Chapter 3:危険を排除してください。
私はいつも通り早起きし、身支度を整えて、馴染みのある濃紺の制服を着て学院へ向かった。すべては普通の日常のように思えた――少なくとも学院へ足を踏み入れるまでは。
今日は妙な空気が漂っていた。ほとんどの人が、まるで私を避けるかのように距離を置いていたのだ。私は何も悪いことをしていないのに。皆は冷たく、話しかけても二言三言で切り上げ、すぐに立ち去ってしまう。背後からは陰口を叩く声がかすかに聞こえた。
私は一日中、自分に問いかけ続けた――「私は何をしたんだろう?」
けれど、答えは見つからなかった。
日が経つにつれ、その疎外感はますます強まっていった。彼らの目はあからさまに差別的で、私を異物のように扱った。
……いったい、なぜ?
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私は冬の夜の静けさの中を歩いた。雪が地面を真っ白に覆い、冷えた空気が肺に刺さる。頭の中には、周囲の人々の不可解な変化ばかりが渦巻いていた。
――「それとも……フィデルの家に寄ってみようか?」
そう思ったが、すぐに首を振った。
――「ダメよ。しょっちゅう押しかけては迷惑だもの。」
歩き続けると、偶然にもトリッシュとエドモンが何やら話し込んでいるのを見かけた。二人はステップ・ヴェルト地方の言葉――私には理解できない言語――で会話していた。まるで何か企んでいるように。
トリッシュは私を見て、嘲るような、勝ち誇ったような目を向けてきた。私は気にせず顔を背けたが、それでも「プランタン」に関する言葉を聞き取ってしまった。
その夜、家に帰るとエトワールが扉を開けてくれた。両親は西のライデノール市に出張中で、家には私たち姉妹しかいなかった。学院で皆が冷たくなる中、エトワールとフィデルだけは以前と変わらぬ態度で接してくれていた。
私はなおもトリッシュのことを考えていた。あいつは以前から怪しい行動が多かった。今日はまたエドモンと共に奇妙な言語で話し込み、さらには「プランタン」の名まで……。何か重大な陰謀を企んでいるに違いない。
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私はフィデルの教室を訪れ、彼を廊下に呼び出した。
「ねえ……」
私は少し言い淀んでから続けた。
「最近、トリッシュの様子に気づいた?」
彼は首を傾げて答えた。
「え? いや。何かあったのか?」
私は苛立ちながら言った。
「あいつ……どうも怪しすぎるの。」
私は疑念をすべて彼に打ち明けた。だが返ってきた言葉はあっさりしていた。
「考えすぎじゃないか?」
その答えに私は心底がっかりし、怒りを抑えて頭を下げ、教室へ戻った。背後からは再びひそひそ声。きっと私のことを噂しているのだ。
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私は静かにエトワールの部屋へ入った。
「ねえ、起きて!」
彼女は眠たそうに目をこすった。
「なに、姉さん?」
「明日……二人でトリッシュを調べない?」
「トリッシュ? また何なの?」
「最近の出来事に、あいつが関わっている気がするのよ。」
エトワールは大きなあくびをして答えた。
「他の人に頼んで……私は寝る。」
「えっ、でも――」
「大それたことができるような人間なら、姉さんの妄想ね。勉強のしすぎよ。」
私は悔しさに言葉を失い、そのまま部屋を出た。背後からは小さなつぶやきが聞こえた。
「姉さん、本当におかしくなっちゃったんじゃ……」
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そして――トリッシュ・ジャベスが動き出した。
突然、空が真っ黒な闇に覆われ、次の瞬間には何事もなかったかのように晴れ渡った。私は驚愕した。空中には黒い外套を纏った人影が浮かんでいた。
私は庭へ飛び出す。冷たい風が頬を打つ。
――「ル・レイヨン・ド・ラ・モール!」
死の光線が一直線に私へ放たれた。私は身を翻してかろうじて回避する。
――「コントロール!」
続けざまの詠唱。今度はクールとオー、隣のクラスの生徒二人だった。彼らの瞳は血のように赤く染まっていた。
「二人とも、何してるの!?」
理解する間もなく、背後から死角を突く影が迫る。私は咄嗟に「エペ・オーロール」を抜いて受け止めた。
そして絶句した。
「エトワール……!?」
妹の瞳もまた、真紅に染まっていたのだ。
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右手側から白い閃光が走る。
――「アリュメ!」
私は一瞬で王都郊外へ転移させられた。そこにはポール先生がいた。
「ポール先生!? いったい何が……」
「街全体が強力な催眠魔法に支配されている……そして、トリッシュ・ジャベス。おそらく奴が黒幕だ。」
私は力強く頷いた。ようやく、私を信じてくれる人が現れたのだ。
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私たちは進み出る。
――「ル・レイヨン・ド・ラ・モール!」
死の光線が連射される。
――「ディメンション!」
私は空間の門を開き、なんとか回避した。
「やはり来たな……」
トリッシュが姿を現し、傲慢に笑う。そしてポール先生へ合図を送った。
「さあ、ポール先生!」
――「ラム・セレ!」
私は瞬時に封印され、動けなくなった。
トリッシュはゆっくりと近づき、笑った。
「お前は今、孤立した空間に閉じ込められている。私は“ラ・リュヌ・イプノティーズ”、ステップ・ヴェルトの古代催眠術を使った。街全体が支配下だ。だが……なぜかお前だけ効かない。なぜだ?」
しばし考え込むと、やがて声を上げて笑った。
「ふふふ……ならばもう一度勝負といこうじゃないか! 一騎打ちを挑む!」
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ルールは明白だった。
1. 体力100(ハート50個に相当)。
2. 一騎打ち、介入すれば敗北。
3. 逃走=即死。
4. 召喚魔法の使用は許可。
私は叫んだ。
「上等よ! 受けて立つ!」
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戦いが始まった。
――「クープ・ディメンショネル!」
彼は避けた。
――「ランス・マレフィック! 現れろ、デス・ショット!」
悪魔が一体、稲妻のように現れた。
――「デリート・ビーム!」
私は左腕を失い、背後の「ラ・モンターニュ・エ・プロスペール」――高さ一二〇〇〇kmの山脈までもが消滅した。
私は反撃する。
――「ショットガン!!」
複数の「ル・レイヨン・ド・ラ・モール」が束になってデス・ショットを吹き飛ばし、トリッシュを凍りつかせた。
「な、なんだと……!?」
私は微笑む。
「怖いの?」
彼は叫び、姿を変えた。蛇のような赤い瞳、赤白の鱗、五対の蝙蝠の翼、鋭い角。その威圧に体が動かなくなる。
彼はエネルギーを溜め、咆哮した。
「死ねぇぇぇ!!」
だがその瞬間――「フレーシュ・メテオール!」
蒼い矢が背後から飛来し、彼の心臓を貫いた。
現れたのはエトワール――私の妹だった。
「早く! 私がディメンションを使うわ!」
「うん!」
私は残りの魔力をすべて込めて叫んだ。
「私を侮るな!!」
破壊の一撃が彼の肉体を引き裂き、創り出した空間ごと消し去った。
――トリッシュ・ジャベスは、ついに滅んだ。
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第3章•終