない。
“調律”するためだ。
世界の均衡を保つため、過剰な存在を正す。
「調律――つまり、“削除”だろ?」
――言葉遊びに過ぎん。
世界を保つために、一つの異音を消す。それだけだ。
ユウマは無言のまま、空に手をかざした。
光が散り、周囲に幻のような景色が映し出される。
それは――かつて神々が創った世界。
草原、海、都市、そして人々。
その美しい景色が、ゆっくりと“崩れていく”。
「お前たちの“秩序”のもとで、どれだけの命が消えた?」
――それは必要な犠牲だ。
「違う!
必要なのは、犠牲じゃない。“再生”だ!」
ユウマの声が轟くと同時に、黒と青の光が交錯した。
虚無と創造――相反する力がひとつに溶け合い、巨大な光柱を生み出す。
オルデスが眉をひそめる。
――この力……虚無神の残滓を完全に取り込んだか。
ゼルヴァが叫ぶ。
――今ここで滅ぼさねば、世界は終わる!
「なら、やってみろ。
俺はもう――“神を恐れない”。」
ユウマの足元の光輪が破裂し、彼の背に黒い翼のような光が広がった。
神々の威光にも劣らぬ“創造の神格”。
天上の空が裂け、白い雷鳴が響き渡る。
オルデスが静かに手を掲げた。
――ならば、“調律”を始めよう。
七柱の神々が一斉に詠唱を始める。
その声は祈りであり、断罪であり、宇宙の法のように冷酷だった。
ユウマは拳を握りしめた。
「……なら、俺も――“創造”で応える。」
空間が震え、神界の光輪がひび割れる。
創造の力と調律の力が衝突し、世界が悲鳴を上げた。
雷鳴、閃光、神々の声――
そのすべての中心で、ユウマの瞳だけが静かに光っていた。
(壊すためじゃない。
この世界を――もう一度、生まれさせるために。)
白と黒、創造と虚無がひとつに溶ける。
その光景は、まるで“新たな宇宙の胎動”のようだった。
――創造者ユウマ。
貴様の存在こそ、“神の定義”を壊すもの。
「だったら壊してやるさ。
神の定義なんて――俺の創る“世界”には要らない!」
光が爆ぜ、神界が裂けた。
その瞬間、イリュナが叫ぶ。
――やめて、オルデス! その調律は……世界を――!
だが声は届かない。
神々の詠唱が最終段階へと進み、
“調律の祭壇”全体がまばゆい白光に包まれる。
ユウマは叫んだ。
「――創造、始動!」
両手から放たれた光が、神々の中心を貫いた。
白光と黒光がぶつかり合い、
天地が逆転するような轟音とともに――世界が弾けた。
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終章前兆
光が収まったとき、
ユウマの姿は跪くように崩れ落ちていた。
オルデスたち神々もまた、静かに沈黙している。
だが、その目には――恐れが宿っていた。
――彼は……“新たな創造神”に至ったのか……?
ユウマの掌に、淡い青い光球が浮かぶ。
それはまだ不完全な世界の核。
彼は微かに笑った。
「これが……俺の“創造”の証。
神が滅びても、世界は終わらない。」
そして、倒れ込むように光の中へ消えた。




