ミアの告白
久し振りの『ヴィルトカッツェ』の店内は満員電車並みの混雑だった。
「何やってんだみんな?」」
一声疑問を呈しただけなのに数10倍の返事が返って来た、中には俺を罵倒するような声まであるようだが、皆一斉に騒ぐので混沌とした状況になっている。
「兄さん同盟国で一体何やってんの!?」
「同盟国でも人助けお疲れ様です!」
「100人の美女って本当なんですか!?」
「今度一緒にカジノ行きましょう!ね!ね?」
親鳥が餌を持って帰るのを待ってる小鳥のように一斉に騒ぐから、何も聞き取れない。聖徳太子だって聞き取れないぞこれは!?
「あー、煩い!スーフェイ居るか!?居ないのか!?」
周りを見渡すがいつもの白い甲冑姿が何処にも見えない、この喧騒を嫌ってどこかに出かけてるのか、あいつはこういった賑やかな場所は嫌いだろうしな。
「邪魔したな!スーフェイを探してくる!」
「おい!マサキ!私はここに居る!」
すぐ近くでスーフェイの声が聞こえた・・・はずなのだが、甲冑姿は何処にもない。
代わりに白いブラウス、黒いスカートの美女が立ち上がる・・・あれ?スーフェイ?
「お前は何処を見てるんだ!?それとも美女100人に囲まれて私を忘れたか!?」
「あれ?スーフェイ?なんか凄い綺麗になったな?」
「!?ばっ・・・か・・・」
「マサキ!そういう時は少しは照れながら言うもんだよ!?」
デルマからツッコミが入った。そんなものなのか?まぁ今は非常事態だ。
「スーフェイに見てもらいたいものがある、ちょっと良いか?」
「ここじゃ騒がしいから厨房行きな、厨房!」
デルマに促され、スーフェイと共に厨房へ押し込まれた。
厨房では料理長のミア筆頭に数人が忙しく料理を作ってる最中だった。
「あれ?兄さんお帰りなさい?」
「やぁミア、ちょっとスーフェイに用が有ってね。」
厨房の椅子に座るスーフェイに俺は取り出したスマホの画面を見せた。
「ちょっとコイツを見て欲しいんだ。」
画面には例の傷の男が大写しになっている、イレーネの画像もスライドすれば見れる。『なんだこれは?』と言いながら画面を見たスーフェイだが
「なんか凄く精密な絵だな、誰が描いたんだ?」
「あ、本当。見た事ない位、細かい絵だね、生きてるみたい。」
「あ、横に動いた。って今度は女の人の絵だ、こっちも細かい。」
厨房の子らも興味津々にスマホを見ているが、画像の人物を判別してる訳ではなく、『精密な絵が映る黒い板』の存在の方に気を取られている。考えてみたらそっちの方が不思議と言えば不思議か。
「ちょっと待って。」
と言ってスマホを受け取りカメラを起動して、こちらを見つめるスーフェイの写真を撮り、その画像を液晶に映して改めて見せる。
「え?これ姉さん?」
「あ、本当!姉さんだ、どうしたのコレ?」
「え?これ私?」
ようやく皆、これが人の姿を映せる不思議な板だと理解してくれたようだ。
改めて傷の男の画像を表示し、『コイツに見覚えはないか?』そう尋ねた、すると
「!?あ・・・コイツは!?」
「あ!これ、盗賊団の頭!!」
そう叫んだのは、スーフェイではなくミアだった。
思わず顔を見合わせる俺とスーフェイ、一体どういうことだ!?
「ミア!?なんでお前がコイツを知ってるんだ?」
「ミア、どういう事?」
俺とスーフェイに聞かれて、一瞬言葉に詰まった様子だったが
「私、こいつ等に誘拐されて監禁されてたんです・・・。」
辛い思い出が蘇ったのか、ミアは泣きながらそう答えた。
俺とスーフェイは意外な展開に言葉を失った。
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ミアは、物心が着いた頃から優しい行商人の両親と共に、街から街への旅をする生活の中で成長していた。10歳を数える頃には自分から母親に料理を教わり。何かと忙しい両親に変わって簡単な料理が出来るまでになっていた。
あれはミアが13歳の頃、両親と新しい街に辿り着いた際に、両親がその街で行商をする為の手続きで彼女から離れた隙に、ミアは盗賊団に攫われてしまった。
山奥の廃屋の様な隠れ家に数人の同じような年頃の少女と一緒に監禁され、泣いても喚いても解放される事は無く、来る日も来る日も盗賊たちの言われるままに雑用や作業に従事させられていた。
ある程度の年齢になると何処かの娼館に売り飛ばされるらしいと少女たちの間で噂になっていたが、それは高く売れるある程度器量の良い娘で、そうでない娘は様々な雑用でこき使われるだけだった、
ミアは料理が出来るという事で、他の少女達とは違って少しはマシな待遇を受けていた。料理が出来る間は皆の様な辛い仕事に就かなくて済むと解ったミアは、料理の腕を上げる為に試行錯誤を繰り返し、優れた技術を手に入れる事になった。
こんなつらい生活の中でも、ミアより6~7歳上と思われる一人の青年が他の盗賊の目を盗んで夜中に食べ物を差し入れてくれる事が良くあった。
盗賊の仲間とは思えないその立ち居振る舞いと『必ず助けは来る』『決して諦めるな』と、励ましてくれる優しい声に囚われの者たちは少なくない勇気を貰っていた。
そしてある夜遅い時間、隠れ家の入り口が騒がしくなったかと思えば、盗賊達の怒声が響き、激しく争う物音、物が壊れる音がして、やがて静かになった。
『コイツ、裏切りやがった』『たった一人で何を考えてやがったんだ?』
喧騒が収まってしばらくした後に、再び隠れ家はさらに激しく争う物音に包まれた。
やがてその喧騒も収まると、彼女らが閉じ込められていた部屋のドアが開き、幾人もの衛兵がなだれ込んできた。
「おい!こっちだ!」「君たち!ケガはないか!?」
衛兵たちに助け出された彼女らは、あの青年の言う通りに助けが来た事を泣きながら喜んだが、部屋の外で多数の刀傷を受け遺体となった青年と再会する事となった。
「・・・優しいお兄さんが私達を命を懸けて・・・助けてくれたんです。」
辛い記憶が蘇ったのか、ミアは嗚咽を漏らしながらなんとかそれだけ告げた。
一方のスーフェイも両手で顔を覆って、肩を震わせている。
「・・・お兄ちゃん・・・みんなを助ける為に・・・。」
その言葉に今度はミアが驚愕する、すでに嗚咽は止まり信じられない物を見る目でスーを見つめる。
「お兄ちゃんって・・・スー姉さんの、お兄さん?・・・そんな・・・」
ミアはスーフェイに抱き着き再び号泣し始めた、スーもミアを優しく抱きしめる。
そうだったのか、スーフェイを助ける為だけではなく、囚われの少女達を救う為にスーの兄、シオンはその命を投げ出したんだ。
『何故、私と来てくれなかったのか?』『何故、私を一人ぼっちにしたのか?』と、スーフェイの心の中に澱の様に残っていた物が、今消えようとしていた。
スーフェイは一頻り泣いた後に、ミアの頭を優しく撫でて俺に向き合った。
「お兄ちゃんは自分の命を、多くの弱き者を救う為の代償に使ったんだね。」
スーフェイはいつもの口調ではなく、15歳の頃のそれでそう言った。
彼女の心の中で引っかかっていた兄への思いが別の形に変化した様だった。
「お兄ちゃんの思いは私が継ぐ、あいつ等に引導を渡すのは私がやる。」
スーフェイは兄が残して呉れた愛用の刀を引っ提げて立ち上がった。
「マサキ、私をそいつらの所に連れて行って。」
そう言うスーフェイの表情にはそれまであった僅かな陰の様なものが消えていた。
兄の意思を継ぐと覚悟を決め、陰が消えた姿は恐ろしいまでの美しさがあった。
「私も着いて行きます!」
ミアもそう宣言する、自分達を苦しめた者達の結末を見届けたいと言う。
「よし、じゃあ、皆で行くぞ。」
そう言って俺達は厨房を出て、未だ騒然とする店内へと戻った。
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皆の視線が集中する中そこへ戻った俺達3人、その途端。
「あー!なんでスー姉さん泣かしたんだこの野郎!」
「そんなに美女100人が良かったか!?この最低野郎!」
「あんた!女を泣かすなんて見損なったよ!」
「兄さんサイテー!」
店内の全員からの罵声と怒号を一斉に浴びせられ、皿まで投げられそうになった。
「ちょっと!落ち着けってお前ら!」
何故か怒り狂う皆と、困惑するばかりの俺、それを見て笑うスーフェイとミア。
2人とも笑ってないで止めてくれ!




