北の大地
いつもの女っ気のない面子の俺達は帝国領の港町オートヴェルジに着いた。
王国では初秋というべき気候だったが、帝国領でも北の方に位置する夕刻のこの街ではすでに雪が積もっているし雪が舞っている。滅茶苦茶寒い。
随分と年季の入った船から降りた俺達は女神教団の案内人に先導されて、街の外れにある修道院の宿泊施設へと辿り着いた。宿泊施設内では暖炉に薪がくべられており外と違って天国の様だった。
俺と暁様、そのおまけのアキラで一部屋、アレックスとフリッツで一部屋用意されており、各々荷物を宛がわれた部屋に置いて、着ていた毛皮のコートを脱いでようやく人心地が着いた。
「道中、寒い中よくぞお越しくださいました。」
修道院の礼拝室でシスターがお茶とお菓子を出してくれた、お茶はジャスミンティー風、お菓子はライ麦のクッキーだ。吹雪の中、移動してきた身には温かいお茶はありがたい。未だ熱いお茶を冷ましながら少しずつ頂く、体の中から生き返る様だ。
アレックスとフリッツも俺と同様だが、暁様とアキラは平然としている、寒さには耐性があるのだろう。最近は暁様用にアキラにワインを携帯させているので酒場でない場合など重宝する、ワインの補充もアキラが管理している。
「本日はこちらで宿泊していただいて明日、馬車にて北の村に向かいます。」
シスターが明日以降の説明をしてくれた、北のマレンキィ村で一泊してさらに北にある「水の大結晶」のある「永久の氷原」を目指すという日程らしい。
その「永久の氷原」で「大結晶」の魔力を数時間チャージした後に逆のルートで王国に帰還すると言う強行軍だ、この雪がなければ大した距離や日程ではないのだが。
「皆さん、『涙滴型クリスタル』はご用意できてますか?」
シスターから問われてフリッツが持っていたバッグから二つのクリスタルを取り出してテーブルの上に静かに置いた。すでに「風」と「炎」はチャージ済みだ。
「あら?3名様で3個だと聞いておりましたが、2個ですか?」
シスターがフリッツに問うと彼がそれに答えた。
「ええ、共和国の山で邪神の使徒に襲われた際に山中に落下して紛失したんです。」
「まぁ、そうでしたか。完全な物が1~2個あれば良いので2個でも構いませんよ。」
やはり邪神の復活を前に使徒が活発に動いているのでしょうね、とシスターも未来を不安視しながらも悲観はしていない様子だった、最終的には女神さまへの信仰で邪神は封印されると信じて疑わないのだろう。
ちなみにこの魔力のチャージに帝国領へ訪れた者は今までに数人いたらしい。
「風」も「炎」もそこへ向かうのに障害があり俺達が一番乗りだったが、帝国に関しては障害が少ない所為もあって、訪れた者は全員無事チャージを済ませたそうだ。
王国と帝国とは領土を巡る確執があって一触即発になっているという話があったが、邪神の復活を前にそのような事も言っていられないと、教団が説得に乗り出して間に入る事で冒険者の邪魔はさせない様になったらしい。
それ故の今回の旅程は全て教団がお膳立てをしており、共和国からの船のチャーターや宿泊に至るまで全てシスターや修道士が付き添いトラブルの無いように計らう事で実現にこじつけたと言う訳だ。
そう言う理由なので、帝国兵は勿論、一般市民に至るまで不用意な接触は控えるようにと言われている。それが少し窮屈ではあるが、事情が事情だ仕方ないだろう。
普段なら街へ着く度、情報収集に乗り出すフリッツだが今回ばかりは雪が降っているという事もあって大人しく自室に居る。
アレックスも同様だ、彼の場合は武器等を見て回る外出なのだが、今回の街は寂れた場所なので目新しい武器もないだろうし、何より『ファルコ-ラスティコ』をすでに所持しているのだから。
俺もこの吹雪の中で歩こうとは思わないし、明日の朝まで引き籠るつもりだが、暁様とアキラはそうもいかない様だ。今回も魔石の収集に出かけるお積りらしい。
「あ、アキラ様!外は吹雪いておりますし、住人との接触もお控えください!」
「あ、大丈夫ですよ、奴は人間嫌いですから好んで他人に近づきません。」
「まぁそうなのですか。あ、でもそんな薄着で、せめてコートを着て下さい!」
「ほっといて大丈夫ですよ、あいつ暑がりの変態なんで気にしないでください。」
「まぁ、そうなんですね。変態とはお気の毒に・・・。」
俺とシスターのやり取りにフリッツが無言で肩を震わせ笑っていた、まぁ娯楽の無い環境だこの程度でも余程面白かったのだろう。
少しして夕食の時間となり、俺達全員と修道院の全員が食堂に集まった。
夕食は黒パンと野菜と魚を中心とした具沢山のスープ、ワインが出された。
それにしてもこの修道院にもシスターが何人か居るが、皆凄い美人ばかり揃っている。修道院という特殊な環境が美女を作るのか、それともそういう美女ばかりしかシスターになれないのか?まぁ面接してるわけじゃなし別の要因もあるのだろう。
この特殊な制服でそう見えているのかも知れないしな。
夕食後は特に何もすることが無い為暇を持て余していたが、フリッツが書庫から本を何冊か借りて読んでいたので俺も一冊読んでみた。だが、これがいけなかった。
文字を追っていると瞬く間に深い眠りに落ちていたのである。
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お陰で翌朝はすっかり疲れが取れてすがすがしい目覚めだった。
やっぱり眠れないときは難しい本を読むに限るな、朝になると暁様とアキラも部屋に戻っていた。
暁様の夕飯はワインで良いとしてアキラは何を食べたんだろうかと考えたら、こいつ銀狼になればその辺りの野生動物採って喰えば良いんだと思いついた。便利だな。
朝も食堂に集められ全員一緒の朝食が始まる。黒パンとポタージュスープに魚のソテーがメニューだ、昨日から魚料理ばかりだな、と思ったが港町なので魚が簡単に手に入るし、反対に肉はそうそう口に出来ないという事らしい。
そして出発の準備を終えた所で馬車が修道院に入って来たと思うと、馬車から5人の冒険者が降りて来た。どうやら彼らがこれから先の俺達の護衛を務める様だ。
俺達に護衛なんか必要ないんだがな、とは思ったが口には出さなかった。
シスターと少し話した後に冒険者達は俺達に挨拶をしてきた。
「やぁ、俺達はアンタらの護衛を務める『天狼星』だ、よろしくな。」
リーダーと思しき戦士の男がアレックスに握手を求めて来た。
流石にこの中で誰が一番強いのか経験から解るのだろう。その後ろに控えるローブを着た魔導士の女性、彼女を見た時、なんかどこかで会った気がするような・・・・。何処だっけ。
「あ、君達、『ツヴェルグ同盟国』のツェントラーレの街に居たよね?」
「ん?ああ、確かに少し前に居た事があるが、どこかで出会ってたかな?」
フリッツにそう問われ、リーダーの戦士は記憶を辿り思い出そうとしていたが、彼に思い当たる節は無い様子だった。
ん?ツェントラーレ?戦士の男?・・・後ろの女性の怒鳴り声・・・。あ!
「ギャンブルのカタで武器を手放して、女将さんから武器を貰った人!?」
俺がそう言った途端に、戦士の男は驚いてバツの悪そうな表情になり、後ろの仲間たちは大笑いしだした。そうだ、あの時のチームの奴らだったんだ。
「・・・こりゃとんでもない所を見られちまったもんだな・・・。」
「世間って狭いね、まさかあの時に隣の席だったなんて。」
女魔導士は『悪い事は出来ないね、ロベルト。』と笑ってロベルトの背を叩く。
このやりとりのお陰で『天狼星』とすぐに打ち解ける事が出来た。




