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八百万の神々と千年王国の竜  作者: 涼城 鈴那
鉱山都市と管狐の三姉妹

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「刀」の正体

スーフェイは愛刀を鞘に納め、メイド服の腰に佩いた。

先ほどまでは相手から隠す為に刀袋に入れてその手に提げていたが、やはり腰に佩いていないと違和感がある。兄、シオンが残して呉れた形見ともいえる刀だ。


ドワーフ達に拘束されるヘルムートは悔し紛れに言い残す。


「シオンが邪魔しなければ、お前は今頃貴族様の暮らしが出来てたんだぞ!?」

「・・・そんなものに興味は無い。」

「・・・あの恩知らずにトドメを刺したのは・・・・この俺だ!」

ヘルムートがそう言った瞬間、その眼前を凄まじい速さで剣先が走り、右の頬から左の額までを両断された錯覚に陥ったヘルムートは白目をむいて仰向けに気絶した。


「ウァーレン殿下の館で血を流すわけにはいかないからな、感謝しろ。」

スーフェイはそう呟くと再び刀を鞘に納めた。


「ほう、凄まじい剣圧だな・・・お前、名は?」

王女はスーフェイの剣技に感心し、使い手の名前を確認する。


「・・・スーです。エヴァルトラウティ王女殿下。」

「スー、か。覚えておこう。」

王女とスーフェイのやり取りの中、イレーネが拘束を振りほどこうと暴れ叫んだ。


「スー!その剣!シオンからお前に託されていたんだね!?」

スーフェイはイレーネをひと時冷たく見つめ、それ以降は無視しようとした。


「押収物の中にもアジトにも見つからなかったのはそう言う事だったんだね!その剣が無くなったお陰であたしらはどれだけ酷い目に合った事か!?」

喚くイレーネに『私たち以上に酷い目に合う事などあるか。』とつぶやき、完全に無視を決め込む。


そして屈強なドワーフ達に拘束された二人は邸外に待つ護送用の馬車に乗せられた。

それを見送る俺達、そしてフリッツはスーフェイに言った。


「殺したかったろうけど、余罪を吐かせないといけないし、よく我慢したね。」

「・・・殺したところでお兄ちゃんは帰ってこないしね。」

それに私なりの罰は与えた・・・スーフェイの呟きは誰にも聞こえなかった。




護送車の中で気絶していたはずのヘルムートがいきなり叫んで飛び起きた。

その顔の右の頬から左の額にかけての皮膚が裂け、鮮血が噴き出していた。


「うおぉ!なんじゃコイツ!?血が噴き出しとるぞ!?」

「いつの間にこんな怪我をしたんじゃコイツ!?」

護送車の中は一気に騒然としたが、只一人エヴァルトラウティのみ思い出していた。


『殿下の館で血を流すわけにはいかない。』、あの時のスーの言葉だった。


そういう意味であったか、なんとも凄まじい技量を持った女であろうか・・・。

エヴァルトラウティはいかにも楽しそうに周りに気付かれぬ様小さく笑った。



────────────────────


『その剣、シオンから託されていたんだね!?』

イレーネの最後の言葉に疑念を抱いた俺達は、スーフェイの持つ刀に何か謂れがあるのだろうかとそれを確かめる為、いつもの酒場に集まっていた。


本当は鍛冶ギルドの第一人者のジアップに相談に行ったのだが、ジアップが

「そう言う事なら、酒場で集まったほうが良いな。」

と言ったので、こちらの酒場へと集まった次第だ。最初は単に酒が飲みたいからなのかとも思ったが、ジアップは酒も飲まずに至って真剣である。


テーブルに置かれたスーフェイの「刀」に皆が注目する中、ジアップが丁寧に刀身を鞘から抜いた。そして柄の上部の横に細い棒を当てて目釘を抜く。

柄を握った左手を右手で何度か叩いたのちに、柄から浮いた刀身を丁寧に引き抜く。


「この部分に異国の文字が書かれておるんじゃが、女将さん見てくれるか?」

ジアップが酒場の女将さんに助けを求めた、刀の鑑定に酒場を選んだのはこの為か。

女将さんが刀身に触れないようにして茎部分に彫られた異国の文字を確認する。


「・・・ちょっと・・・何で?・・・こんな物がこんな処に・・・?」

女将さんが明らかに動揺していた、二度、三度と改めるが間違いないらしい。


「これ、王国の宝剣『アレス-シュナイデン』だ、間違いない。」


その言葉に俺以外のここに集まった全員が驚愕し、言葉を失ってしまった。


この世界の人間にとってはとんでもない『宝剣』という事か、見た目はどう見ても『日本刀』だし茎に書かれた文字もここから見える限りでは漢字の様に見える。

俺からは少し距離がある為「桜」を使って宝剣の茎の文字を確認してみた。


表になっている面の文字は『長谷部国重 本阿』の金文字が見える、反対側には『黒田筑前守』の文字が見て取れた・・・・って?・・・これ、もしかして!?


『へし切長谷部』か!?皆より遅れて一人俺が驚愕する事になった。


────────────────────



  『へし切長谷部』


織田信長に無礼を働いて棚の下に逃げた茶坊主の胴体を、刀身を押し当ててそのまま押し切ったとされる大切れ物に『へし切長谷部』の名がついたとされる。


「へし切長谷部」は織田信長から黒田官兵衛孝高に下賜され黒田家の家宝となる。

その後、黒田長政の死の間際に四男の官兵衛高政が、長政写しの兜「一の谷形兜」と共に受け継ぎ、遠蓮寺黒田家の家宝となる。後年、遠蓮寺三代藩主長寛が黒田本家を継いだ事で黒田本家の家宝に返り咲き、幕末まで至る。


妹の鈴香の誕生日に何が欲しいか聞いたところ『へし切長谷部の模造刀』とリクエストされ、何でそんなものが欲しいんだろうと調べて得た知識だ。

信長か官兵衛が好きなのかと思いつつネットで購入した『へし切長谷部』の模造刀を渡したところ、『推しだ』と言われた、刀が『推し』とか何を考えてるんだ?


という事で、スーフェイと鈴香との「へし切長谷部を所有」という共通点がまた増えてしまった。一人の女性としてよりどうしても妹の姿とダブってしまうし、そう思ってしまうと余計に放っておけない。



「・・・一体なんで王国の宝剣があんな盗賊団の手に渡ったんだ?」

「本来は王国所有で有事の際に近衛騎士団長に貸与される門外不出の剣だぞ?」

「・・・あんな小悪党が盗めるような杜撰な管理はされてないはず。」


この場に居合わせた者で、この宝剣の由来を知っている者は宝剣を見つめたまま、一体何が起きているのか混乱しているのだが、そうでない者は全く無関心だ。

暁様は興味も無さそうに無言で見つめているし、アキラはただ暁様の傍に控えている、そしてメイはただひたすら厨房の奥をそわそわしながら覗いている。


そう、今ここにはメイも居る。飛行艇に乗ってしばらくした処でメイが一緒に居る事に気付いたが、今更引き返すわけにもいかずそのままくっ付いて来たのだ。

当の本人は最初からその積りだったようで、『ヴィルトカッツェ』の外で遠吠えをして、代わりのグレートウルフの手配はしてきたらしい。


なんで付いて来たのか聞くと『マサキといれば飲み放題で食べ放題』らしいと吟遊詩人の唄で聞いたからだそうだ。

まぁ、俺を軽んじる事この上ないアキラと比べたら、普通に接してくれるから食い扶持くらいは面倒見てやるが、今はそれどころではない非常事態だ。


この「刀」持ってるだけでヤバいのではなかろうか?





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