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八百万の神々と千年王国の竜  作者: 涼城 鈴那
鉱山都市と管狐の三姉妹

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王女の勧誘

王女殿下の要請に何事かと身構えていたが、どうやらスーの技量を試したいらしい。


「非常に大切な用事があります故、手短かにお願いします。」

王女殿下の要請だがスーは少々迷惑そうだ、やはり女の子だな、新しい服を買いに行く方がはるかに重要で楽しみらしい。


「近衛騎士団の中でも最強の呼び声高いシロウシュ相手に試合をして貰いたい。」

王女殿下がそう言うや、シロウシュと呼ばれた屈強なドワーフが一歩前に出る。

肩に巨大な両手斧を軽々と担いだその姿は、纏った鎧と相まって鉄塊の様に見えた。


スーは腰の刀の柄に手をかけ、柄の状態を確認するような仕草を見せる。

「一度だけお相手しましょう。」

スーがそう言うと、おお受けてくれるかと王女殿下は喜色を浮かべ言う。


「では、防具を準備して貰おうか。」

「いえ、このままで結構です。」

スーはブラウスにロングスカートの姿で事も無げに答えた。


「刀身には歯止めはしてあるが当たればタダでは済まんぞ?」

「当たらなければどうという事はありません故。」

スーは一刻も早く服を買いに行きたい様だ、そういや鈴香と服を買いに付き合わされた時は滅茶苦茶待たされたっけ、スーもじっくり選びたい年頃なのだろう。


「では、近くに良い場所は・・・」

「ここで構いませんよ。」

スーの返答に王女殿下は笑みを浮かべる。


「なかなかせっかちな様じゃな。」

「急ぎます故、手加減はしませんので悪しからず。」

手加減の言葉を聞いてシロウシュは困惑する、聞き間違いだよな?と。


近衛騎士団員が手分けして周囲の群衆を周りへ追いやり場所を確保した。

たちまち20m四方の闘技場が出現する、シロウシュは巨大な斧を両手に構える。

スーは自然体で立ったままだ。周りの野次馬は興味津々で成り行きを見守る。


「姉さん、剣を抜かんのか?」

「『イアイ』とか言う剣技であろう、ヘルムートを失神させた技だ。」

『構わん試合開始だ。』王女殿下の一言でシロウシュが斧を振りかぶり前に出る。

スーはそれに合わせ、柄に右手ではなく左手を当てた状態で待つ。


シロウシュの動きは手に取るように解る、矢に比べればはるかに遅い。

「竜の加護」が発動中は思考も動作も加速しており、なんなら振り下ろされる斧に落書きする事すら可能だろう。

直前まで峰で打って気絶させる事で終わるだろうと考えていたが、刀がそれをすれば刀身が痛むからやめてくれと訴えてくるのが解った。

折角理想の主に巡り合えたのに、寿命が縮んでは適わない、らしい。


『そうなの、どうしよう?』

兜の飾りの角でも斬り落とすか?でも、相手が負けを認めなければ試合は続くし。

刀からこうしましょうと提案が出される。


『私そんな事やった事無いんだけど、本当にやるの?』

『そう、あなたの合図でいいのね?』

両手斧が空気を引き裂きながら振り下ろされる、それをわずかに左方向へ前に出ながら躱つつ、右手を軽く引く。

『ここね。』

両手斧が大地に落ちる寸前、ドワーフの体重が前方に移動した直後、スーの右手の掌底が両手斧の持ち主の顔面鼻の下へカウンターで入った。

『・・・あ、入っちゃった。』


決着はその一撃で着いた。

シロウシュは白目を剥いてそのまま大地に崩れ落ち、動かなくなった。


あっけない幕切れに周囲の近衛騎士団とその周りの野次馬たちが騒然とする。

マサキもミアもスーが剣技ではなく、素手の一撃で決着をつけた事に言葉を失う。

メイは狼形態だったならば尻尾を振り回していた位に興奮していた。


「あの姐さん、剣も抜かずに簡単に倒しちまったぞ!?」

「素手の一発で終わらせちまった!?」

「あの斧を前にして何てクソ度胸してんだ!?」

野次馬からは大歓声があがる、口笛を吹きならす者、手を叩いて喜ぶ者と様々だ。


「は、ははは・・・なんとあっけない、強い!強いな!スーよ!」

王女殿下は余りにあっけなく着いた決着に、スーの技量に驚嘆していた。


「同盟国はお前を歓迎する、近衛騎士団長としてお前を迎えよう!」

「いえ、結構です。」

王女殿下の誘いをあっさり無下にするスー。その事実に困惑の表情を浮かべる王女。


「報酬も待遇も可能な限り応えるぞ。爵位でも領地でも呉れてやる!」

「・・・私はこのマサキの剣です、彼の為にしか剣を振りません。」

今度は周囲の近衛騎士団と野次馬たちが驚愕する番だった。


爵位や領地、望み通りの報酬というこれ以上ない好待遇を蹴って、こんな防具すら身に着けていない、何処にでもいる一般人の様な普通の男の為にだけ剣を振るなど、どこにそれだけのメリットがあると言うのか?


「今の私には彼が買って呉れるという服の方が何より大切なのです。」

そのスーの言葉に周りの野次馬はさらに盛り上がる。


「よう!兄さんこんな別嬪さんに慕われるなんて色男すぎるぜ!」

「全く羨ましいね、兄ちゃん!・・・あれ?あんたマサキじゃねえか!?」

「ああ!本当だ!姉さんに気を取られて気付かなかったが、マサキじゃねーか!」

「おぉ!『THE GAMBLER』お前だったのか!お似合いだぜアンタら!」

「えぇーーー!?マサキこんな美人の彼女居たの!?」


周囲がマサキの存在に気付くと、雰囲気は一転祝福モードに切り替わった。

王女殿下と近衛騎士団の面々は周りの変化に困惑するばかりだった。

周囲のやっかみ交じりの揶揄いにもスーは無関心を装おうとするが、内心から滲み出る嬉しそうな表情が見て取れた。


「では私たちはこれにて失礼いたします。」

スーは笑顔でそう言うや、俺を促しミアとメイに目で合図をしその場を後にした。




服を選ぶ時のスーは今まで見た事が無い位上機嫌だった。

店員のアドバイスにしきりに頷いて、いろんなデザインの服を色々と試している。

そんなに喜んで貰えるのだったら、もっと前から服くらい買って上げればよかった。


『こっちも良いしこれも捨て難い。』

ミアも真剣にどっちにするか悩んでいたので


「気に入ったなら両方買うと良い、なんなら2~3着買っても良いよ。」

「え?良いんですか?」

と、大喜びで2着買う事に決めて、更にもう1着を選び始めた。


メイはメイで服には全く興味が無さそうだ、『ヴィルトカッツェ』に居た時はもっとちゃんとした服装をしていたハズなのだが。


「デルマに言われた服を着ないと、フライドポテト食べられなかったね。」

そう言う事か、デルマも苦労したみたいだな。こっちで甘やかすとデルマに叱られそうだ。店員さんにメイに似合いそうな服を見繕って貰って、メイに言う。


「こっちでもちゃんと服を着ないとフライドポテト無しだからな。」

そう言うとメイはあからさまに嫌そうな顔をしたが、わがままは許さない。

こうしてスーとミアは其々3着ずつ、メイには2着には買って帰路に就いた。


────────────────────


私邸に戻った王女は勧誘に失敗したスーの事を考えていた。


何故、スーの様な達人級の技を持つ者があのような何処にでもいる様な、特に目立つ特徴もない普通の男の「剣」等と自称しておるのか?

あの男に弱みでも握られて脅されでもしているのか?もしそうなら王家の力で解決すれば良いだけなのだが、それ以外で一体どんな理由があるというのか?


スーを諦めきれない王女は自問自答を繰り返していた。


そんな折、王国からの使者が近日中に同盟国を訪問するという知らせが届いた。




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