「加護」
翌日、早いうちにメイから何処かで振り落とされていたアキラが帰還した。
己の足で歩いて街へ帰りついたアキラの足の運びにはほとんど違和感はなく、以前同様の俊敏さを取り戻した様だった。アキラは帰って来るなり暁様に挨拶し
「只今戻りました、足も元通りとなり以前と変わらず御身にお仕え出来ます。」
アキラはメイに振り落とされたとは思っておらず、主の足手纏いになる位ならばと、自ら飛び降りたと思っているらしかった、目出たい奴だ。
その後は「竜の加護」持ちのスーとアレックスにも帰還の挨拶をしに来て、二人から足の心配をされていたが、それにも丁寧に応対していた。
しかし俺に対してはチラリと視線を合わせただけで挨拶どころか言葉もかけないまるっきりの無視だった。あからさまに対応が違ってなんか腹が立つ。
スーとアレックスは「竜の加護」を受けてるが、俺だって「暁様の加護」があるんだ、もしかしてコイツの中では『ドラゴン>暁様』の構図なのか?
それは暁様に対し失礼だろうが。
「おい、アキラ。何で俺は扱いが雑なんだ?俺だって『暁様の加護』持ちだぞ?」
他に聞こえない様アキラに向かってそう言うと、アキラは不思議そうに俺を見て
「お前は何を言っているんだ?お前の加護は『暁様』の物ではなかろう?」
と、『お前は馬鹿か?』と言わんばかりに哀れみの視線を向けて来た。
『え?俺の加護って暁様のじゃないんですか?』
アキラの口から出た意外な事実を一応暁様へ確認した。
『うむ、お前には我と出会う前から何かしらの加護が憑いておったぞ?』
暁様からも、今更何を言っているのかという風な感じで言われた。
え?暁様と出会う前から「どこかの神様」の加護を受けていたって事なのか?
一体何処の神様なんだろう?この世界に来てから暁様に出会う前のどこかで加護を受けていたのか?一体どちら様?
暁様に聞いても心当たりがないようだが、ただ言えるのが俺の持つ『飛翔』と『鞭』を扱う技量はその『加護』に関係があるのかも知れない、そうだ。
そう言われたときにドラゴンの山で「翼竜人」に襲われた時のことを思い出した。
本来高所恐怖症であるはずの俺が、何故かあの時だけ空を自在に飛べる事に全く恐怖を感じないばかりか空が懐かしいとさえ感じた事。更には剣を持って戦った経験も皆無だったのに、あの時は『翼竜人』と戦うのにも一切の躊躇が無かった事も。
この辺りに俺の受けた『加護』の神様のヒントがあるのだろう、しかし俺はこの世界の神様の事など一切解らない。その神様の事が解れば俺の適性とか特性が理解出来て俺はもっと強くなれるのかも知れない。
俺はこの神様の手掛かりを調べてみたいという衝動に駆られた。
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「さて、ちょっと僕は調べ物があるから冒険者ギルドに出かけてくるよ。」
フリッツがそう言って席を立った。
「あれ?俺達の行動がバレない様ギルドとか利用しないんじゃなかったっけ?」
「いや、もう奴らにバレてるからね。なら、情報を得る事の方が重要だよ。」
そう言われたらそうか、バレてるんならこそこそする意味は無い。
俺も後で魔石の換金をして、その代金をギルドに預けに行くとするか。
ギルドを使えないと結構不便なんだよな。
最近暁様と別行動が多いが、暁様が言うにはアキラを連れて魔石収集の目的もあるが、俺がビーストマスター、あ今はビーストロードだったか、とバレない様にする意味もあったそうだ。確かに、白い狐を連れた冒険者ってそう居ないだろうし。
ん?もしかして船の上でマストの天辺に好んで上がってるのも、そんな意味があったのかも?・・・いや、それは無いな、暁様は高い所がお好きだから。
「じゃあ、スー姉さん、あたしも行ってくるね。」
「気を付けてね、ってフリッツが一緒なら大丈夫ね。」
ミアとスーのやりとりの会話が耳に入った、ミアとフリッツが同行とは珍しいな。
「ミア、フリッツと一緒にお出かけか?」
「うん、フリッツさんから着いてきて欲しいって頼まれたの。暇だし。」
じゃあデートに行ってきます、とミアはフリッツと一緒に出て行った。
「マサキ、今空いてるか?」
「なんだ?アレックスから誘うって珍しいな。」
アレックスから暇なら一緒に来てくれと言われ、付いて行くことにした。
ひょっとしてデートかな?あ、スーも来るかな?
「あっと、スーも一緒に来るか?」
「マサキがどうしてもって言うなら一緒に行ってあげる。」
なんか面倒な言い方をしてるが、まだ鼻を摘まんだのを怒ってるのかも知れない。
ここは低姿勢でいかないと駄目な場面だな。俺だって少しは学習してるんだ。
「じゃ、是非一緒にお願い。」
「仕方ないから一緒に行ってあげる。」
スーはそう言って立ち上がり、腰に刀を佩いた。
そして俺とアレックス、スーは酒場を後にした。
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俺達は教会の前に立っていた、高い塔の天辺を皆で見上げている。
「あー、本当だ。あれ、あのままだったんだな。」
「放置しとくのも不味いし、奴らが取りに来たらもっと不味いしな。」
「それでマサキの出番ってわけね。」
塔の天辺には例の『アサシン』が突き刺したままの地揺れを起こす杖が立っていた。
塔の上部には鐘があってそこまでは普通に上がれるが、その上の三角屋根は傾斜も急で人が上がれるように作られていないので、杖はそこに寂しそうに残されていた。
早速腰から鞭を外して左手に握る、三角屋根の淵に意識を向けて手を振ると鞭は一気に伸びて、思い通りの淵にくっ付く。そのまま巻き戻しと同時に『飛翔』する。
『すうっ』という感じで屋根の上まで到達し、杖の前に立った。
杖を掴んで引き抜こうとするが、結構深く刺さっているのか全く抜けない。
何度か試すが全然抜けない、ふと思いついて俺は鞭を杖に巻き付け、そして引く。
今度はあっさり抜けた、やっぱりあれは錯覚でも思い違いでもなかったか。
昨日のグリフォン騒動の時、グリフォンの頭に鞭が巻き付いた際にこちらに引き寄せるような動きをしていたのだが、俺自身にはグリフォンの方へ引っ張られるような感覚は伝わらなかった。あの巨体が暴れようとしてたのに、である。
この杖もかなりの力を込めて引き抜こうとしたのに抜けず、鞭を介するとあっさりと抜けた。どうやらこの鞭自身が力の調整をしているようなのだ。
思っていたより軽い杖を持ってアレックスとスーの待つ大地へと跳び下りた。
「どうするんだ?この杖?」
「フリッツと相談したんだが、錬金術ギルドに持って行って分解する。」
分解するのか、まぁそれが妥当だろうな。このまま置いといて奴らに奪われて再び悪用されたんじゃ目も当てられない。この宝珠も俺が両手剣で衝撃を加えたら簡単に爆発したし素人が障るのも不味いだろう。
俺も錬金術ギルドに魔石を換金しに行こうとしてたから早速向かう事にする。
3人で錬金術ギルドの扉を潜り、ロビーに入った。正面にカウンターがある。
カウンターに問題の杖を置き、職員に事情を話してこの杖の分解を依頼した。
職員はしばらく杖を光に翳したり、角度を変えて見たりしていたが
「少々お待ちください。」と言って少し慌てて奥に引っ込んだ。
すぐに技術者風な職員が2人やってきて、同じように杖を確認する。
「・・・これは・・・一体?」
「見た事の無い素材ですね。詳しく調べてみないと・・・。」
目の前で杖本体から今は輝きを失った赤黒い宝珠が外された。
宝珠はトレーに乗せられ、別の職員が奥へと持って行った。
「あの宝珠は通常の魔石と成分が違うようなので、少し調べさせてください。」
手荒に扱って爆発でもすると大事なので、詳しく調べて危険が無い様ならお返ししますが、問題がある様なら買い取って適切に処理します、との事だった。
「問題はこちらの杖の方です、一見軽さも相まって木製に見えますが、金属です。」
金属?引っこ抜いたときも存外軽くて頼りないな、と思ったがまさか金属だとは。
アルミとかよりも遥かに軽い様だ。
どうやらこの世界の物では無い材質らしい。
「?」
宝珠を持って入った扉の奥が急に騒がしくなった、かと思うと職員が走り出てきて
「ちょっと失礼!」
と叫ぶなり、杖本体を奪う様にして再び奥の部屋へ戻って行った。
やがて騒ぎは収まって、ドアが開いた。
「・・・お騒がせしました、急に宝珠が点滅し始めましたもので・・・。」
職員は宝珠を杖から外したのが原因で異変が起きたと判断し再び杖に装着する事で
事なきを得たという。点滅が何を意味するのかは解らないが危険は去ったようだ。
仮定ではあるが、あの杖の材質は宝珠の魔力を制御、制限する性質があるのでは?と考えられるという。先ずは杖を短くする、または杖の先を切断して地面に刺さらない様にして地震を起こせない様に出来るか等を調べるそうだ。
どちらにしても結果が出るのは当分先になる、俺達がこの街を去った後の事だ。
其の件は錬金術ギルドに任せる事にして、俺はもう一つの用件を済ます事にする。
暁様が収拾した大量の魔石をカウンターに出して買取を依頼したのだが、魔石を見た職員の顔は明らかに引きつっていた。俺もこんな大量の魔石を扱うのは初めてだ。この職員の気持ちはよく理解できる。
大量の魔石は金貨4000枚分を超えてしまい、即日の支払いが出来ないという事で後日改めて代金を受け取りに来ることになった。




