第10話 贖いの剣 ― 自分を赦すために
光の戦場が広がっていた。
空も大地も、全てが輝きと影の狭間にある。
神の領域――ここが、「審判の決闘」が行われる空間だ。
その中央に、審判神オルデスが立っていた。
金色の鎧が光を反射し、背後の天秤がゆっくりと揺れる。
その威容はまさしく“絶対”。
「創造者ユウマ。汝が赦しを得たというなら、その意思を力で示せ。」
「上等だ……」
俺は息を吐き、右手に創造の光を集めた。
幾重にも重なる魔法陣が展開し、空間が震える。
「――《創造展開:ソウル・フォージ》!」
白い光が俺の体を包み込む。
創造魔法を“構築”から“具現”へと昇華させる新たな段階。
罪を背負ったことで、初めてその回路が開いたのを感じる。
「おお……人の身でそこまでの“魂圧”を……」
オルデスの眉がわずかに動いた。
だが、次の瞬間。
神は迷いもなく剣を振るった。
「試練の第二段階――“審判の刃”を開始する!」
金色の斬撃が空間を裂く。
一閃。
空気が焼け、光が暴れる。
「っ……!!」
避けたと思った瞬間、頬をかすめるだけで肌が焼けた。
これが神の一撃――次元そのものを切り裂く力。
「汝の創造は、赦しを得たとしても不完全。
人の理では、神を超えられぬ。」
「神を超えるためにやってるんじゃねぇ!」
俺は叫んだ。
光が腕に集まり、剣の形を取る。
「――俺は、“人の力”で届いてみせる!!」
突き出した瞬間、オルデスの剣が交差した。
金と白がぶつかり、世界が爆ぜる。
轟音と共に、衝撃が地を割る。
「ならば見せよ! その“人の創造”を!!」
神の剣が落ちる。
まるで空間そのものを押し潰すような圧。
受け止めながら、俺は限界を超えて思考を回す。
――創造とは、無から生を作ること。
――けれど今の俺は、ただの形を作るだけだ。
ダメだ。
このままでは神の力には届かない。
その瞬間――
頭の中で、声が響いた。
『ユウマ……! 聞こえる?』
「……エリシア!?」
『私たち、あなたの“創造”の中にいるの。
試練の世界は、あなたの心の投影――だから、あなたが信じれば、私たちも戦える!』
「なるほどな……そういうことか!」
俺は笑った。
そして叫んだ。
「――創造は、俺ひとりの力じゃない!!」
両手を広げる。
光の陣が拡がり、リオン、エリシア、そして亡きセリアの幻影までもが現れる。
彼らの姿は、俺の“心”が形にしたもの。
「共に戦う――それが、俺の創造だ!」
「……人が他者を力に変えるだと?」
オルデスの瞳が、ほんの一瞬揺らぐ。
「行くぞ……《創造融合・コード:ユニオンブレード》!!!」
リオンの力が剣に宿る。
炎が奔流となって刃を包む。
「《フレイム・リバース》!!!」
一閃。
オルデスの防壁を切り裂いた。
「ぬぅ……!」
神の鎧に傷が走る。
空気が震え、天秤が乱れた。
「まだだ――エリシア!」
『了解! 《聖光強化・ルーメンシェル》!!』
白い翼のような光が俺を包み、傷を癒やす。
その力が、魂の奥から満ちていく。
「これが……仲間の力……!」
「……ふむ。
汝は創造の本質、“他者との共創”を掴みかけたようだ。」
オルデスが剣を構え直す。
背後の天秤が完全に水平になる。
「ならば、最後の審判を与えよう。
我が全霊――《ジャッジメント・エンド》!」
空間が砕ける。
神の剣が天から降り注ぐ。
何百、何千という斬撃が光の雨となり、俺を飲み込もうとした。
だが、俺は下がらない。
仲間たちの声が背中を押す。
『ユウマ、信じてる!』
『俺たちはお前の創造だ、負けるな!』
「――応えろ、“創造”!!」
胸の奥が灼ける。
全ての記憶、全ての想い、全ての“願い”を光に変える。
「《創造神式・贖いの剣》――発動!!!」
黄金の閃光が空を裂いた。
神の斬撃を一つ、また一つと飲み込んでいく。
光が爆発し、天が割れた。
「ば、馬鹿な……!」
オルデスの剣が粉砕される。
白銀の鎧が砕け、光の粒となって散った。
俺は息を荒げながら剣を構え直す。
「……終わりだ、オルデス。
俺はもう、逃げない。罪も、痛みも、全部抱えて生きる。
それが“俺たちの創造”だ。」
オルデスは沈黙したまま、ゆっくりと天秤を掲げた。
左右が、完璧に釣り合っていた。
「――見事だ。
汝の魂、創造と破壊の均衡に至れり。」
空が晴れる。
光が、穏やかに降り注ぐ。
「我が名はオルデス。
汝に“審判の印”を授けよう。
その証、第二の試練への鍵となる。」
オルデスの手から、光の欠片が俺の胸に吸い込まれた。
熱い。
でも、不思議と痛くない。
「汝の創造、もはや人を超えた。
だが忘れるな。赦しとは、永久の戦いである。」
「……わかってるよ」
オルデスがゆっくりと頷き、光の中に消えた。
静寂。
世界が、再び現実の雪原に戻る。
リオンが肩を叩いた。
「おい……マジで神を倒したのか、お前」
「いや、“倒した”んじゃない。“認めさせた”んだ」
エリシアが微笑む。
「そうね。あなたはもう、“赦された者”じゃなく、“赦す者”だわ」
俺は空を見上げた。
七本の光柱のうち、一つが静かに消えていく。
――第一の試練、完了。




