新しい「刀」
宝剣「アレスーシュナイデン」が王国の宝となった経緯は邪神戦に由来する。
当時の勇者を支えるチームメンバー、「ドラグーン」となる戦士ヴァッカー、後の女神となる術者アンネリーゼ、その兄の魔導士ヴォールヴォレン、タンク役ゲーアルド、アタッカーのシュマールの5名。
そのシュマールがダンジョン攻略中に手に入れ、自ら名付けた剣が「アレスーシュナイデン」。
当時の邪神戦では王城の正門をシュマールただ一人で守り抜き、1000体以上の魔物を切り伏せても刃こぼれ一つしなかった愛刀が「砕けぬ精神」の証として、王国に祭り上げられるに至ったそうだ。
シュマールは戦後に王国近衛騎士団長としての任に着き、その子孫が代々団長を務めて来るべき邪神戦に備え鍛錬の日々を過ごしているということだ。
そんな由緒ある王国の宝剣をこのままスーフェイが所持し続けるのは問題になるのではないか?王国に返上するのが良いのでは?等の意見も出たが、フリッツが言う
「でも、これをスーの兄さんが彼女に託した真意が不明だ。」
シオンが囚われの少女たちを救う為に、予め街の衛兵に連絡をとりアジトの捜索に合わせて命がけで盗賊たちと戦い時間を稼いだことは既に判明している。
王国へ返す事が目的なら、衛兵に盗賊たちの犯罪の証拠として提出すれば良いだけだ。その方が確実なのにそうしなかったのは、別の目的があったのではないか?
「これを王国に戻すのは、様子を見た方が良いだろうな。」
いつから王国の手を離れたのかは不明だが、今まで捜索をした形跡もないのはおかしい、紛失したのを公に出来ないという理由も思いつくがどこか変だ。
「スーが『宝剣』を持つ事が盗賊の取り調べで解るのは時間の問題だろうな。」
アレックスが心配そうに言う。そうだ、あのイレーネは明らかに何かを知っている。
彼女がそのことを喋ってしまえばすぐにでもスーの身柄を抑えに動くかもしれない。
「これは保管しといて、別の「刀」を用意した方が良いようだね。」
女将さんがそう言うと、酒場の奥の戸棚から何やら物音がした。何かが戸棚の中で動いたような音だが、それが止むとかすかに耳鳴りの様な金属音が聞こえてきた。
「・・・ちょっと、まさか・・・そんな事が・・・?」
女将さんの表情が困惑している、一体何が起ころうとしているのか?
女将さんが戸棚に行き、扉を開けてそこから刀袋に入った一本の「刀」を取り出した。刀袋から取り出された刀は幾分古びてはいるものの、大業物としての威容を示していた。今ははっきりとこの刀が音を発しているのが解る。
「・・・お嬢ちゃん、この刀が連れて行ってくれってさ。」
スーフェイが差し出された刀を受け取ると、それまでの音がピタリと止んだ。
「この刀、アンタが宝剣を手放すことを決めた途端に自己主張したようだね。」
俺を使ってくれ、あんたの未来に一緒に連れてってくれってね。
スーフェイは刀に請われるまま鯉口を切って抜いてみる、今までの刀とは流石に感触が違うが悪くない。いや、見る見るうちに手に馴染んでくる、軽く柄を握りな直すと重さも長さもこれ以上の物が無いように思えてきた。
「この刀、あんたに気に入られようと必死なのさ。」
女将さんが笑いながら言う。刀が主を選ぶ、そんな事があるのだろうか?
そうしている内に「へし切長谷部」の方が音を立て始めた、コイツも何か主張しているのだろうか?女将さんは少し驚きを表情に浮かべたがスーフェイに言った。
「こっちはアンタにお別れを言ってるんだね、今までありがとう、ってね。」
『アレス-シュナイデン』と名付けられた「へし切長谷部」はスーフェイに危害が及ばぬ様、自ら身を引いた形をとった様だと女将さんは言う。
『そうか、刀にも『神』は宿っているんだ。』
俺が今までこちらの世界で様々な神の助力を得てここまでやってきたが、状況はそれと同じだ。スーフェイが「へし切長谷部」を兄の形見の様に思い大切に扱ってきたのなら、その思いに神が応えるのも当然の世界なのだ。
そして、この戸棚の中で眠っていた刀にもそれまでの所有者の思いによって宿った神が、新たな所有者を求めてスーフェイを呼ぶのもまた当然だったんだ。
スーフェイは今まで使っていた「アレス-シュナイデン」を掲げ黙祷をすると、優しい手つきで女将さんに手渡した。
「この刀をお願いします。」
女将さんは優しく頷き、手にした刀を刀袋に入れて戸棚の中へと仕舞いこんだ。
剣の由来など全く興味の無かったアキラとメイだったが、刀がスーフェイを主に選んだやり取りや、持ち主の安全のために身を引く姿を見ていて神妙な表情をしていた。
彼らにとってスーフェイは「竜の加護」を授けられた敬うべき貴人であり、そのスーフェイが剣から主に選ばれる様に、彼女への畏敬の念が更に深まる事になった。
扉を閉めて戻って来た女将さんはジアップに言う。
「この刀の拵大至急作れるかい?」
「ああ、任せておけ『アレス-シュナイデン」と瓜二つに設えて見せるとも。」
ジアップはスーフェイの新たな刀を受け取ると彫金ギルドへ向かった。
「女将さん、あの刀の銘はなんて云うんですか?」
スーフェイが問うと女将さんが少し考えて答えた。
「本来は別の名前だったんだけどね、発音しにくい名前だったんだ。」
以前の持ち主が『とても自分では扱えないし、扱えるものが居るとも思えない。』と言い持ち込んだ時に、名前を聞いたが発音できずその意味を聞いたところ、『千羽の鳥』って意味だって言ってたから、あたしらはこう呼んでたんだ。
「『タウゼント フォーゲル』って仮の名前でね。」
『1000羽の鳥』・・・小さな力の弱い小鳥が大勢集まって支えあうと言う事か。
『ヴィルトカッツェ』に通ずる物があるな、良い名前だと素直に思える。
「もちろん、仮だからアンタが気に入った銘を付ければいいさ。」
その方がこの刀も喜ぶよ、と女将さんがそう勧めた。
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数日後、盗賊たちの取り調べをしていた衛兵たちがやって来た。
スーフェイの持つ「刀」が王国の宝剣ではないかとの疑いで来たそうだ。
スーフェイは腰に佩いていた刀を衛兵に差し出すと、衛兵は連れてきていた剣職人に手渡し、剣職人はその刀を丁寧に分解し中身を改めた。
「この剣には異国の文字も、消した跡も無いようですな。宝剣ではありません。」
そう言って再び拵を元通りにした後、丁寧に扱ってスーフェイに返した。
『やはり盗賊の言う事など当てになりませんな。』衛兵はそう言いながら、自分たちに課された任務を完了させて報告の為に戻って行った。
これでスーフェイの疑いは晴れたし、王国の宝剣の行方も当分は闇の中だ。
しかし、盗賊と宝剣の関係といった疑問は全く晴れず、疑惑が深まる一方だ。
そしてフリッツは奴らの言葉を思い返し、さらなる疑惑を感じ取っていた。
「あいつら『押収品の中にも無かった』ってどうやって知ったんだ?」




