命の水
『マサキ、さっきからずっと走ってばかり、無理しすぎ!』
スーは救助活動で働きずくめのマサキの姿を追っていた。人々の命が掛かっているのだ、止まる事が出来ないのは理解できる。が、このままだとマサキが倒れてしまう。
私はただ見ているしかできないのか?そう考えていたスーは思い出す。
『そうだ!マサキが作ってくれたあの飲み物!あれを作れば!』
共和国のプラム熱騒動で一晩中走り回った時、マサキが疲れ切ったみんなの為に
『疲れてるときにはこれが一番だ。』と言って作ってくれた飲み物、あれをマサキに限らず救助活動をしている全員の為に作ろう!
「ミア!ちょっといい?」
「なんです?姉さん?」
スーは事情を説明し、あのマサキ特製ドリンクのレシピを覚えているか問う。
「当然覚えていますよ!兄さんの指示であたしが作ったんだから!」
「じゃあ、女将さん達に協力して貰って大量に作ろう!」
スーとミアは救助活動でごった返す大通りを酒場の女将さんの元へと走った。
────────────────────
「走りっぱなしで喉が渇いたのう、酒でも飲みたい気分じゃ。」
「あほか!こんな状態で飲んだらぶっ倒れちまう。水で我慢せい!」
マサキと共に救助活動に駆け回るドワーフから、喉の渇きを訴える声が聞こえる。
生ぬるい水は用意されてるが、渇きを潤すだけで決して旨くないし不味いまである。
『ああ、そういや「ヴィルトカッツェ」の皆にスポーツドリンク作ったなぁ。』
マサキはプラム熱騒動を懐かしく思い出した。更に言えば村でハンナさんとカチュアにも作ってあげたっけ、あの頃から思えば随分遠くに来たものだ・・・。
「皆、俺が疲労回復にいい上手い飲み物作るから酒は我慢してくれ。」
マサキが言うと『マサキが作ると何かご利益がありそうじゃの。』『わしも賭け事に強くならんかのう?』『お前はまだ懲りてないのか馬鹿者が!』と続く。
「みんな、全員助けられるかどうかの一世一代の賭けだ!絶対勝つぞ!」
マサキは咄嗟に賭け事に例えてしまって非常識だったか?と後悔したが
「マサキの賭けなら勝利の女神が味方に付いとるわい!」
「おう!絶対負けるわけがねぇ!なんてったって『THE GAMBLER』だ!」
「全員救出間違いないぞ!」
皆で一層盛り上がったその時。
「みんなー!マサキ特製ドリンク作ったから飲んでー!」
遠くからミアの声が聞こえて来た、其の後方をドワーフ達が荷車を引いて来る。
その荷車には樽が積まれており、中には透明な液体がなみなみと入っている。
それを酒場の女性達が杯に注いで皆へ配っていく。
「なんじゃ?マサキ特製ドリンクじゃと?さっき言ってた奴か?」
「丁度喉が渇いて堪らんかったんじゃ、一杯貰うぞ。」
「・・・甘くて塩味の効いた変わった味じゃが、結構美味いぞ!」
「体にしみじみ染み渡るのう、もう一杯くれ!」
救助活動で汗を流していた彼らにとって、それは生き返るような命の水だった。
街の設備が無事だった酒場で大量に作ってると、ミアがマサキに差し出す。
マサキはそれを受け取って一口飲む、自分が教えたより塩味が濃いめだ。
「ミアがレシピ変えたんだな、少し塩味が濃くていい感じだ。」
「皆汗かいてるからね、スー姉さんがコレ作って皆に飲ませようって言ったんだよ。」
そうか、スーが・・・。そう言えばスーの姿が見えないな。
「姉さんは向こうで配ってるよ、小さな子供が居たからほっとけないんだよ。」
そう言う所はスーらしいな、弱い者を見たら守ろうとするのは性格なんだろうな。
・・・ん?まてよ?スーはアレックスより強いなら、世界中の人々はスーが守る対象って事なのか?
さて、スーとミアのお陰で皆も元気を取り戻したようだ、鉱山と街中は要救助者を探して既に3周した、しかしまだ見つかっていない者が居るならまだ走るぞ。
その為の元気は彼女らに貰ったんだ、俺は飲み干した杯をミアに手渡した。
要救助者を散々探して走り回ってこれ以上居ないだろうと思えるくらい走った。
しかし、楽観は出来ないし後悔はしたくない。残っているにしても後数人位だろう。
それまで引いていた荷車は使わずに、杭を数本ずつ持ったドワーフを引き連れて最後の捜索に出る、坑道へと走る。皆、回復したのか足取りは軽い。
坑道を更に1週して救護者を手当てしている広場に戻って来た、後は確認作業を待つのみだ。そして一人のドワーフが走って来るのが見えた、其のドワーフが叫ぶ。
「全員救助したぞ!けが人は居るが全員無事じゃ!奇跡じゃ!」
その報告にその場の全員が感情を爆発させ歓声を上げた、奇跡だと。
「いや!奇跡じゃない!これだけ短時間で救助出来たのはマサキのお陰だ!」
「そうだ!マサキが誰一人欠かさず見つけたからじゃ!」
「またしてもマサキに助けられたな!感謝してもしきれんわい!」
皆がマサキに感謝し、死者が出なかった事に喜びを分かち合う。その中心でもみくちゃにされるマサキを恍惚とした表情で見つめるは、王女エヴァルトラウティ。
────────────────────
神ですら信じる者しか救わぬのに、救いの手を求める者は誰であろうと全てを救ってしまわれるとは・・・。英雄であり聖人でもあれらるとは、なんという御方か。
感謝の気持ちとこの胸の想いをどのように伝えれば良いのやら・・・。
「姉上ー!こちらでしたか!?」
英雄への想いを邪魔する声、それは供を数名引き連れたウァーレンだった。
「なんじゃ、貴様か。」
「王宮も調度品が倒れたりはしましたが、皆無事です。」
まぁそうだろう、揺れの中心からは大分離れているのだ、大した被害はあるまい。
父上も母上も無事で何よりじゃが、今はわっしの決断を伝えねばならん。
「ウァーレン、わっしは継承権を放棄する、お前が王位に就け。良いな?」
「は?王位?・・・え?・・・は?はいぃぃぃぃぃ!?」
姉の突然の宣言にやっと理解が追いついて驚愕のあまり声が裏返る弟王子。
「うむ、なかなか良い返事じゃ、やれば出来るではないか。」
「い、い、今のは承諾の返事ではありません!驚いて変な声が出ただけです!」
突然女王への継承権を捨てる宣言をした姉に考え直すよう説得しようとする弟。
「私では臣も民も納得する事はありません!考え直してください姉上!」
「わっしはマサキ様と添い遂げる決心をしたのだ、邪魔をするな!」
普段ならどんな甘言も疑って掛かる姉だが、一旦信じ込むと盲目になってしまう。
ここはなんとか考えを改めさせなければならないが、なにか良い方法は・・・?
「そうだ!姉上!彼に礼として『開かずの秘宝』に挑戦して貰いましょう!」
「『開かずの秘宝』じゃと?うむ、それはなかなか良い考えじゃ!」
『国の危機を救ってくれた英雄に対する礼としてこれ程相応しい物もあるまい。』
王女は、普段冴えない弟が思いついたこの良案に飛びついた。
『開かずの秘宝』・・・100年前の邪神戦以降から王家に伝わる伝説の秘宝。
それは、仁義礼智に優れた者しか開ける事の出来ないとされる伝説の宝箱。
これを開けた者こそ、次代の王に相応しいとされる宝箱であった。
『これを開ける事が出来れば、彼は王。わっしは自動的にその妻となるのだ。』
王女の頭の中では彼が必ず『開かずの秘宝』を開けるのが既定路線となっていた。
しかし、今の今まで数多くの者がこれに挑戦したものの、開ける事が出来た者は同盟国の歴史上一人として居なかったのだ、ウァーレンはしてやったりと考えた。
『これで彼が宝箱を開けられなければ、姉上も少しは頭が冷えるはず・・・。』




