容疑者 マサキ
落盤事故で塞がっていた「炎の大結晶」への通路が開通したと知らせが来た。
俺達がこのツヴェルグ同盟国に来た本来の目的は、この「炎の大結晶」の魔力を涙滴型クリスタルに注入する為であり、俺がギャンブルで勝って悪徳カジノを破産寸前まで追い詰めたのはあくまで「ついで」だったのである。
その「ついで」がこの国での人身売買組織の摘発に繋がり、スーの持つ刀が王国の「宝剣」だった事が判明し、その「宝剣」を何故か一介の盗賊風情が持っていた事実、捕まった盗賊が何故か押収品の中身を知っており、何故か重罪であるはずの人身売買に関わった奴らが他国で活動していた事実などなど。
何故、何故、何故、不可解な事が起こり過ぎて理解が追いつかない。
今や、「炎の大結晶」の方が些事ですらある。
障害が無くなったのであれば、本来の目的を果たしてしまおう、小難しい事を考えるのは後にしよう。なんなら全部フリッツに任せてしまえば良い。
「炎の大結晶」へ向かうには簡単な手続きが必要だ、所属と氏名、目的等を書類に記入して提出しなければならないそうだ、一応俺達は邪神側に情報が漏れない様極秘で潜入している関係もあり、ここはフリッツとアレックスの二人で行くことになった。
宿屋では偽名を使ったが今回は一応正式な書類である為、偽名は不味い可能性もあり、二人は本名を記入して提出した。フリッツは「フリードリヒ」、アレックスは「アレクサンダー」、二人とも格好良い名前だよな。
今回これでバレる頃にはこの国から出国してるだろうし、残す大結晶は北の帝国の「水の大結晶」しかない、目的地はバレバレなのである、後はいつ向かうかの時間の問題だけだ。
2人がクリスタルに魔力を注入するのに要する時間は、前回の「風の大結晶」の時と同じなら約4時間程度、その間に怪しい人物が「大結晶」の坑道内に入らない様に入り口で見張るのが、俺と暁様、その僕のアキラの、二人と一柱だ。
スーとミア、メイは街で留守番となっている、一応何かあればすぐに解るよう、「桜」をフリッツ達に、「椿」をスー達に張り付けている。
なにが起こっても対処できるように万全の対策を施していたが、身構えているときには何も起こらない事はよくある事で、今回は無事に魔力の注入は終了した。
坑道が通れなくなったことで、ひと月近く足止めを喰らってしまったが、復旧作業が済んでしまえばあっけない程この国に来た本来の目的は終了してしまった。
スー達の待つ酒場に戻った俺達は、世話になった女将さんに事の次第を告げた。
「そうかい、国に戻るんだね。あたしらこそ随分世話になったよ。」
女将さんだけでなく、その場に居合わせた酔客達も別れを惜しんでくれた。
「帰るなら飛行艇を出そう、姉さんたちを迎えに行った時のようにな。」
飛空艇乗りのマカインがそう言ってくれた、非常にありがたい申し出だ。何といっても船を乗り継ぐと数日かかるし、スー達を送るとなると更に日数は増える。
飛行艇の準備が済む明日の昼頃には、この国を立つことになった。
その事を聞いた酒場の関係者やドワーフの鉱夫達、借金を帳消しにして貰い、その後の大宴会に参加した者達が別れを惜しんで見送りに来る事となった。
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王城の王女の私室に、王女の命で調査に出ていたドワーフ達が集まっていた。
王女とウァーレン王子も同席している中で調査結果が報告された。
「あのマサキと言う男、余所者ですが特に仕事もせず酒場に入り浸りの様です。」
仕事もせずに昼間から酒場に入り浸りか、良いご身分だな・・・。
「冒険者のプレートを首に提げておりますが、冒険者ではないようです。」
「ギルドの職員2名と冒険者を5名程、マサキの姿を確認させたところ、ギルドで依頼を受けた形跡どころか、ギルドに立ち寄った形跡も無いようです。」
冒険者ですらない?一体何を生業にしておるのか・・・・?
「普段から周りに多くの美女を連れておるのが目撃されております。」
そう言えば、スーとの立ち合いの時も女がいたな・・・女たらしめが。
「奴の事を『ギャンブラー』と呼んでおる者が数多くおります。」
「カジノでかなり派手に金を掛けて、かなりの額を稼いでいるようです。」
「肌も露わな美女を侍らせて賭けに勤しんでおったとか。」
女に賭け事、派手に遊んでおるのか、ロクな男ではないな。クズとも言える。
「賭けの場に居た者に寄れば、勝ち負けを100発100中で当てるとか。」
「不思議な事にカードに至っては、手札すら見ずに勝負して勝つそうです。」
「ダイスの一発勝負では1-1-1を出したと語り草になっておりました。」
「!?それはイカサマしているという事ではないか!?」
カードを見ずに勝つ?一発勝負で1-1-1を出す?ありえん!イカサマであろう!
「その勝ちで借用書を取り返し、多くの債務者の借金を帳消しにしたそうです。」
借金を帳消し?一見善行の様に思えるが、奴に一体なんの得があると言うのだ?
・・・まてよ?ウァーレンの借金を帳消しにしたと言って近づいて来た?
・・・これはヘルムートと同じ手口ではないか!?
ウァーレンのギャンブルでの借金を少し減らして信用させて近づいたヘルムート。
借金を帳消しにしたと言って恩を着せて来たマサキ、本質は同じであろう!
そうか!ヘルムートはカジノとグルでウァーレンに近づいた、マサキもカジノとグルに違いない!!さもなくばそんなに都合よく勝てるはずもないし、、グルならカジノも実質損はしていない!
何が奴の目的かは分からんが、スーの事もペテンを使って恩を着せて自分に侍らせておるクズ男なのであろう!でなければあのような普通の男にスーの様な美女が付き従う理由も無い!
奴の身柄を抑えなければなるまい、現時点で証拠はないが取り調べれば必ずボロが出るに違いない!至急手配せねば!
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王女が一連の報告を聞き各方面へ指示を出そうとした頃、王女の元へ王国からの使者が到着したと連絡が入った。
『今はマサキの確保の準備をせねばならん、わっしが出るまでもなかろう。』
王女は使者への対応はウァーレンに任せるよう指示を出し、各方面へとマサキ確保の指示を出し始めた。・・・その後。
「姉上!大変です!」
「ドアを開ける際はノックくらいせんか馬鹿者め!」
いきなりノックもせずに飛び込んできたウァーレンは姉に叱責され、小柄な体を更に小さくして姉の怒りを避けようとする。
「す、すみません!が、一大事なのです!」
「なにが一大事じゃ!?さっさと申せ!」
ウァーレンが言うには王国からの使者の用向きが、王国で重大な犯罪行為を犯した可能性のある者がおり、その者が同盟国に潜伏しているとの情報が入り、その身柄確保の協力を要請しに来たとの事らしい。
「それなら要請に応じれば良い、わっしはマサキ確保に忙しいのだ!」
お前が勝手に手配しろ!それくらい出来んでどうするか!と王子を叱責する。
『それがそうもいかんのです!』王子は珍しく姉に口答えした。
「その犯人がどうも『マサキ』の様なのです!」
『!?』王女は驚愕するとともに納得し、確信した。
やはり奴はペテン師のクズ男であったか!悪魔の手からスーを救わねば!




