IT‘S SHOWTIME !!
絶望に打ちひしがれたディーラーだったが、周りの騒ぎに我に返る事になった。
「なぁ!アンタ!100倍は勘弁してくれるんだよな!な!?」
ダイスでの掛け金が100倍の役「1-1-1」が出てしまった事実と、俺の言葉の『借金をチャラにしてくれれば良い。』を思い出し、かすかな希望を見出した。
「ああ、100倍なんて使いきれないし、借金が無くなればそれで良い。」
おれがそう言うや、俺の気が変わらないうちにと焦りつつ事務所に引っ込んだかと思えば、大量の借用書の束を抱えて戻って来た。
「これが借用書の全部だ、これで100倍は無し!な!?な!?」
100倍だと日本円で300億円以上の金額だ、それがこの借用書だけで済めば安いものだ。何しろ元はギャンブルで作った借金なのでカジノ側は金を貸したわけでは無い為、実質損はしていない事になる。
が、一応1600枚のシルバーチップ分は換金させてもらう、これにはこの後に大事な使い道があるからだ。カジノ側はイカサマの仕組みがバレていない為「また稼げば良い」と割り切って換金に応じた、一応程ほどにするように釘は指しておいたが。
「マサキよ、この後は何か用があるのか?」
「もし無ければせめて祝いの席を設けさせて貰いたいんじゃが?」
「そうそう、どこかの酒場で借金帳消しのお祝いさせて下さい。」
元債務者たちから、一緒にお祝いしようと誘いを受けた。
「ああ、じゃあ一つ頼みがあるんだけど、良いかな?」
俺がそう言うと彼らは快く引き受けてくれた。
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・・・・・今日もやっと危険な仕事が終わった。落盤事故で塞がった坑道を再び通れるようにする作業だが、皆再発を恐れて作業がなかなか進まない。
もし万一借金を残したまま作業中に死んでしまったら、残された家族に借金の取り立てが行ってしまう。
それだけはマズイ、これ以上家族がバラバラになるのは御免だ。
しかし一日働いて手にする給金も借金の利子を払ってしまえば食べるのがやっとの金額しか残らない。借金を完済するまであと十数年こんな生活が続くのか・・・。
今日も仕事帰りに酒場で飯を食わねばならんが、酒は飲めそうにもないな。
酒などこの数か月全く飲んでいない、ドワーフでありながら酒に縁が無いとは。
同様の境遇の仲間と4人で安い酒場を目指して鉱山から繁華街へと出た。
・・・何か今日は賑やかだな?なにか祭りでもあったか?いや、そんな時期ではないはずだが・・・?
何時もの閑散とした歓楽街が今日はどうしたことか、路上にまで所狭しとテーブルと椅子が設置されており、大勢の人々が賑やかに酒を飲んで美味そうな料理を喰らっているところに出くわした。
皆浴びるように酒を飲み、心の底から料理を楽しんでいる。見渡す限り屈託のない笑顔が広がっている。借金の無いやつは羨ましい生活をしているな・・・。
それに引き換え金のない俺達は、それを横目で見ながら何時もの安酒場を目指して黙々と歩くしかなかった。そこへ馴染みの鉱夫から声がかかった。
「おい!アヌマンここで一緒にやらんか!?」
「・・・悪いが金がない、また誘ってくれ。」
「あぁ、お前は知らんのか、これ全部タダなんだぞ!遠慮するな!」
「なんじゃと!?タダだと?どういう訳だ!?」
カジノで作ったわしらの借金を気前よく肩代わりしてくれた人が、大勝ちしたお祝いに繁華街の酒場を全部貸し切りにして
『今日勝った分を今日中に全部使い切るから協力してくれ!』
道行く人は誰だろうと構わないから喰って飲んでくれと言い出した?
なんだそれは?
「あ、アヌマン!お前も借金有ったよな?お前も中央広場に行け!」
「中央広場?なんじゃ何があるんじゃ?」
借金がある奴は行けば解るから行ってこい!と言われ借金持ちのわし達4人は酒盛りで賑やかしいテーブルの間を抜けて中央広場へと急いだ。
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中央広場では一際賑やかな宴が催されていた。
広場にも所狭しとテーブルが並べられていたが中央に一段高く備え付けられたテーブルがあり、その壇上にはマサキと4人のドワーフが登り、段の下には何人かのドワーフが並んでいた。
「次!アヌラック居るか!?」
壇上のドワーフが良く通る大声で叫ぶ。
「おう!儂じゃ!」
呼ばれたドワーフが勢いよく立ち上がり段の下の列に並ぶ。
「よし、チャイヤ壇上に上がれ!」
「おう!」勢いよく段に上がる。
「チャイヤ!借金額、金貨20枚!間違いないか!?」
「おう!その通り!借金20枚間違いない!」
そう言ったチャイヤに借用書が渡され、チャイヤはそれを盛大に破り捨て叫ぶ
「母ちゃん!黙って借金してて悪かったーーーーーーーーー!!」
「アンタ!借金無くなったから良いものの、今度やったらお仕置きだよ!」
「以後気を付けます!!」
夫婦のやり取りに周囲は爆笑する、このやり取りも酒の肴の笑い話となっていく。
チャイヤはマサキと感謝の握手をして妻の待つ自分の席へと戻って行く。
「次!カイムック!」
「おう!俺だ!」
「カイムック!借金額、金貨2枚!間違いないか!?」
「間違いなしだ!」
同じく借用書が手渡されて、悔しそうに破り捨てて叫んだ。
「あーーーー!もっと借金しときゃ良かったーーーーーーーー!」
何馬鹿なこと言っとるんだ、この馬鹿!借金など無い方が良いんだボケ!等と周囲から揶揄われつつそれでも悔しそうに席に戻るカイムック。
酒場の中から料理を両手に若い娘が幾人も現れテーブルに配膳していく。
「おい、姉ちゃん、一緒に飲まんか?」
酔ったドワーフから掛かった声にいちいち反応するが
「あたしらひと月分の給金より多いチップを先に貰ってんの!そんな暇あるか!」
「そうそう、今日は夜明けまで忙しいんだから話しかけんな酔っ払い!」
駆け足で酒場に戻る娘らと入れ替えに荷車が食材を満載して到着する。
「注文の材料持ってきたよ!あと何か必要なものは!?」
「なんでも良いから持ってきて!あ、肉肉!鳥でも猪でも良し!」
「酒は!?後から酒樽5駄来るよ!」
「全然足んない!10駄持ってきて!」
マサキの背後で女性二人が料理と酒を嗜みつつ、なにやら計算している。
「マサキさん!このペースじゃ金貨16000枚夜明けまでに使い切れないよ!」
「え?そうなの?なんか使い切る方法無いかな!?」
「あ!吟遊詩人と楽団呼びましょう!そこら中で演奏させれば足しになりそう!」
「酒は十分ですから女性用に何か甘いもの、デザート取り寄せます!」
「あ!それ良いな!手配お願い!」
壇上のドワーフも酒と料理をつまみながら借用書の返済イベントを継続している。
「ジアップ!皆にもっと飲むように煽ってくれるか!?」
おう!煽るぜマサキ!とジアップが応える。
「お前ら酒の飲み方全然足んねーぞ!ドワーフの意地を見せねえか!」
「お前らまさか家に帰ってベッドで寝ようって魂胆じゃねーよな!?この場で飲みつぶれるのが俺達ドワーフだろうが!死ぬ気で飲め!」
ジアップの煽りに大歓声で応えるドワーフ達、宴はまだ始まったばかりだ。
その後、居住区の手の空いたドワーフ達も集められ宴は更に賑わい夜も更けていくが、かがり火と酒場の明かりは消えるどころか煌々と辺りを照らす。
途中から集められた吟遊詩人と楽団員も破格のチップを手渡されて、弦も切れんばかりの渾身の演奏が、大宴会を更に煌びやかなものへと変えて行った。
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夜明けまで一時間といった所だろうか、夜通し続いた宴も終わりが近づいて来た。
大半のドワーフ達が酔っ払い、其処ら中の路上や、椅子や卓の上で鼾をかいている。
まだ残って酒を飲んでいるドワーフはこの宴のスタッフを務めた者を含む20名程、それと酒場の従業員や、吟遊詩人と楽団員と言ったこの宴を裏方として支えてくれた面々の計90名程。皆、会話の届く範囲に集まって飲んでいる。
彼らは未だ多く残った料理をつつきながら酒を飲む、それは今回の宴の慰労会の様相を呈していた。お互いの働きを賞賛しあい、夜通し続いた宴が終焉を迎えるのを惜しみさえしていた。
「いやー、忙しかったけど楽しかったねー。」
「ホント、こんな走り回ったのって子供の時以来じゃない?」
「一晩中楽器を弾き続けたなんて、いい経験になりました。」
「この宴の件で新しい曲が出来そうですよ。」
皆が笑いながら思い出に残るであろうこの夜の宴を振り返っている。
「ところでマサキよ、金は使い切れたのか?」
一晩叫び続け、煽り続けたジアップがマサキに問う。
「それが後・・・2000枚だっけ?残っちゃったんだよなぁ。」
「それでも14000枚使ったなんて信じられませんよ。」
「関係各所に十分すぎる程お金が行き渡りましたね。良い事です。」
裏方で金貨の管理をしてくれていた女性スタッフも目標が達成できず残念そうだ。
「今日稼いだ金額分は全て飲みつくすのが、ドワーフの心意気だよな?」
「おいマサキ、お前はドワーフじゃなかろう?気にするな。」
「でもドワーフの国に来たならその考えは尊重したいしなぁ。」
「あ、そうだ」とマサキが何か思いついた。
マサキはカジノで使うカートに残った金貨を乗せると皆の間を回って
「今回手伝ってくれてありがとうな、手間賃代わりに取っといてくれ。」
そう言って彼らに金貨を20枚ずつ手渡して行った。
「ちょ、マサキの兄さん!あたしらもう十分チップ貰ってるよ?」
「そうだよ、ひと月分以上の金額貰ってるのに。」
「まぁまぁ、裏方だったから他の人たちみたいに十分楽しめなかっただろう?」
皆が居なければこの宴は成立しなかったんだから、これは俺の感謝の印だ。
そう言って彼ら一人一人に金貨を渡していく。
「マサキよ、わしらは手伝いもせずに最後まで飲んでただけじゃぞ?」
一晩中飲んで食べていただけのドワーフ達から辞退の申し出が出たが
「最後まで付き合ってくれたんだから、感謝してるんだ。貰ってくれ。」
そう言って全員に金貨を配っていく。
全員に配り終えた時、まだ手元に20枚ほど金貨が残ったがそれは近くで寝ているドワーフの懐にそっと入れて完全に手元から無くすことに成功した。
そしてやがて夜が明け、朝の光が射してきて今夜の宴が終わりを告げた。
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