過去との対決
「みんな、私は今からマサキと共に同盟国へ行ってくる。」
スーフェイは屈託のない笑みを浮かべて、店内の酔客達にそう宣言した。
それまで俺はデルマに首を絞められ、ナディアに髪の毛を引っ張られ、他の者から足蹴にされ、メイから脇をくすぐられたりと酷い扱いを受けていた。
皆、スーフェイの纏ったそれまでとは違った雰囲気にやっと矛を収めた。
「スー、あんた一つ殻を破ったみたいだね。」
デルマの言葉に、頷くスーフェイ。
「うん、心のつかえが取れたように感じてる。」
「・・・そうかい、気を付けて行くんだよ。」
デルマがスーフェイを抱きしめ、耳元で何やら囁いた様だ、それは良いとして・・・
「おい!お前ら!やりたい放題してくれた俺には詫びは無いのかよ!」
勝手に勘違いして、散々いじってくれた件には誰も触れようとしない、無視かよ!
「いや、兄さんが姉さんを泣かせたのかと勘違いしたんだ、ゴメン!」
「そうそう、姉さんが泣き顔で出て来たからつい、ね。」
皆、バツが悪そうに言い訳をしてきたが、俺がスーフェイを泣かすわけないだろ!
「俺がそんな事するか!スーフェイは大事な妹みたいなものだからな!」
そう言った途端に、俺に対し再び怒号と罵声が浴びせられた。
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「偉く騒がしいが、まだ終わらんのか?」
そう言ってドアを開けて店内に入って来たのは、アキラだった。
「アキラ、あなたも来てたの?」
スーフェイがアキラに声を掛けると、アキラは姿勢を正して至極慇懃に
「はい、スー様。不本意ながらこの男を背にのせ此処までやって参りました。」
「おい!不本意って何だよ!」
「そのままの意味だ、暁様の命でなければ誰が貴様など。」
いちいち腹が立つ奴だが、今はそんな事で揉めてる場合じゃない、同盟国へ戻らなければならないのだ。
「メイ!スーフェイとミアを乗せて連れてきてくれるか!?」
「リョーカイです!準備するからチョット待ってて下さい!」
メイが返事をしつつ立ち上がる、フライドポテトの乗った皿を片手に持って摘まみながら表に出て行き、そして一声遠吠えが聞こえたかと思うとすぐに静かになった。
アキラとスーフェイ、ミアと共に表に出ると白狼の姿をしたメイが、皿に盛られたポテトをがっついている処だった。
俺を背に乗せるのは不本意らしいアキラも銀狼の姿を取る、俺はアキラの背に乗り、スーフェイとミアはメイの背に乗った。
「よし!アキラ、元来た道を戻れ!」
『偉そうに言わんでも解っておる!』
俺達は大通りを徐行して進み、街を抜け街道に出た処で一気に駆け出した。
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俺達は街道を南へと駆け抜ける。ミアがふと疑問を口にする。
「あれ?兄さん同盟国なら北に進むんじゃないの?」
「ああ、南の海から船に乗るんだ。」
「船で行ったら遅いし遠回りにならない?」
確かに港に行って船に乗っていたら、下手をすりゃ丸2日以上かかってしまう。
「もうすぐ、俺達の乗って来た船が見えてくる。」
俺はそう答え、それからしばらく進むと右手に海が見えて来た。
「ほら。見えて来た。あれだ。」
其処は港ではなく普通の海岸線で、波打ち際に一風変わった船が停泊していた。
アキラはその船に向かって進み、砂浜に出た処で一気に甲板へ飛び上がった。
メイもそれに続いて甲板へ飛ぶ、甲板上にはドワーフ達が待っていた。
「おお!マサキが戻って来た!」
「誰じゃその別嬪さんは!?マサキには勿体ない位の美人さんじゃな?」
ドワーフ達が口々に俺の帰還を歓迎する。
「みんな、待たせたな!すぐ出れるか!?」
「おう!いつでも行けるぞ!」
「マサキが良いならすぐに出発じゃ!」
やがて飛行艇の回転翼が勢いを増して動き出し、ゆっくりと浮かぶと推進翼も回転し徐々に速度と高度を上げていった。
「兄さん!これ船じゃないの!?」
「マサキ!なんなのこの船!?」
「最新の飛行艇だ!これなら同盟国まで一時間ちょっとで辿り着ける!」
俺達は来たときと同じ航路を同盟国へと突き進んで行った。
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翌日、俺達は再び王子殿下の邸宅の門前に立っていた。
今回は俺とフリッツ、セルティアとメイド2人の計5人での訪問だ。
門の衛兵に来訪の要件を伝えると、顔に傷のある執事が再度迎えに出て来た。
「ご用件は伺っております。さ、中へどうぞ。」
執事の案内で俺達は応接室へと通された、殿下が外出中なのは確認済みだ。
ソファへ座る俺とフリッツ、セルティア。メイド2人は傍らに控える。
執事は『殿下の名代として応対しますので失礼』と言い、向かいのソファに腰を掛けた、部屋に幼いメイド見習い二人とメイド長が入ってきて、テーブルの上にティーカップを並べていく。
「殿下から、書類の内容の説明を聞いて置くよう言われております。」
フリッツが傍らののメイドに頷くと、彼女は手に持った封書を手渡した。
「先ずはこちらの書類の内容をご確認ください。」
そう言ってフリッツはテーブルに数枚の書類を執事から見える位置に置いた。
『拝見します。』そう言って、書類を手に取った執事だが内容に目を通す内にその表情が、徐々に険しくなっていく。
「・・・ヘルムート、イレーネ、両名を人身売買の疑いで拘束する・・・?」
その言葉を聞いたメイド長はその表情を強張らせる。
「これは何かの間違いでしょう?我々は正式な手続きの彼女らを派遣して・・・」
「今回の件もありますが、あなた達は過去にも人身売買を行っていますね?」
「・・・私達には何の心当たりが御座いませんが・・・?」
顔色も変えずにしらを切ろうとする執事ヘルムート、フリッツは更に追及する。
「過去の件は誘拐も含めた悪質極まりないものだ、罪は償って貰おう。」
「・・・なんの証拠も無いのに一方的過ぎませんでしょうか?」
あくまでとぼける執事に、にこやかに言うフリッツ。
「証拠よりも言い逃れのし様がない証人が居るんですよ、残念ですが。」
「証人・・・?」
ヘルムートが訝しげにそう言った瞬間、テーブル上のカップが真っ二つに弾けた。
「貴様らに叩きこまれた剣技、いまやこれ程までに上達したぞ!」
ヘッドドレスをかなぐり捨て、愛刀を構えたメイド姿も麗しいスーフェイが二人を冷たく見つめる。
「お前!スーか!?生きていたのか!?」
「スー!?お前、その『刀』を!?」
ヘルムートとイレーネの二人が『スー』の名前を口にした時、部屋のドアが勢いよく開き重武装のドワーフ達が素早く、整然となだれ込んできた。
「証人の名を知っているとは、動かぬ証拠じゃな?」
そう言ったのは重武装の集団の最前列に立つ、赤い癖のある長い髪を後ろで束ね、白銀の甲冑にその身を包んだ一人のドワーフの美女だった。
「貴様らを『王女エヴァルトラウティ』の名において拘束する。」
同盟国エヴァルトラウティ王女がその威厳を示し、高らかに宣言した。




