エピローグ 「命を育む笛」
飛行艇が「ツヴェルグ同盟国」を離れて間もなく、マサキが限界を迎えた。
他の仲間は宴の最後でテーブルで寝ていたからまだいい、マサキは会計の事もあって最後まで眠るわけにいかないと、一晩中起きていたのだから。
「・・・やばい、限界だ。着いたら起こして・・・。」
そう言い残し、そのまま甲板に崩れ落ちるように睡魔に襲われ倒れこんだ。
「マサキ!大丈夫!?」
一気に気を失ったマサキを傍らのスーが心配してのぞき込むが、特に異常はなく既に鼾を掻いて寝ているだけだった。
「あーあ、マサキ遂に限界かぁ。」
フリッツが近づいて少しでも楽になる様、疲れが残らない様にと、マサキのシャツのボタンを外したり、靴紐を緩めたりと世話を焼く。
「あ、スーちゃん、頭を高くしないとよく眠れないから膝枕してあげて?」
フリッツはそう言うとスーを傍らに座らせ、その大腿部にマサキの頭を乗せるように移動させる。『よし、このまま寝かせてあげてね?』とフリッツは離れて行った。
スーはフリッツが気を利かせてくれたのだとすぐに理解できた。フリッツは細かい所に良く気が付く面倒見の良い「格好いいお兄さん」だ。彼に妹扱いされるのはどちらかと言えば心地よい、それに対しマサキから妹扱いされると何かムカつく。
こちらを笑いながら見ているアレックスはその卓越した戦闘技量も、ストイックな性格も尊敬できる「兄貴」であり「戦友」だと言える。マサキは自ら戦闘のセンスは無いと公言し、実際剣すら持たない。最近鞭を使い始めたばかりの普通の人だ。
でも困っている人の為には体を張る、直ぐに張る。連れている白い犬が桁外れに強い所為であまり危険を感じないのかも知れないが、最近街中では別行動をとる事が多い。街中で一人にして大丈夫なのだろうか心配になる「とても大切な人」なのだ。
その時、マサキの頭が膝の上で動いた、落ちない様にそっと肩を支えた。
「・・・すー、お前本当にドジだなぁ・・・全く・・・?」
寝言のようだ。
『その「すー」ってどっち!?妹の方!?それとも私!?』
私はドジじゃない、多分妹の方なんだろう。私は夢の中にも居ないのか?それともマサキには私がそういう風に見えてるのか?スーの内心は複雑だった。
当のマサキは、スーの膝の上で呑気に眠り続けていた。
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マサキが眠りについた頃『ツヴェルグ同盟国』で目覚めた者があった。
「あああああああ!マサキ様の見送りに行けなかった!何故起こさなんだ!?」
王宮私室内では寝過ごした王女が近衛騎士団員に当たり散らしていた。
「それはその、我々もお目覚めになる様、懸命に努力はいたしましたが・・・。」
そう言い籠る騎士の顔は腫れ、室内に物が散乱していることに王女は気づいた。
「・・・もしや、いつもの様にわっしが暴れて起こせなんだか?」
黙って頷く騎士団員、そうだった。普段から朝起きるのが辛くてゆっくり時間をかけて起きるのだ。無理に起こされようとするとついつい暴れてしまうらしかった。
今回はマサキ様の傍らで飲む酒が美味過ぎて、飲み過ぎて、しこたま酔った。
そんなわっしを騎士団員が短時間で起こせるはずも無かろう。
「・・・そうか・・・済まなかったな。」
「いえ、ご期待に沿えず申し訳ございませんでした。」
近衛騎士団員はそう言い、御前を下がって行った。
私室に一人取り残され落ち込んだ王女は、ふと首に掛かっている物に気付く。
『あ・・・これは!?』
それはマサキから手渡された「命の笛」、すなわち二人の永遠の愛の証。
想い人が愛用していた物を手ずから渡して頂けたものなのだ、当に二人の絆である。
王女は私室に一人、その笛をそっと吹いてみた。
『ピーーーーー』と笛が鳴る。
その災害現場で耳に残る程聞いた笛の音は、救いを求める者を一人残らず助けようと奮戦するマサキの姿を思い起こさせる、あの時の音そのままだった。
「・・・・マサキ様。」
朝食の準備が出来たと知らせが来るまで、王女は一人私室で笛を愛で続けていた。
────後日、『ツヴェルグ同盟国』では『命の笛』を携帯する事が必須とされ、愛し合う二人が夫婦になる時にお互いの笛を交換する仕来りが生まれる事になる。
そしてその仕来りはマサキの活躍が知れ渡るにつれ、世界中へと拡散されて行った。
以降、その笛は「命を育む笛」と呼ばれるようになったと言う。
「鉱山都市と管狐の三姉妹」編 END




